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【閑話】アデルの真名

「うわっ。ホントに、ルーイ兄様だ! ど、ど、どうなさったのですか? 何かあったのですか?」


「あの子、来てるでしょ?」


「あの子?」


「私の最愛だよ。私、君の前であの子のことをなんと呼んだらいいのか、聞いてないんだ」


「姉様のことですか? それなら到着は明日ですよ?」


「ん? 明日?」


 週の学業を終えて、ウキウキと宮殿に戻ったら、アデルはいなかった。


 母上からアデルは休暇でミッキーの家に遊びに行ったと聞いて飛んできたら、先についてしまったようだ。


「ルーイ兄様、テーラ宮殿から飛んできたのですか? 陸路だと3日ぐらいかかるんですよ? 姉様を乗せてきてあげればよかったのに......」


「知っていたら、そうしたよ」


 風使いの実父フレデリックとミッキーが研究区域で共同開発した魔導航空機で飛んできたら4時間でノーザス城に到着する。


「あ、知らなかったんですか? それならきっと何かサプライズのプレゼントを作って帰るつもりなんだと思いますよ。兄様、台無しにしないように帝都にお帰り下さい」


「え? ミッキー、追い返すの? ヒドい」


 アデルはサプライズを仕掛けるのが大好きだ。

 生き甲斐だ。


 だけど、周りのサポートが本格的すぎてたまに行方不明になるので、ちょっと困ってる。


「まぁ、たまには、姉様がサプライズされるのもいいかもしれませんね?」


「うん。ありがと。今日、泊めてくれる? 大使館に泊まってもいいんだけど、久しぶりにゆっくり君と話もしたいし」


 ミッキーが養子に行ってから、会うのは初めてだ。


「姉様から北領には立ち入り禁止だと言われていませんか? 僕、家に泊めちゃって大丈夫かな……」


「ん、でも、ちゃんと茶髪のカツラとビン底眼鏡をつけてきたよ。君と同じ髪色だから眼鏡を外すと兄弟に見えちゃうね? へへっ」


 私達は顔は似ていないが、雰囲気というか、やはり近いものがあって、ちょっと嬉しい。


「くぅ~っ。兄様がかわいくて詐欺です。姉様、兄様を人間に改造しすぎです」


「え~。なにそれ。私、人間じゃなかったの?」


「困りましたね。自覚がないんですか? それより、姉様は研究区域の方にお戻りになりますから、移動しましょうか?」


「え? ノーザス城じゃなくて、本当にミッキーの家に遊びに来るの? プライベートでも仲良し?」


 研究区域の正式名称はアレクサンドリア離宮と言う。

 今はノーザンブリア家に養子に入ったミッキーの家になっている。


 ミッキーにノーザス城で出迎えられたり、離宮に案内されるのは奇妙な感じだ。


 自分の家だから当然なんだろうけれど、すごくこなれてて、離宮の(あるじ)感が満々だ。

 立派になったな~。


「ルーイ兄様、何を仰っているんですか? プライベートで仲良しというか、姉弟なんです。家族ですよ?」


 そうだった。


 養子に行ったことや、テーラじゃなくなったことは、頭では十分わかっているんだけど、ミッキーもう弟じゃないことや、アデルの弟になったことは、まだ身体が覚えてないって感じなんだ。



 **



「そうか。ミッキーが楽しそうで何よりだよ。ところで君はあの子のこと、どう呼んでるの? 合わせるよ」


「姉様、です」


「名前は?」


「姉様としか呼ばないから、不問です」


「え? 私は姉様とは呼べないよ? 年下だし」


「真名を教えてもらったのでしょう? 『アデル』と呼んでいるのではないのですか? それでよいと思いますよ?」


「なんか不自然な反応だね? もしかして、アデルは真名じゃない?」


「アデレーンは姉様の真名ですよ? 兄様、からかわれすぎて、疑心暗鬼になっていますね? 姉様を叱っておきます」


 姉様を叱る。

 それってどうなの?


 どういう力関係?

 養子に入ってから、立場が逆転したの?



「ミッキー。アデルのミドルネーム、いくつあるの? 知っているよね?」


 ミッキーは、ギクッとなった様子で、お茶を淹れ直し始めた。

 手ずからお茶を淹れるのはカールと一緒だ。


 ノーザンブリア家の風習か?

 いや、違うな。


 アデルには私が教えたんだから。



「兄様、何故僕がノーザンブリア家の養子に求めて貰えたかご存知ですか?」


「政務の実績があって、封地の民に愛されているからだと聞いたよ?」


「口が硬いからです」


「ん?」


「私は8才の時、意図せずして鑑定眼で姉様の真名を知ってしまったのです。それを誰にも言わなかったから、信頼されたのです」


「鑑定眼で? それなら鑑定眼持ちの母上もアデルの真名を知っている?」


「あ~。やっぱり掘っちゃいますよね? ダメですよ。ダメです。ダメですから~」


 ミッキーは困っている。

 でも、知りたい。



「鑑定眼の指導員のロイもってことだよね?」


「ぐふっ。ほら、この話には地雷がいっぱい埋まっているんです。ダメですぅ~」


 ミッキーは殴られてもいないのに、お腹を抱えている。

 何らかのダメージを受けたようだ。



「この前、アデルと一緒にジュエリーショップを巡ったんだけど、あの店主たちも? もしかして店員達も知っちゃった?」


「ぎゃ~。兄様ぁ~。外に連れ出したのですか? 危機管理のためにもちょっとだけお教えしますね。鑑定眼は全部で5段階あります。隠されている真名が見えるのは3段階目からですから、恐らくジュエリーショップの店主にはバレて、ただの店員にはムリだと思います」


 ミッキーは突然早口になった。

 よっぽどダメらしい。


「私が連れ出したわけじゃないよ? ついて行っただけだよ?」


「姉様の真名はアデレーン・テーラです。フレデリック伯父様の養女が姉様の真の戸籍なのです」


 ミッキーは、涙目だ。

 ごめんね。申し訳ないけど、もうちょっと聞かせてね?


 ちょっと聞き捨てならないからね?


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