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ヴァイオレット9

 姉妹たちの初期の隠密活動は、お茶会でした。


 どこが「隠密」かというと、自分たちがアレクシア姫の「お話相手」であることを家族以外の誰にも言わないで秘密にすることだけでした。


 最初はただの「ごっこ」だと思っていたけれど、北領の領主夫妻が暗殺されて、マーガレット・サマーがアレクシア姫の悪口を拡散するようになってから、自分たちは北領夫妻がこういう未来に備えて撒いておいた姫の為の生命線だということを理解して気が引き締まったそうです。


 でも、お茶をするだけの時期があったから、自分たちは姫とオードリーを信じて付き従うことが出来たのだと、真剣な表情で語ってくれました。


 姫とオードリーを信じて?

 おかしいですよね。


 何故ペアなのですか?

 


 ジーナが入った時にはオードリーは既にノーザス城で姫と一緒に暮しており、ノーザンブリア家の姫と同等の待遇だったから、他の姉妹とは一線を画す「無二の親友」ポジションだと理解されていました。


 ノーザス城で姫と一緒に暮らしている?

 姫と同等の待遇?


 ポヤポヤしている姫とは対照的に、オードリーは理知的で聡明、姫も大いにオードリーを頼っているようだったので、なんとなくペアで考えてしまうのだそうです。


 なるほど?


 二人とも所作が衝撃的に美しく、それでいて肩が凝らない自然な友人関係がとても眩しく映ったそうです。


 オードリーから「姫修行を受けてみますか?」と聞かれたときには、3人とも大喜びで取り組んだそうです。



 5人目の姉妹は帝国人のシフォネです。


 アレクシア姫が溺れ死にそうになった後、皇妃ソフィア様から家庭教師として派遣されたブリタニー老夫妻が帝都から連れてきたそうです。


 シフォネは帝国籍の神童で、14才の時には医学の学位を取れてもおかしくないほどの知識を持っていたものの、帝国では中等部に在籍せねばならず、ストレスが溜まって髪が完全に抜けてしまって、心の休憩の為に北領に来たそうです。


 その時にシフォネがつけていたカツラが酷い出来で、それが姉妹たちのカツラ開発のきっかけだったとのこと。


 アレクシア姫が研究地区に移り住んだので、姉妹たちも頻繁に研究地区を訪れ、ブリタニー老夫妻から教えを受けて、シフォネのカツラを改善していったようです。


 このころからオードリーは東の領境の守護に出撃することが多く、姉妹たちとは別行動になっていったようですが、アレクシア姫は時々、オードリーの陣中見舞いに行っていたそうです。


 出撃?

 陣中見舞い?


 つまり、北領は南領紛争以前から東領の攻撃を受けていた?


 どうもカール様とアレクシア姫は、その頃から既に北領軍と共に歩んでいるような雰囲気でした。


 朝議では孤立していると言われるアレクシア姫ですが、軍議では場を掌握しているなんて、ちゃっかりしているところが、あの子っぽくて笑みがこぼれました。



 シフォネはカール様の計らいで、飛び級で北領の大学で医学の学位と臨床の資格を取ることができました。

 それで、髪が抜けなくなって、伸ばすことも出来るようになったのに、何故か男装に目覚めてしまったので、カツラ開発は一旦打ち止めになっていたそうです。


 シフォネも「美しい男装」を極める目的で、姫修行をクリアしています。


 姫修行、大盤振る舞いです。



 シフォネは、学位を取る時に「エレクトラ」の家名の北領戸籍を貰って姉妹入りしたそうです。

 南領紛争時のアレクシア姫の男装の先生はこのシフォネです。


 シオンにも教えることは出来たでしょうが「オードリーは姫の男装には消極的だった」そうですから、男装に関しては大した協力はしていないように思います。


 残るは、「ケラエノ」と「メローペ」です。


 ジーナは「メローペ」の称号を「かわいいの塊」なマイクロフトにあげてはどうかと提案したことがあるそうです。


 マイクロフトをライバル視しているシオンがその場にいなくてホントに良かった。


 マイクロフトは、北領に来てからたった半年で姉妹たちの間で影響力をもつ男になっていました。

 泣き虫でもテーラ皇子だけのことはありますね?

