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【閑話】前線後退

 久しぶりに宮殿に戻って、夕飯を待っている間に、ライラック姫とシオン公子から面会申請が届いた。


 早いな。


 なかなかやるじゃないか。


 クリスに協力してもらって談話室で挨拶だけして追い返すことにした。



「ライラック姫、ご機嫌よう。面会申請を受けて驚いたよ。こっそり帰宅したつもりだったんだよね」


「ああ、セキュリティーがザルだ。母君に締めてもらったほうがいいんじゃないか?」


 どうかな?

 訪ねてくるべきではなかったと理解してくれたかな?


 やはり私がテーラ宮殿で暮らすようになったら毎日のように訪ねて来るんじゃなかろうか?


「も、申し訳ございません。わたくしが毎日のように北門の衛兵たちに殿下のご帰宅伺いに参りますので、気の毒に思って知らせてくれたのでしょう」


 なんだろう?


 門衛を味方につけていることを評価してほしいのか?


 門衛が近衛より切り崩しやすいと知って、そこをついてくるのはリリィ姫と同じか......


 毎日のように訪ねてくるライラック姫に絆されて、主人を売るような門衛、要らないんだが?


 クリスが私の表情を読んだのか、笑いを噛み殺している。


「二人とも元気そうで何よりだね。二人からの面会申請で帰宅がバレちゃってね。申し訳ないがこれから父上と母上に謁見なんだ。失礼するよ。元気でね」


「私もご挨拶しないわけにはいかないだろうな」


「そうだね、クリスも一緒に来てくれると話が早くて助かるよ」


 飽くまでにこやかに、でも迷惑ですよアピールを言葉の端々に織り交ぜて。


 これでシオン公子は、私との面会に誘われれば止めてくれる様になるだろう。


 私は単独で女性に会わないから、シオン公子がついて来てくれないだけで、そこそこの牽制になるだろう。


「ルイス殿下、お夕食は宮殿で?」


 む。ライラック姫はなかなか押しが強いようだ。


「クリスに聞きたいことがまだまだあるんだ。情報漏洩を気にして宮殿に来たんだけど、いろいろと時間が取られて遅くなるようだったら食べて帰るかも知れないね」


「それでは、わたくしたちも一緒に......」


「ライラ、地下活動の話で、聞かせられない話が多すぎるんだ。今日のところは遠慮してくれないか? やっぱりウチにしとけばよかったな」


 クリスは、宮殿では仕事の邪魔が入りやすいから、次の打ち合わせは別の場所にしようと仄めかした。


 私が出ていったのも、ますます帰ってこなくなるのも、君のせいだよ、ライラック姫。



「そうだね。次はカールに頼んで、隠れ家の1つを貸してもらおうか?」


「ああ。空きがなくてもカールがアレクシアに命じれば、すぐに私達専用の隠れ家を準備してくれるんじゃないか?」


 さっさと立ち去らないと、私達はライラ姫のライバルのアレクシア姫に借りを作っちゃうぞ、ってことだな?


「それ、いいね。アレクシア姫にも会えるかな?」


「具体的な要望を言わなければ、カールが命じた翌日にでも要望確認に来るんじゃないか? でも『愛の重いアデル』がヤキモチを焼くからヤメとけ」


 うぎゃっ。

 そこ、踏み込んじゃうの?


 私の動揺を察知したシオン公子が思わずと言った風に言葉をこぼした。


「愛の重いアデル?」


「あー。うん。私の恋人だよ。彼女の前ではアレクシア姫の名前は禁句でね。怒って無言で立ち去るんだ。お別れのご挨拶もなしに、スタスタと出ていっちゃう。ハハハ」


 乾いた笑いに哀愁が漂っている自覚がある。


 事実だ。

 全部、事実だ。


 クリスが隣で爆笑しているのも、真実味を醸しているだろう。


 だからシオン公子が魔眼持ちなら、それが真実だとわかるだろう。


 これで「秘密の恋人」の存在も伝えられたし、その人物が「アレクシア姫」とは別人だと印象付けられただろう。

 ギョッとしたけど、結果的にナイスアシスト?



