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初めての異世界放浪

 一通りの魔法を確認した私たちはそろそろ移動しようということになった。

 「とにかくここからどこか村か町かに移動しなくちゃね。いつまでもこんな何にもないところにいるわけにもいかないし」

 【身体能力向上】のおかげで体がずいぶん身軽になった私たちはしばらく歩きで行動することにした。

 「せっかく空も飛べるのに何も歩いて移動することもないのに……」

 私なんかよりずっと空を飛ぶのが上手だったサキは少し不満そうだ。

 「サキの気持ちも分かるけどとにかく最初は歩いていってみよう。自分たちの体力がどれだけついているのかも知りたいからさ」

 「はーい……」

 いまいち納得がいかないサキには悪いけど自分たちの体力を知っておきたいのは事実だからここは我慢してもらうしかない。

 「それでどっちに行くの?」

 「そうだなあ……」

 道は東西に延びている。これならなるべく日が長いほうがいいだろう。

 「西に向かって歩こうか。日が長く昇り続ける方角に歩いたほうがまだいいんじゃないかと思うんだよね」

 そんなわけで初めての異世界を歩き始めた私たち。

 どこから見ても日本の田舎の風景にしか見えないけれどここは間違いなく異世界なんだよね。

 都市部に住んでいたわけじゃないけどそれほど田舎っていう所に住んでいたわけじゃないから、こうして歩いているとなんだか空気も澄んでいるような気さえしてくる。

 魔法がある世界だからして科学がどれだけ進んでいるのか分からないからちょっと不安もあったりする。

 「ねえねえ、この世界って科学ってどこまで進んでいると思う?」

 サキに聞いてみるとサキは指の先にちょうちょを止まらせながら言う。

 「ん~、さすがにどこまでかは分かんないけど希望で言うならせめて中世ヨーロッパよりはもっと文明が進んでいてほしいよ。お気に入りのライトノベルでは保険会社があったりアイスクリーム屋さんがあったりしたからさ、それくらいは進んでいてほしいな」

 「確かにそうだねえ。学校とかも普通にあったらもっと面白い世界になってそうだもんね」

 保険会社にアイスクリーム屋さんかあ。確か金庫にはタッチパネルのボタンまであった気がするなあ。

 んん~、まずはとにかく水回りというかトイレ事情が極端に遅れていない事だけは願いたいものだな。

 それから二時間ほど歩き続けたけれど周りの風景は一向に変わってくれないし、町や村が見えてくるわけでもない。

 しかし驚いたことに二時間もの間歩き続けてもまったく疲れを感じることがなかった。

 「ねえ、そろそろ歩き始めてから二時間は立つよね。それなのに一向に何にも見えてこないんだけど」

 「本当だね。でもさ! これだけ歩き続けているのに私たちほとんど疲れていないよ! 【身体能力向上】とお願いしたけどここまで体力がついてくれるなんて本当に助かったね。これならまだまだ歩き続けられそうだよ」

 「ええー? まだ歩くのお? そろそろ空を飛んでもいいんじゃない?」

 「それは気持ちは分かるけどもう少しだけ歩かせてくれない? もう少し自分の体力を知りたいんだよ」

 サキはますます不満げな顔をする。

 まあ当然と言えば当然だけどさ。

 そんなサキをなんとかなだめすかしてさらに二時間歩き進める。

 しかししかしそれでも町も村も一つも見えてくれない。

 うーん、いくら体力が向上しているからって言ってもさすがに疲れてきたぞ。

 それにサキからの不満の視線を感じるしなあ。

 しかしそれにしてもと思う。

 これだけ歩いていてモンスターの一体にも会わないというのはどういうことだろう?

 よく森の中や木の陰に隠れてそばを通る旅人を襲うと聞いたけど今のところモンスターの気配すらしない。

 いや、モンスターの気配がどんなものなのか知らないんだからただ単にタイミングよく避けているだけなのかもしれないけどさ。

 「モンスター出てこないね」

 サキも同じことを考えていたのか周りをキョロキョロと見ながら言う。

 そのサキの頭の上には小鳥が一羽止まっていた。

 さっきは蝶を手の指先にとめていたけど今度は小鳥が寄って来るとは。

 サキってもしかしてこの世界では動物に好かれやすいのかしら?