 

 彼が姉妹たちに気に入られた一番のポイントは、マーガレット・サマーの事を嫌っているところみたいでした。


 あの穏やかなマイクロフトに嫌いな人がいるとは驚きです。

 マイクロフトも人間でしたのね?



 アレクシア姫は「メローペ」はスカウトしたい人がいると言って微笑んだだけで、詳しくは教えてくれなかったそうです。


 オードリーの姉で、マイクロフトが「友好的」にしている帝都の知人のわたくしが「メローペ」になったことを大はしゃぎで大歓迎して頂きました。


 大変光栄に思います。



 南領紛争が始まった後、カツラ製作を事業化したのはオードリー、つまりシオンだったそうです。


 アレクシア姫は、切った髪をぞんざいにマーガレット・サマーに渡しました。


 ジーナは、姫の御髪をマーガレットから取り戻して、オードリーに渡しました。



 オードリーは、怒りに震えた手で姫の髪を握りしめて、カツラを事業化しようと決めました。


 姉妹たちは、他の人の髪をプラチナブロンドまで脱色し、カツラを仕立ててマーガレットに渡しました。姫の御髪は今でもオードリーが大切に保管してくれているだろうとのことです。


 その頃は、アレクシア姫の評判を地に落としたマーガレット・サマーの嫌われようが凄まじいことになっていました。


 マーガレット・サマーが一般臣民からは大人気な令嬢だとわたくしが知ったのは随分後のことでした。

 わたくしの置かれた環境は大変特殊なアレクシア信者の集まりだったのです。


 南領へ向かう姫にお供することを許されなかった姉妹たちは、大いに悲しみ、自分たちに出来ることを渇望していました。

 そして、オードリーのリーダーシップの下、一致団結して、美しいカツラを安定的に生産する環境を整えることに没頭しました。


 全員が姫修行を終えた貴族令嬢でしたので生み出す商品の高級感が素晴らしく、暴利で、こほん、良い価格で買っていただけました。


 髪の入手は、もともと貧しい人々のお小銭稼ぎとして既に細い流通網があったものをチャネル化しました。移民がちょっとした現金を手に入れるのにも丁度良かったそうです。


 最初は北領内で販売を開始し、顧客の反応を見ながら商品ラインナップをある程度増やしたところで、シオンがアレクシア姫からの帝都出店ミッションを賜ったのです。



 シオンとわたくしは帝都でカツラを売って、売って、売りまくりました。


 シオンは美少女です。

 わたくしもシオンと双子だと思われるぐらいの美少女です。



 二人して髪色を茶色に染め、瞳の色を茶色に変えるレンズをつけてカウンターに並ぶと、人がワラワラと寄ってきました。


 素朴な茶目茶髪の二人の令嬢がカツラによって大変貌を遂げる魔法のお店の完成です。


 ふふふ。


 「素朴な」というのはマーケティング的な売り文句ですよ?

 中身は東領の公子と姫ですから、全く素朴ではありませんよ?



 高級店ですので、わたくしたちはカウンター越しにお客様とお茶を飲みながら「お見立て」をするだけです。


 カツラをお客様に試着させる売り子たちやお茶出しの小姓たちも、全員、顔で選びました。


 お給金が良いので悪さもしません。


 シオンは男性顧客の、わたくしは女性顧客のお見立てを致しました。


 女性顧客担当のわたくしは、時に自分の短い髪を晒して、色々なカツラを被って見せました。


 令嬢達はわたくしがカツラを外すと、必ず小さな悲鳴をあげました。


 男装していた頃ほどは短くありませんが、まだ首元で長さが揃ったばかりの頃でしたので、短い髪が衝撃だったようです。


 いろんな髪型に変身して見せると、カツラは飛ぶように売れました。


 わたくしは楽しくなってきました。


 そのうち、髪を切りたいと言い始める令嬢が出てきて、カツラ店の隣に美容室を併設して、切った髪を北領に送って新しいカツラに変えてもらうようになりました。


 わたくしの最大の欠点「言い方がキツイ」はこの接客修行によって大幅に改善されました。


 やってよかった。


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