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ヴァイオレット8

 ノーリス子爵から聞くところによると……


 絶世の美少女オードリーは、森の入り口で馬を乗り捨てて、単身で危険な森にはいり、北領へ向かう避難民たちとすれ違いました。


 幾人かの避難護衛達が心配して、美少女オードリーに付き従い、英雄アリスター卿の元まで案内してくれました。


 とにかく必死な表情でずんずん歩く美少女に、護衛達はキュンキュンです。


 たまに休憩でお水を貰って、飲む姿は妖精のようだと愛でられまくりました。


 アリスター卿がいる野営地まで3日はかかります。

 護衛達が必死で説得して、美少女を途中の野営地に宿泊させてくれたおかげで、ノーリス子爵は何とか追いつくことができました。



 美少女はアリスター卿を見た瞬間大泣きして、ローブの腰元に縋り、アリスター卿に求婚したそうです。


 それを見たアリスター卿の近衛達は、この美少女はアリスター卿の中身が女性だと知らないのだと、一様に微笑ましく眺めておられたそうです。


「ああ、あの子は、前に一度見かけたことがあるよ。双子の美少女の片割れだね?」


 違います。

 12才の弟が14才の姉の背丈を追い越す時期で、丁度同じに見えただけです。

 双子ではありません。


 知らなかったのは皆さんの方です。

 この美少女の中身が本当は男の子だということを。



 なんなら顔もあんまり似ていません。


 弟は世の中のド真ん中を集めたような完璧に整った顔です。

 わたくしはちょっと吊り目な猫顔だと言われます。


 瞳の色と髪の色の配色が同じなので、双子の雰囲気があるのかもしれません。



 兎も角も、アリスター卿は、大変お困りになり、この美少女を宥めました。



「ああ。オードリー。その話は一度お断りしているよね? 今、ウチは縁談どころじゃないんだよ? 君の家だってそうでしょう?」


 お断りされたのは、5才の時のことです。

 流石に今回は兄君と結婚したいとはおっしゃらなかったようです。


 今は縁談どころじゃないというのは、すなわち、縁談について考えられるようになったら、検討に入れてくれるということです。


 美少女は健気に答えました。


「わたくしは家を捨てました。もう家なんてありません。わたくしが帰属するのは貴方だけです」


 わ・か・る!

 南領で家を捨てて北領に渡る途中の移民たちはキュンキュンしました。


 この後、アリスター卿は移民たちから「(あるじ)」と呼ばれるようになりました。



「ふぅ、仕方がないね。テントの中でお話をしようか。人に聞かせるような話でもないからね。私はお茶を淹れられないから、君が淹れてね」


「はい。よろこんで」


 アリスター卿は美少女をテントに連れて入りました。


 それから数時間、美少女はアリスター卿と沢山お話させてもらえて、スッキリした表情で出てきました。


 目が真っ赤で、テントの中でも相当泣いたことは明らかでしたが、キレイに失恋させてもらったのだろうと理解されました。


 翌朝、美少女はアリスター卿の手の甲にキスを落とし、アリスター卿は美少女の額にキスを返しました。



 その美しい光景に皆が感嘆し、この話はしばらく「南領の乙女の失恋談」として北領内をにぎわせました。


 言うまでもなく、この人物は南領の乙女ではありません。


 東領の公子です。

 多分、失恋もしていません。

 絶対に何かを勝ち取っています。


 誰にも一指も触れさせず、電撃で昏倒させ続けてきたアリスター卿が、テントの中に引き入れ、手にキスを捧げることを許し、額にキスを返したんですよ?


 きっとシオンは何かしらに粘り勝ちしたんです。



 その美少女は、移民たちと共に北領に帰る道すがら、ニコニコで他の移民たちに伝えました。


「アリスター様にお仕事を頂いて、帝都へ行きます。お役に立てるように誠心誠意務めます」


 移民たちは思いました。

 このレベルの美少女なら、帝都で貴族に見染められることもあるだろう。

 アリスター卿は親切だ、と。


 違いますよ?

 北領に押し寄せる移民たちを支えるためのガチの任務でしたよ?



 こうして、帝都最強の売り子「ウィーグの双子」が爆誕いたしました。


 はい。

 そうですの。

 わたくしも巻き込まれましたわ。


 シオンとマイクロフトを同時に北領に置いておくと危ないから、アレクシア姫はシオンを帝都に追い払ったんだと思います。


 わたくしはシオンのお目付け役、でしょうね?


 どうかしら?


 当たっているんじゃないかしら?



 実はわたくし、シオンがアレクシア姫に泣きついている間に招かれたアレクシア姫の影武者姉妹たちのお茶会が楽しくて、帝都に行きたくなかったのです。


 ようやく憧れの女子会に参加出来たのです!


 それにずっと男装させられていた帝都にいい思い出はありません。


 繰り返しますが、行きたくなかった。



 初めての女子会で、影武者姉妹たちは「オードリーは、アレクシア姫の最初のお話相手」だと言いました。


 次に加わった「マイア」の家名を貰っているジーナは、初めて二人に会った時の和やかで睦ましい雰囲気に、ぜひ自分も仲間に入りたいと胸が高鳴ったそうです。

 

 そして、アレクシア姫の影武者の選考試験として、帝立学園の初等部に入れられました。


 教育学の家系のジーナのご両親は、帝立学園の初等部のカリキュラムに興味があり、快諾し、ジーナ共々帝都に引っ越しました。

 そして、意気揚々と通い始めてすぐにシオン公子だったころのわたくしに絡まれたのですね?


 ジーナはトーマスのことをあまり覚えていないようでした。

 可哀想に。


 アレクシア姫の武勇伝を沢山語ってくれる男の子がいて、お話を聞くのが楽しかったという程度の爪痕しか残せていませんでした。


 ジーナはトーマスからアレクシア姫の幼稚舎での様子をたっぷり聞いて、ジーナ的にもう北領に戻りたくてたまらなくなった頃に「もう帰ってきていいよ」と言われて、ウキウキで戻ってきたようです。


 この話をする時のジーナは、瞳がキラキラと輝いていて、とても嘘だとは思えません。

 

 

 「マイア」の近くで仲良く瞬いている「アステローペ」と「タイゲタ」を貰った姉妹たちも北領の貴族令嬢で、オードリーとジーナが考えた小さな試練を経て姉妹入りしたそうです。


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