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条件

「話は分かった。ただし、条件がある。」

 父の厳しい視線がリビングの空気を凍らせた。あゆみもすばるも思わずその視線に飲み込まれるようだった。


「教員採用試験に合格すること、それが一つ目だ。安定した職がないまま結婚なんて認められない。」

 父は冷静だが、鋭い声で続ける。「それと、同棲を続けろ。」


「同棲を続けるって……今も同棲してるのに、それを条件にする意味は?」

 あゆみは驚きに目を見開きながら問い返した。


「子どもがいる環境で夢を追うことの現実を、さらに深く理解しろ。理想論だけでは家庭は守れないんだ。」

 父の言葉は冷静ながら、容赦がなかった。「お前が言っているのは、甘い理想に過ぎない。」


 あゆみは反論しようと口を開いたが、言葉が出てこない。その隙を逃さず、父はさらに言葉を重ねた。


「あゆみ、夢を追うのは自由だ。でも現実を知らないままで結婚なんて無理だ。」

 父の声は冷たく、鋭かった。「家庭を守るには、現実的な基盤が必要なんだ。夢だけでは子どもも守れない。それがわからないなら、結婚する資格なんてない。」


 その言葉が、あゆみの胸に鋭く突き刺さる。彼女はこみ上げる感情を抑えきれず、声を上げた。


「私だって現実を知らないわけじゃない!子どもがいる生活がどんなに大変かも、少しはわかってるつもり……!」

 あゆみの声は震えながらも、必死に自分を主張しようとしていた。


「つもりで結婚できるほど甘くない!」

 父の声がその言葉を遮った。「お前の“つもり”じゃ、家庭は成り立たないんだ。」


 あゆみは言葉に詰まり、拳を握りしめた。その視線は父の強い目を捉えながらも、自分の中で湧き上がる迷いと葛藤を隠せなかった。


 リビングには沈黙が降りた。母は何も言わず、ただ視線を落としている。すばるも黙って状況を見守るしかなかった。


「……いいわ。」

 あゆみがぽつりと呟いた。視線を下げたままの彼女の言葉は小さいが、その中には確かな決意が込められていた。


「教員採用試験、絶対に合格するわ。そして、同棲だって続ける。」

 あゆみは拳を解き、父を見上げた。


 父は目を細め、あゆみをじっと見つめる。「それでいい。」

 だがその言葉の裏には、なおも変わらぬ疑念が潜んでいることがあゆみにも分かった。


「ただし……。」

 父が低い声で続けた。「その条件をクリアできなければ、結婚は認めない。」


 あゆみは強くうなずいた。その瞳には、迷いと決意が交錯していた。横に立つすばるが、彼女の肩にそっと手を置く。


「ありがとうございます。」

 すばるが父に向かって深々と頭を下げた。その言葉は父に向けたものでもあり、あゆみに向けた激励でもあった。


 母はその様子を見て、そっと息をついた。「お父さん、あの子たちに……少しだけ、信じる余地をあげてあげたらどう?」

 母の静かな言葉が、沈黙を少しだけ和らげた。


「条件は伝えた。それを守れるかどうか、見させてもらうだけだ。」

 父はそう言い残し、視線を逸らした。


 あゆみの胸に、重い試練の存在がのしかかる。しかし同時に、その壁を越えるための新たな決意が心に根付いた瞬間でもあった。



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