【閑話】愛の重いアデル
「はぁっ? 君は誰と『まったりペアマグ作り』をしたのかな?」
カールとマチルダ姫の「ペアマグ作り」デートの下見に行ったと聞いて、誰と行ったのか問い詰めた。
推定ライバルのピーターソンじゃないだろうね?
「工房がユリアナの紹介で、ソフィアとレイチェルと行きました」
それ、私の育ての母上と実の母上じゃないか?
二人は知り合いなの?
「なんでその二人?」
「ルーイが家出しちゃって、様子がわからないから、わたくしが知っていることや兄様から聞いたことをおかあさまがたに教えて差し上げるのです」
んん~。
いい!
おかあさまがたって、お義母様がただよね?
義理の母、そう思ってくれているの?
しかし……
「二人いっぺんに? 気まずくないの?」
「気まずくありませんよ。お二人とも素敵なお友達です」
ん?
アリー目線では、お友達枠なの?
「二人もマグを作ったの?」
「作りましたよ。ひとり2個ずつ」
「母上、父上に渡したの?」
「どっちのですか?」
アデルは小さな笑みを浮かべて、いたずらっぽく聞き返した。
かわいい。
「ソフィアの方」
実の両親は、父上が母上の言いなりすぎて多分仲良しだと思う。
一方、ソフィアはアデルに釣られて宮殿に帰っているが、父上のことを許したかわからない。
「ソフィアもちゃんと渡しましたよ。陛下はすっかりマグ派に変わりました。ラブラブですよ」
ラブラブ?
信じがたい。
あの二人は何処か距離があるんだ。
ソフィアが家出したのは、陛下に騙されたからで、ヤキモチじゃないからね。
宮殿に戻ったからと言って、ラブラブになるかな?
それにしても……
「アデルって、私よりテーラ家に馴染んでるよね」
「ルーイ。わたくしは『愛の重いアデル』ですよ? 囲い込みはバッチリです」
「えっ!? それ、囲い込みなの?」
何その素敵な響き。
私、ニヤけた顔を隠す為、手で顔を覆っちゃったよ。
「はい。兄様が言うには『本人も存在を知らない実の両親を押さえているのはヤバい』だそうです」
確かにヤバい。
実の両親とはアデルの仲介で会えたんだ。
それまで自分は陛下と愛人の子だと思いこんでた。
アデルの諜報活動で調べられない秘密とか、あるのかな。
「......」
私、アデルにそこまで囲い込まれているのが嬉しくて、上手く言葉が出てこなかった。
何なら涙が出そうだし、手もちょっと震えているよ。
喜びに打ち震えるとはこういうことか!
「ヤバいですか?」
「ヤバくない。嬉しい。すっごく嬉しい」
なんか恥ずかしくなって、もじもじしちゃう。
私、乙女かな?
「ルーイ、囲い込みは、ご両親だけではありませんよ? ミッキーとトミーとも仲良しですし、お友達のクリスとルカも押さえています」
「私、すっごく囲い込まれているね?」
嬉しくて、嬉しくて、アデルを抱えあげてスリスリしちゃった。
「喜んでいますか? 良かった。兄様が言うには『ルーイはヤバいぐらいに囲い込まれている方がきっと喜ぶ』とのことだったのですが、元々のプロファイリングと違いすぎて戸惑ったのです」
カール、ありがとう!
君は大親友だ!!
「ヤバくていい。めちゃくちゃ嬉しい。ところで、元々のプロファイリングって、どんなの?」
「究極の他人行儀を好む、と」
正しい。
「アデル以外にはそうだね。間違えてはいない。それで『究極の他人行儀』だったの?」
自業自得ってやつだ。
「はい。でも、兄様を信じました。世の中のすべての人が違う意見だったとしても、兄様の言葉が『唯一の真実』なのです」
うっ。
複雑。
結局は兄様至上主義の派生ってことだよね?
でも、いいや。
幸せだもの。
「私、親も、兄弟も、友人も、ガッチリ囲い込まれているの?」
「はい。でも、ルーイが逃げたければ、逃がしてあげますからね? ルーイが嫌がることはしませんよ」
うーん。
恋愛小説的には、そこは、「もう逃がしてあげられそうにないよ」って、言うところだよ。
私を喜ばせようとして囲い込んでいるだけで、本当に囲い込むタイプではないことが伺える。
それって……
「アリーは、テーラ家の人々を囲い込むの負担じゃない? 私はすっごく嬉しいけど、ムリしなくていいんだよ?」
あれ?
目が据わった?
無言でお膝から降りて、スタスタと......
あ!
やっちゃった。
「ごめん、アデル。ごめんなさい。もうアリーって呼ばないから、許して」
んぎゃー。
すっごくいい感じだったのに。
アデルは呼び名に関してだけはシビアなんだよ。
ふたりきりの時でもアウトだって知ってたのに。
私は慌てて駆け寄って、アデルに縋った。
「今日だけですよ」
アデルはそう言って、私に抱っこされる時の様に腕の中に潜り込んだ。
なにこれ。
かわいいが極まってる!
愛しい、愛しい、愛しいぃぃー。
もしかしてアデルも......
アデルも、もう少し私といたいという気持ちが芽生えてくれたのかな?
設定上の理由で私が名前を間違えると立ち去るというルールになってるから、間違えると怒るのかな?
そうだといいな。
私、もう間違えないようにするよ。
心の何処かで「同じ人物じゃん?」と真面目に取り合っていなかったことを猛省した。
その日以来、私はアデルのことをアリーと呼んでいない。
と、思う。
明日から毎朝7時更新の第2部です。
よかったら引き続き読んでいってください。




