【閑話】口の堅い男マイクロフトの瓦解
「テーラ? 私の実の父上の養女? 戸籍上は私達のいとこってこと?」
「んあ~。もう、ムリ。兄様、本当はフレデリック伯父様の子供なんですか? 知りたくなかったぁ~!」
ミッキーは、頭を抱えてその場に突っ伏した。
何でも知っているのにそこを知らないのが逆に不思議だ。
「ん? 知らなかったみたいだね? 鑑定しても家名はどちらもテーラだからね?」
「鑑定眼は第5段階で家系図まで見えるようになります。しかし、僕はまだ第4段階で別名や名前の履歴までしか見えないのです。兄様はフレデリック伯父様の戸籍に入らず、直で父上、じゃなかった、陛下の子供になっています」
ミッキーは、血の気が引いている。
忙しい奴だ。
「別に父上と呼び続けていいんじゃない? ロイには見えてる?」
「そ、そうですね? ロイは私の最上位スキルの先生ですから、見えていると思います。つまり、ロイとルーイ兄様は、血のつながりがないと知っていたから互いに距離があったのですか?」
ミッキーは、わなわなしている。
そこまで驚くことでもない気もするが……
「私は二属性使いだからね。長らくずっと父上の愛人の子供だと思い込んでいたから、ちょっと遠慮があったよ。違うと分かったのは昨年だ」
「そうですか。兄様、すみません。僕は何にも知らなくて、兄様の前でロイとユリアナに甘えている様子を沢山見せてしまいました。気まずかったですよね?」
ミッキーは、いい子だ。
そういえば、私は母方の祖父母には会ったことがない。今度、覗きに行ってみよう。
「しかし、妙だよね? お見合いの段階で母上にもアデルの真名が見えていたはずだよね? なのに、私に合わせて『アリー』って呼んでた。それに、父上は弟の養子縁組を知っていたはずだし、なんで婚約とか、お見合いとかって話しになるの? いや、私にとっては大事な出会いのきっかけだったよ? でも、なんかおかしいよね?」
「アデレーンは、アリスと略されることもありますし、アリーも範囲内なんじゃないんですか? ははは……」
ミッキーは、なんともつかない表情で、から笑いをしている。
あやしい。
揺さぶってみるか?
「なるほど。分かったよ。君がアデルのことを『姉様』と呼んでいるのは、『兄嫁』の『姉様』だと思って嬉しかったんだが、『いとこ』の『姉様』だからだったんだね? ガッカリだ」
ガックリと肩を落として見せた。
「きゅぅ~。確かに家名が『テーラ』だったこともありますが、本当に兄様の伴侶になって下さればいいなと、思っていましたよ?」
ミッキーの魂が抜けた。
やりすぎたか?
しかし、再び聞き捨てならない言葉が出てきたぞ?
「思っていましたって、なんで過去形なの?」
「兄様は、母上がカール様とノア様から蛇蝎のごとく嫌われているのをご存じないのですか? 因みに父上はダニエル様から蛇蝎のごとく嫌われていたと思います。私の養子縁組で両家の関係は温まりましたし、姉様をアレクシア姫としてテーラ家に嫁がせる積極的な理由はなくなりました」
ん?
おかしくないか?
「仮に父上と母上が蛇蝎のごとく嫌われているとして、二人の子供の君はなんで養子に入れたんだ?」
「人徳です。と、言いたいところですが、言いましたよね? 秘密が守れるからですよ。それに、『北領の至宝』に政略婚をさせるのを避けて帝室とノーザンブリア家の関係を温めるのに丁度いい駒だったんじゃないですか?」
でも、とても良くしてもらっているみたいだし……
「ミッキーは二人に好かれているようにみえるよ?」
「そうですね。頑張ってそう考えるようにしています。そうしないと闇落ちしそうですから」
突然の闇落ち宣言?
なんで?
「いや、本当に、君は二人にすごく好かれているようにみえるよ? 信頼されてもいるようだし。あまりに好かれすぎて、アレクシア姫の結婚相手に理想的だと思う人が多いみたいだよ? シオン公子とか」
「シオン公子? 兄様、あれは、兄様のライバルですよ。間違いなく姉様狙いです。私が陽動している間にちゃんとアデルとして捕まえてくださいね!」
ミッキーは目が座っている。
突然のダークモード?
ナニコレ、どういう展開?
「ミッキー、『あれ』呼ばわりするなんて、シオン公子が嫌いなの? そうだよね? 異母兄弟とか気分が悪いよね? ごめんね、彼の名前出したりして」
「そこは大丈夫です。むしろ、割って入ったのは母上なのです。だから、その事に関しては双方の痛み分けと割り切っています。トム兄様はまだ凹んでいますが、私は事情も知っていますから……」
ミッキー、何気に情報通だね?
引きこもって『無菌室の皇子』なんて呼ばれてたのにね?
それにしても何やら複雑だね。
陛下の恋物語については、触れない方がいいかな?
「それにしても、君もなかなか策士だね? 君から『陽動』なんて言葉が出てくるとは、驚きだよ。うん。かっこいい」
「兄様、なんてのんきな! これは負けられない戦いなのです!! フレデリック様なんて、兄様が『運命』と結ばれるように養子にまでして囲い込んでくれているのに…… あっ」
ミッキーは、両手で口を塞いで、青ざめている。
うん。
今のはどう考えてもおかしい発言だ。
アデルの話だとノーザンブリア家側から養子受け入れをお願いした雰囲気だったよ?
「ミッキー?」




