再訪
大学の講義を終えたあゆみがキャンパスを歩いていると、背後からまた声がかかった。
「如月!」
その声に、あゆみは一瞬立ち止まった。振り返ると、かずきが先日と同じように立っていた。
「あ、かずき君……どうしたの?」
「あのさ、この前の話だけど、もう少しちゃんと話したいんだ。」
彼の表情は真剣だった。その目を見て、あゆみは避けられないと悟った。
カフェの席に腰を下ろした二人。かずきは何かを決意したような顔で、少しだけあゆみを見つめた後、話し始めた。
「この前、俺が言ったこと、気にしてたらごめん。でも、どうしても言いたいことがあるんだ。」
「あのね、かずき君……。」
あゆみが何かを言おうとしたが、かずきはそれを制するように手を挙げた。
「まず俺の話を聞いてくれ。おまえ、すばるさんとその子どもたちと一緒にいることを居場所だって言ったよな。」
「……うん。」
「でも、それって本当におまえ自身が望んでることか?」
その問いかけに、あゆみは黙り込んだ。
「やっぱりおまえのために言うけど、普通じゃないんだよ。普通じゃない道を進むってのは、覚悟がいる。それに……おまえ、親にどう説明するつもりなんだ?」
その言葉に、あゆみは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。姉との電話のやりとりがふと脳裏をよぎる。両親の価値観を象徴するような姉の言葉に、自分の決意をぶつけた記憶だ。
「あのね、かずき君。私、普通じゃない道だって分かってる。むしろ、普通でいることに縛られる方が苦しかったから。」
あゆみの声には、どこか迷いと覚悟が入り混じっていた。その目はかずきを見つめながらも、何かを押し殺しているように見える。
「すばるさんと一緒にいることで、私には初めて居場所ができたの。普通にこだわるより、私は自分が大切にしたい人と歩みたいの。」
彼女の言葉には、姉との会話で得た自信がにじみ出ていた。だが、その裏側には、自分の選択が本当に正しいのかという不安も垣間見えた。
「それにね、昨日姉と話して気づいたんだ。行動を起こさなければ、何も変わらないって。」
その言葉を聞いたかずきは、一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに視線を落とした。
「でもさ、如月……もし失敗したらどうするんだよ?」
かずきの声は少し震えていた。彼の問いに、あゆみは静かに微笑んだ。
「失敗や成功って、人生の最後の日に振り返って初めて分かるものじゃないかな。だから、今は自分の選択を信じて進むしかないんだと思う。」
その言葉に、かずきは何も言えなくなった。彼女の決意に触れたと同時に、それが自分にはどうにもできないものであることを痛感したからだ。
店を出た後、かずきは短く言った。
「これ以上おまえに何か言うつもりはない。でも、何かあったら俺に相談しろよ。いつでも力になるから。」
その言葉に、あゆみは小さく頷き、かずきの背中を見送った。かずきの背中は寂しげだったが、あゆみは自分の歩む道に向けて前を向いた。
帰り道、あゆみは姉との会話を思い出していた。姉の冷静で現実的な反対。そして、自分が返した言葉。
「行動を起こすことができたってこと自体が、私の頑張りなんだ。」
その瞬間、すばるの言葉が心の奥に染み渡る。自分が選んだ道に迷いが全くないわけではない。だが、それを貫くための覚悟は、確かに自分の中に芽生え始めている。
「私は、私の道を歩く。普通じゃなくたって、私の居場所を大切にしたいから。」
不安を振り払うように、あゆみは力強く前を向いて歩き続けた。




