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選び取った未来

 


 休日の朝、あゆみとすばる、れんとりおはショッピングモールにいた。目的は、来年小学生になるれんのランドセルを選ぶことだった。店内には色とりどりのランドセルが並び、子どもたちの目を引いている。


「れん、どれがいいと思う?」


 すばるが聞くと、れんは真剣な表情で一つ一つを見比べた。りおはその横で「あたしもこれがいい!」と関係ないランドセルを指差してはしゃいでいる。


「お兄ちゃんが使うんだから、りおちゃんのじゃないんだよ。」れんは少し得意げに言いながら、自分の意見を主張する。


「これ、かっこいいと思う!」


 れんが選んだのは黒に近い紺色のランドセル。シンプルながらもスタイリッシュなデザインだ。


「似合うね。れんくんらしい選択だね。」あゆみが微笑むと、れんは照れたように顔を赤くした。


「これに決めた!お姉ちゃん、僕がこれを背負って学校行くとこ見ててよ!」


 その言葉に、あゆみは一瞬言葉を失った。れんが無邪気に言ったその一言が、彼女の胸に深く響いた。彼の未来に自分は存在していることが素直に喜ばしかった。





 帰り道、あゆみは助手席に座りながら、ふと過去の自分を思い出していた。


 ランドセルを選ぶ時、自分はどうだっただろう。記憶にあるのは、自分の意見をほとんど聞かれず、親に決められたランドセルをただ受け取ったことだ。


「これでいいわよね?」


 母のその一言に、当時のあゆみはただ頷くしかなかった。選ぶ自由なんてなかった。姉が選んだものと同じようなデザインを勧められ、断る理由もなかった。


「私は、ただ姉と同じように見られるだけの存在だった。」


 ランドセルを背負う姿も、おそらく姉の影として映っていたのだろう。何をしても、「お姉ちゃんみたいに頑張りなさい」と言われ続けた日々。自分が何を感じ、何を望むかなんて、誰も聞いてくれなかった。





 帰宅後、あゆみはリビングのソファに座り、静かに考え込んでいた。れんが選んだランドセルを思い浮かべる。


「これがいいって、自分で選んで、自分の未来を描けるなんて……。」


 その選択を堂々と宣言したれんの姿が、あゆみの心を動かしていた。自分が失った自由を、この子は持っている。そして、その自由を尊重してあげられる環境がここにある。


「私、この子たちと一緒にいられて、本当に幸せだ。」


 そう思った瞬間、りおが笑顔で駆け寄ってきた。


「あゆみちゃん、これ見て!お絵かきしたの!」


 りおが差し出した紙には、家族全員が描かれていた。真ん中に大きく描かれたのは、りおとれん、そしてあゆみとすばる。


「あゆみちゃん、私たちの家族だよね!」


 りおの無邪気な一言に、あゆみの胸が熱くなった。


「……ありがとう。そうだね、私たちは家族だよ。」


 そっとりおを抱きしめながら、あゆみは心の中で思った。


「私が選んだこの道が正しいかどうかは、最後までわからない。でも、それでもこの家族と一緒に未来を作りたい。」





 その夜、あゆみはリビングで一人、今日のことを振り返っていた。暗闇の中、わずかに漏れる台所の明かりが彼女の横顔を照らしている。


「普通じゃない道か……。」


 そう呟いたあゆみは、ふと高校時代の記憶を思い出した。何もかも「普通」であることを求められた日々。誰もが求める「普通」に従うことが当然だと思っていた自分。


 けれど、この家族と過ごす中で、彼女の中に少しずつ変化が生まれていた。


「壊れても、また作り直せばいい。」


 砂のお城を一緒に作った日のりおの声が、あゆみの心を温かく包む。


「私も、この家族の一部になれているのかな……。」


 思わず零れたその言葉に、自分自身が答えを返す。


「なれるよ。いや、もうなっている。」


 ランドセルを背負うれんの姿が浮かぶ。砂のお城を一緒に作るりおの笑顔が思い出される。そっと手を握り、支えてくれたすばるの温もりが蘇る。


 あゆみは静かに立ち上がり、窓の外を見つめた。


「私はこの家族と一緒に未来を作りたい。この選択が普通じゃないと言われても、私にとっての普通を作ればいい。」


 深く息を吸い込み、彼女は胸に新たな覚悟を刻んだ。


「すばるさん、子どもたち……私の未来は、ここにある。」


 そう心に誓いながら、あゆみは穏やかな笑みを浮かべ、ベッドに向かった。その表情には迷いはなかった。


「私が選び取った未来を、歩いていこう。」


 あゆみは希望を胸に、静かに目を閉じた。



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