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未来を思い描いて

 

 大学のカフェテリアは、昼休みの時間帯になるといつも賑わう。学生たちが食事を楽しみ、笑い声が響く中、あゆみ、奈緒、かずきの三人は隅のテーブルでランチを取っていた。


「ねえ、如月。最近どうなの?家のほうは。」

 奈緒がサラダをつつきながら尋ねる。


「まあ、慣れてきたよ。りおちゃんとかれんくんも可愛いしね。」

 あゆみはにっこりと笑いながら答えた。


「可愛いかあ。りおちゃんって、どんな子だっけ?」

 奈緒が興味津々に身を乗り出す。


「すごく無邪気で、元気いっぱい。でも、優しい子なんだ。こないだね、一緒に砂場で遊んだんだよ。」


「砂場?何して遊んだの?」

 かずきが不思議そうに尋ねる。


「あのね……砂のお城を作ったの。」

 あゆみの目が少し輝く。


「へえ、どんなお城だったの?」

 奈緒が目を輝かせてさらに質問する。


「あー、それはね……秘密!」

 あゆみは少し得意げな顔で笑った。


「なんだよ、それ。気になるだろ。」

 かずきが肩をすくめる。


「だって、大切な思い出なんだもん。」

 そう言いながら、あゆみはほんの少し頬を赤らめた。


「何それ、なんかずるい!」

 奈緒が不満そうに声を上げたが、その様子を見て三人は自然と笑い合った。





 話題が一段落したところで、奈緒がふと思い出したようにつぶやいた。


「そういえば、来年卒業だね。早いよね。」


 その言葉に、あゆみは手を止めた。卒業――その響きに少し現実感が湧かない。


「もうそんな時期なんだ……。」

 ぼんやりとつぶやきながら、手元のコーヒーカップを見つめる。


「で、あゆみは卒業後どうするの?」

 奈緒が身を乗り出して尋ねる。


「どうって……まあ、普通に考えたら――」

 言いかけたところで、奈緒が口を挟む。


「先生と結婚でしょ?」

 にやりと笑いながらからかうように言う。


「ちょっと!そういうこと言わないで!」

 あゆみは慌てて手を振り、顔を赤らめた。


「だって、同棲してるんでしょ?そろそろプロポーズとかされてもおかしくないんじゃない?」

 奈緒はさらに突っ込む。


「そ、それは……まだ何も……。」

 あゆみは言葉を詰まらせた。


「それとも、如月も先生に続いて教師目指すとか?」

 奈緒が真剣な顔を装って言うと、かずきが「それいいじゃん」と便乗した。


「あゆみ先生って響き、悪くないかも。」

 かずきが冗談っぽく言うと、あゆみは「もう、やめてよ!」と笑いながら軽く彼の肩を叩いた。





 和やかな時間が流れる中で、話題はさらに広がった。奈緒やかずきがそれぞれ卒業後の夢や計画を語る。就職活動の話や、これからの挑戦についての話題が次々に出てきた。


「私、海外でインターンしたいって思ってるの。」

 奈緒が目を輝かせながら言う。


「へえ、すごいじゃん。」

 かずきが感心したように頷く。


「あゆみも、何かやりたいことあるの?」


 奈緒にそう聞かれて、あゆみは少し考え込んだ。


「やりたいこと……そうだね。私は――」


 ふと、砂のお城を作ったときのりおの笑顔が頭をよぎった。そして、家族みんなで食卓を囲むあの温かな光景も。


「今は、すばるさんと一緒にいられる未来を大事にしたいって思うかな。」


 その言葉に、奈緒がにやりと笑った。


「つまり、結婚だね!」


「もう、だからそれは――」

 あゆみは再び赤くなって反論しようとするが、奈緒とかずきの笑い声に遮られてしまう。


「如月、幸せそうで何よりだな。」

 かずきが少し優しげな声で言った。


「……うん、ありがとう。」

 あゆみは静かに頷きながら、小さな微笑みを浮かべた。





 その夜、あゆみはベッドに横になりながら、砂のお城のことを思い出していた。


 りおの言葉が頭をよぎる。


「壊れたらまた作ろうね!壊れても、また作ればいいんだから!」


 その言葉には、大きな意味が込められている気がした。


「私も……壊れてもまた作ればいいんだ。」


 ふと、あゆみは手のひらを見つめた。これから築く家族の未来を、自分の手で守っていきたいという思いが静かに広がっていく。


「卒業……そして、その先の未来。」


 あゆみは、すばると共に歩む未来を思い描きながら、穏やかな表情で目を閉じた。



今回あゆみが何気なく語る「砂のお城」の思い出ですが、別サイトで公開していた短編の内容になります。

概要は以下になります。


家事や育児、何より自分の中で根付いていた「子どもが嫌い」という思いに次第に疲弊していくこととなる。

子どもに強く当たってしまう日や、

「子どもなんて邪魔な存在だ。」

「自分の時間を犠牲にしている感覚はあと何年も続くのではないか。」

「こんな気持ちで接していたら私のせいで家族が壊れてしまうかもしれない」

そんな思いが顔を出すようになっていた。


ある日、気分転換もかねてりおと二人で公園に行き、二人で砂場遊びをしたり、滑り台を滑ったりして過ごした。


「お城、できた!壊れないといいね!」


りおのその言葉が、あゆみの胸に深く響いた。


りおは無邪気に「壊れないといいね」と言っただけだろう。


しかし、あゆみにはその言葉が、まるで「この家族が壊れないように」と願う強い思いを込めているように聞こえた。


あゆみは砂のお城を見つめながら、しばらく無言で手を動かしていた。


りおが笑顔で「ここにお花を描いて!」と言ってきたとき、あゆみは優しく「うん」と答えたが、その心の中では、まだ家族が壊れてしまうのではないかという恐れが残っていた。


「この家族が壊れてしまうのではないか。私がここにいてもいいのだろうか。もし、私がいなくても、この家族は成り立つのではないだろうか?」


ふと、手を止めたあゆみは砂のお城をじっと見つめた。手のひらの中の砂は、簡単に崩れてしまうことを知っている。


しかし、その砂の粒一つ一つが、まるで家族を象徴するように感じられた。どんなに不安定で崩れやすくても、一つ一つの手間をかけて積み上げ、また作り直していける。それが家族であり、これからの自分たちだという気がした。


りおが目を輝かせて言った。


「このお城、壊れたらまた作ろうね!壊れても、また作ればいいんだから!」


その言葉に、あゆみは心から微笑んだ。「また作ればいい」という、りおの素直な希望が、あゆみの中で大きな意味を持つように感じられた。


もし家族の形が崩れそうになっても、また新しいものを作り、強くなっていける。そう思うと、あゆみの胸に希望の光が灯った。


あゆみは手を休め、りおが言った通り、砂のお城の崩れた部分を一緒に直した。


そのとき、あゆみは心の中でふと思った。


「家族が壊れてしまうかもしれない。でも、もし崩れたとしても、もう一度作り直せばいい。それが家族なんだ。」


その瞬間、あゆみは深く息を吸い込み、心を落ち着けた。


りおが言った。


「お城、完成!もう壊れないよね!」


「うん、壊れないよ。」


その言葉には、「壊れてもまた作り直す」というあゆみの覚悟が込められていた。


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