居場所を見つけて
同棲生活を始めて数週間が経った。
あゆみは、すばるの家に徐々に慣れつつあった。朝食の準備を手伝い、子どもたちを保育園に送り出し、大学の講義を受けた後に夕飯の支度をする――そんな毎日が少しずつ日常に溶け込んでいく。
「いただきます!」
れんとりおが元気よくスプーンを手に取る様子を見ながら、あゆみは微笑んだ。彼らの存在が、いつの間にか自分の生活の一部になりつつあることを感じていた。
ある日の夜、子どもたちを寝かしつけた後、リビングで一息ついていると、すばるがふと話しかけてきた。
「どう?慣れてきた?」
彼の問いかけに、あゆみは少し考えた後、頷いた。
「はい、でも……まだ自信がないんです。これでいいのかなって思うことも多くて。」
すばるは彼女の隣に腰を下ろし、優しい目で見つめた。
「無理しないでいいんだよ。あゆみが今してくれることだけで、僕たちは十分助かってる。それに、君がいてくれるだけで、子どもたちも嬉しいんだ。」
その言葉に、あゆみの胸はじんわりと温かくなった。
「私……まだ何もできてない気がして。」
「そんなことないよ。君がいるだけで、れんもりおも安心してる。それが何よりも大事なことなんだ。」
すばるの穏やかな声が、あゆみの心を少しずつ癒していく。
翌朝、れんがあゆみに話しかけてきた。
「ねえ、あゆみちゃん。今日、保育園で一緒に遊んだ子がね、『お母さん最近うるさいんだ』って言ってたの。」
「そうなんだ。」
あゆみはれんの言葉に耳を傾けながら、笑顔で答えた。
「でも、僕にはお母さんがいないから、『お母さんってどんな人?』って聞いちゃったんだ。」
その言葉に、一瞬、あゆみの心が揺れた。
「そっか……。」
れんの純粋な瞳を見つめながら、あゆみは言葉を選んだ。
「れんくんには、すばるさんがいるじゃない。すばるさんは、世界一素敵なお父さんだよ。」
れんは少し考え込むようにしてから、笑顔を浮かべた。
「うん、パパ大好き! でも、あゆみちゃんも一緒にいるから、もっと楽しい!」
その一言に、あゆみの胸が温かくなる。
その日の夜、あゆみは自分の中に芽生えた感情を整理していた。
「私は、この家で何ができるんだろう。」
かつて自分が失った家族の温もり。それを再び感じることができたのは、この家での時間だった。
そして、彼女は静かに決意した。
「この場所を、私の居場所にしたい。れんくんやりおちゃん、すばるさんと一緒に歩いていきたい。」
その思いは、あゆみの胸の中で確かに根を張り始めていた。




