再会
秋晴れの週末、歩己は大学の同級生たちと母校の文化祭を訪れていた。
「懐かしいね。私たちがいた頃と、全然変わらない感じがする。」
友人の言葉に笑顔で頷きながら、歩己は校舎の廊下を歩いていた。
聞き覚えのある文化祭の喧騒と、生徒たちの活気あふれる声――そのすべてが、あの日々を思い出させる。
ふと後ろから声をかけられた。
「如月さん? 久しぶりだね。」
その声に驚き、歩己は振り返る。目の前には、かつての担任、星宮昴が立っていた。
「星宮先生……!」
一瞬、言葉を失った。
「ここで会うなんて偶然だね。」
変わらない穏やかな声に、歩己は少しずつ落ち着きを取り戻した。
「星宮先生、まだここにいらしたんですね。」
「そうだよ。相変わらずこの学校で教えてるんだ。今日は文化祭だから、いろんな生徒が頑張ってるよ。」
「そうなんですね……先生がいらっしゃるって知ってたら、もっと早く遊びに来ればよかったです。」
昴は微笑んで、歩己にこう言った。
「うちのクラスが体育館で演劇をやるんだ。良かったら見ていってくれないか?」
「もちろんです!」
その誘いを受けて、歩己は友人たちと別れ、一人で体育館へと向かった。
体育館では、文化祭の目玉として演劇が行われていた。観客席は生徒や保護者で賑わい、舞台には簡素ながらも工夫の凝らされたセットが組まれている。演劇が始まり、生徒たちが一生懸命にセリフを繰り返しながら舞台を作り上げていく。その中に、昴の姿があった。
「先生まで演じてるんだ……!?」
役柄は、少しおどけた貴族。真剣な表情でセリフを読み上げる姿は、どこかかわいらしく、生徒たちに混ざって舞台を盛り上げている。
「あの頃と全然変わらない……。」
いつも生徒たちを全力で支えるその姿が、昔から好きだった。高校時代の記憶が鮮明に蘇り、歩己は思わず目を奪われた。
演劇が終わり、体育館の片隅で昴と再び話す機会が訪れた。
「先生、本当にすごかったです! 生徒たちも楽しそうでしたね。」
「ありがとう。こういうの、やってみると意外と楽しいんだよね。」
どこか照れくさそうに笑う昴。その姿に、歩己の胸が温かくなるのを感じた。
「あの……先生、連絡先を交換してもらえませんか? 今日撮った写真、送らせていただきたくて。」
卒業している今だからこそ言えた言葉だった。
昴は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んで頷いた。
「もちろんいいよ。じゃあ、番号を教えるね。」
携帯電話を取り出し、連絡先を交換する。
短いやり取りの中にも、どこか懐かしさと新鮮さが入り混じっていた。
「あの頃の気持ちが、また蘇るなんて……。」
帰り道、歩己は胸に残った温もりを感じながら、これからの物語の始まりを予感していた。