 「本当だね。ここまで歩いていて一体にも会わないのは本当にすごい偶然だよね。ていうかサキ、頭の上に小鳥が止まっているけどずいぶん動物が寄ってく来るよね。しかも青い鳥だなんて不思議。なんてうかこう幸運を運んでくれそうな気がしてくるよ」

 そう言うとサキは頭の上にちょこんと止まっている小鳥の頭を指先でなでる。

 「この子青い鳥なの? 確かに青い鳥や青い鳥の羽って幸運を呼ぶって言われているけどどうなんだろうね」

 「サキったら自分の頭に止まっている鳥の色も分からなかったの? ていうか、いつの間に頭に乗せていたのかも分からないとかいうんじゃないでしょうね?」

 「んん~、なんとなく頭の上に何かが乗ってきたってことは分かったけれど小鳥か何かだろうなくらいにしか感じていなかったから、あんまり気にしていなかったなあ」

 この世界に来てサキののんびりな性格に拍車がかかったような気がするぞ。

 普通は自分の頭の上に何かが止まったら驚くとかはしゃぐとかしそうなものなのに。

 うーむ、サキの性格恐るべし。

 これで動物の言葉が分かるだとかだったらより一層面白いし便利なのにな。

 「ねえサキ、その鳥の言葉とか分かったりしない? 動物の言葉が分かったりしたら便利だと思うんだけどな」

 ダメもとで聞いてみる。

 「鳥の言葉? そんなことできるわけないじゃない。元の世界でだって無理だったんだから。ね、小鳥君」

 それもそうかと思った時鳥が「ピチチピチュピチュピチチ」と鳴いた。

 「へ?」

 いきなり不意を突かれたような声を出すサキ。

 「どうしたの? まさか本当に何をしゃべっているか分かるとかいうんじゃないでしょうね?」

 するとサキは困ったように言う。

 「えーっと……なんか分かるみたいなの」

 「ふーん……え、ええ!? 今なんて言った!?」

 「いやだから鳥の言葉が分かるみたいなの」

 「ええぇぇぇええ――!?」

 私が驚きのあまり大声を出すと青い小鳥は驚いたのかパッとサキの後頭部辺りに身を隠す。

 「アキ、だめだよそんなに大きな声を出しちゃ。小鳥君も驚いちゃうよ」

 「ご、ごめんごめん!! それで!? 今なんて言ったの!?」

 サキに詰め寄ると青い小鳥はさらに驚いてどこかに飛んでいってしまいそうになる。

 そこをすかさずサキが呼び止める。

 「あ!! 待ってよ小鳥君! 驚かせてごめんね。もう大丈夫だから戻ってきてくれないかな」

 サキが飛び去って行こうとした小鳥に声をかけると私とサキの頭の上をくるりと回りながらなんと! サキの人差し指に止まったのだ!!

 ええ!? サキの言葉に答えたって言うの!? 噓でしょ!? こんなのってありなわけ!?

 そう言いたいのを必死でこらえながらサキの言葉を待つ。

 「えっとね、さっきはこの小鳥君が「今日は平和な方だよ」って言ったんだよ。私たちの会話を聞いていたからなのか、それとも私の言葉を理解したからかは分からないけど」

 「そ、そそそ、そうなの!? 「今日は平和な方だよ」だなんて思いっきり私たちが話していた内容とあってるじゃない!! じゃあ今も何を言ってるのか分かるの!?」

 興奮冷めやらぬとはこのことだ!!

