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揺れる心

「おはよう、あゆみちゃん!」

 りおが笑顔で駆け寄ってきた。小さな手があゆみの服を引っ張る。


「ねえねえ、これやろうよ!」


 あゆみは疲れた顔を隠しながら微笑みを浮かべた。

「ちょっと後でね、りおちゃん。」


 しかし、りおは納得しない。

「でも、今がいい!」


 子どもの無邪気な笑顔に応える余裕が、今のあゆみにはなかった。


 学業に家事、育児


 最初は慣れたと感じていたことも、時間が経つにつれてその負担は大きなものへと変わっていった。


 つい声が荒くなる。

「何回も言わせないで!」


 りおの顔から笑顔が消え、瞳に涙が浮かぶのが見えた瞬間、あゆみの胸がズキリと痛んだ。


「ごめんね……りおちゃん。後で一緒にやろう。」


 その場しのぎのように出た言葉に、自分自身に嫌悪感が募る。





 夜、リビングで一人ぼんやりしていると、すばるが心配そうに声をかけてきた。

「最近、疲れてるみたいだけど……大丈夫?」


 その優しい言葉に、あゆみは心がざわついた。抑えていた感情が溢れ出す。


「大丈夫なわけないでしょ!」


 突然の声に、すばるが驚いた顔を見せる。


「そもそも、私、子どもなんて好きじゃないの!」

 あゆみの声は止まらない。


「慣れてないのに、急に二人の面倒を見るなんて無理だよ! 自分の時間もないし、ずっとこれが続くのかって思うと……疲れちゃうの。」


 すばるは言葉を失ったようだったが、静かに言った。

「ごめん。僕が気づけなかった。」


 その言葉が逆に胸を締め付ける。





 次の日から、あゆみはリビングに出る時間を減らした。

 れんとりおが声をかけてきても、「ちょっと後でね」とかわすばかり。


 夜中、喉の渇きを覚えてリビングに降りると、薄暗い部屋で二人の小さな影が見えた。


「れんくん、りおちゃん?」


 振り向いた二人の目には涙が溜まっていた。


「僕たちが悪いんだよね……。」

 れんの震える声が静かな部屋に響く。


「遊んでって言いすぎたから、あゆみちゃんが怒ったんだよね……。」


 その言葉に、あゆみは耐えられなくなった。

「違うの。二人のせいじゃない。全部、私が悪いの。」


 そう言いながら、あゆみは二人を抱きしめた。


「ごめんね、れんくん、りおちゃん。私はね、子どもが苦手なの。でも、二人は本当にいい子で……それなのに、私は何もできないって思っちゃって……。」


 すると、れんがそっと口を開いた。

「あゆみちゃんがダメなんて思ったことないよ。僕たち、あゆみちゃんがいないとダメなんだよ。」


 その一言に、あゆみの涙が溢れた。





 夜、自分の部屋であゆみは天井を見上げながら考えていた。


「私は、子どもたちを守れる存在になれるんだろうか。」


 れんとりおの泣き顔が脳裏に浮かぶ。

 同時に、あゆみの記憶には、幼い頃の自分が映し出されていた。


「なんであゆみはそんなにできないの?お姉ちゃんはもっと優秀だったのに。」


 親の何気ない一言が、幼い心に深く突き刺さった。

 いつも姉と比べられて、自分の存在価値を見出せずに育ってきた。


「私は何もできない。誰の役にも立てない。」


 そんな思いが、いつも心のどこかに根を張っていた。


 だけど――。


「僕たち、あゆみちゃんがいないとダメなんだよ。」


 れんの言葉が、胸の奥で反響していた。


「私がいないとダメ……そんなふうに思ってもらえる日が来るなんて。」


 すばるだけでなく、子どもたちにまで必要とされているという事実が、あゆみの中で静かに響いた。


「居場所って、こういうことなのかな……。」


 姉と比べられ、窮屈だった過去。

 それとは違う、新しい自分の価値を、少しだけ見出せた気がした。


 天井を見つめながら、あゆみはそっと呟いた。


「もう少しだけ……頑張ってみようかな。」


 その言葉は、誰にも聞こえない小さな決意だったが、彼女の心には確かな灯火となっていた。



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