 するとサキが小鳥に話しかける。

 「ねえ小鳥君。今正直どんな気持ちか教えてくれる?」

 サキの人差し指に止まった小鳥は小首を盛んにかしげながらまた「ピチュクピチュ」と鳴く。

 「え? あ、そうだよね。ごめんね小鳥君」

 「え!? 何!? なんて言ったの!?」

 「え、ええっとねえ。アキの声が大きくてうるさいってさ」

 「ふえ? あ、ご、ごめんごめん。だってさ、小鳥の言葉が分かるなんて今までなかったからさ。それにしても本当にサキの言葉は理解するんだねえ。もしかして小鳥以外の動物の言葉も分かるかもしれないね!! サキすごい能力を付けてもらったね!!」

 小鳥はサキの周りを飛び回りながら盛んに鳴く。

 「アキ、興奮するのは分かるけど少し落ち着いたほうがいいみたいだよ。小鳥君がアキの大きな声が気になってしょうがないって言ってる。これじゃ会話にならないよ」

 「あ、ああ、ごめんごめん。そうだよね。それじゃあこの辺りに町か村かないかって聞ける?」

 さっきから謝りっぱなしだよ! 私が興奮しているから悪いんだけどさ。

 サキが小鳥に話しかける。

 「ねえ小鳥君。この辺りに町か村かある? できれば大きい町がいいんだけど」

 「ピチュクピピピピチュピチュ」

 サキが何度か頷きながら聞いていると通訳してくれた。

 「えっとね、この先に結構な大きさの町があるんだって。一時間くらい移動すれば着くっていってるよ」

 「おお! なるほどねえ。あれ? でもそれって小鳥の速さならだよね? 人間だとどれくらいで着くかわかるかな」

 「ああ、確かにね。人間の足だとどれくらいで着くの?」

 「ピチュピチュクピピ」

 「人間の足だとあと四時間くらいかかるってさ」

 「ええ――!? それじゃあ途中で暗くなっちゃうじゃない!! こんな何もないところでいきなり野宿するなんて嫌だよお。私たちこの世界のことまだ何にも知らないのに」

 「確かにそうだねえ。元の世界ではキャンプをしたことはあったけど野宿はしたことはなかったもんね。まあテントがあっただけで実質野宿と変わらなかったことはたくさんあったけど」

 サキの言う通りで私たちはキャンプ場に泊ったことなんて一度もなかったんだよね。

 暗ーい夜の公園だったり海岸沿いのちょっとした駐車場なんかにテントを張って寝泊まりをするのが普通だったから、実質野宿とあんまり変わらなかった。

 今考えるとなんとも危ない橋を渡るようなキャンプだったなあ。

 あれ? そう考えるとテントがないだけで今でもその辺に寝泊まりできるんじゃないだろうか?

 実際は嫌だけど。

 そんな話をしている時だった。

 ずっと先の方で誰かの悲鳴が聞こえてきた気がしたのは。

 かなり小さな声だけど確かに「助けて――!!」と聞こえた気がしたのだ。

 「サキ、今の聞こえた!?」

 「うん! 誰かの悲鳴だったよね! 誰かが何かに襲われているんだ!!」

 次に聞こえてきたのは何かの金属のぶつかり合う音。

 誰かが何かと戦っている!!

 「ど、どうしよう!! とにかく近くまで行ってみようよ!!」

 私がそう言うとサキはうんざりした顔をしたかと思うと何かをあきらめたような顔になる。

 「アキったら昔から誰かが困っているのを見ると後先考えずに助けに行っちゃうんだもんね。近くまで行くんなら空を飛んでいこうね! 私たち今武器になるもの持っていないんだからできることなんて限られているんだからね!!」

 「う……わ、分かってるよお」

 サキが私の心配をするのは当然と言えば当然なんだけどさ。

 私は昔から誰かが困っていたりすると確かに後先考えずに助けに行っちゃうような性格をしているんだ。

 この世界ではまだ確かに武器なんて持っていないし、そもそも元の世界で何かと戦うなんてことは一度もなかったんだから私たちが行ったところで果たして何の役に立つかは分からない。

 それでも悲鳴が聞こえたのに何もせずにそのまま通り過ぎるなんてことは私にはできなかった。

 私たちは【フライ】の魔法を使うとぐんと高く上昇して空を移動し始めたのだった。

 小鳥さんとはその場で別れたけどね。 

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