 でも、終わった。


 これでとうとうルイス皇太子とアレクシア姫の縁は完全に終わりだ。


 恋人がいる皇太子に北領の姫が嫁ぐことは絶対にない。


 私とクリス、なかなかのチームワークだったけど、私、最後に自滅しちゃった気がするよ。


 ライラック姫は愕然とし、シオン公子は思案顔だ。


 そこにミレイユ姫が通された。


 ミレイユ姫の東領派閥は、ライラック姫を監視しているようで、ライラック姫の訪問申請から私の帰宅を察知したようだ。


 私とクリスはミレイユ姫にも挨拶だけして、謁見があるからとライラック姫、シオン公子、ミレイユ姫を談話室に残して立ち去った。


 子供の頃、リリィ姫とミレイユ姫が庭園に訪ねてきたときによく使っていた手だ。

 クリスも手慣れたものだ。



 ただし、あの頃は、庭園に押しかけられて居住区の談話室に逃げていたが、今は居住区の談話室に押しかけられて居室に逃げているから、前線が後退している。


 アリー、じゃなかった、アデルを守るためには、私はもうしばらく学園の寮暮らしがいいかもしれない。



 それにしても、どうしよう。

 アデルになんと報告しようか……


 愛が重いという謎の接頭語をつけたのはクリスだよ。

 愛されてる感じがして、すっごく嬉しいけれど、言い出したのは私じゃないよ。

 信じてね。



 父上と母上に謁見したあと、クリスとアデルと三人で夕食をとった。


「ルーイは『愛が重い』を気に入ってくれるだろうと言ったのは兄様です。でも、あまり良い反応は得られませんでしたね。ルーイはどんな子が好きですか?」


 ええっ?


 これも「秘密の恋人」の設定のひとつなの?


 嬉しいよ?

 嬉しいです。


 最高です。


 カールも親友だ。

 うん。

 親友だ。


 でも、アデル、サービスし過ぎじゃない?



「その設定がアデルの負担になってなければ、私はとても嬉しいよ。私、愛されてないこと、ずっと気にしていたから」


「ルーイ? 兄様によるとわたくしの『愛が重い』のは事実の様ですよ? 『シールド数千枚はヤバい』と言われました」 

 

 クリスが黙々とナマコを口に運びながらも頷いている。

 この部分は、笑いツボにはまらないようだ。


 ナマコは、コリコリした軟体動物だった。

 軟体動物なのにコリコリしていたよ。

 違和感しかない。


 母上は、食通だそうだ。

 アデルは母上が取り寄せた「タコ」という軟体動物が気に入ったらしい。


 ナマコもタコも南領の海産物で、南領出身のライラック姫の為に仕入れてもらうようになったとのこと。

 母上もアデルもなんだかだで、親切だ。


「兄様はルーイの愛情表現はとても参考になったと感謝していました。わたくしと兄様は愛情表現が薄味だから『愛が重い』を努力目標にするぐらいが丁度良いそうです」


 え?

 何? 『愛が重い』は努力目標なの?

 何それ、贅沢。


「カールは礼儀正しさが前面に出ているが、ちゃんとイチャイチャしてくれるとマチルダが喜んでいると母上が言っていたよ」


 クリスは妹が他の男とイチャイチャしていてもヤキモチを焼かないタイプらしい。


「並んで歩く時はいつも手を繋いでいるんだ。『家族のご挨拶』だとか言って、しばしの別れでも人前でチュッとしてるし。私よりもはるかにイチャイチャしているよ」


「ふはっ。しかし、ルイス、知ってるか? 今年の学園祭のベストカップルは、『伝説のお姫様ごっこ』の君と秘密の恋人に投票したいとの希望が殺到していると聞いたぞ」


 クリスは学園に通っていないのに、情報通だ。


 それに、私とアデルは見えないところで相当イチャイチャしていると推測されているようだ。

 解せぬ。


 いや、あの時点では、全然だったよ?


「わたくしは学園の生徒ではないのですから、ダメでしょう。兄様とマティ姉様に組織票が入るように工夫しましょうか?」


「いいんじゃないか?」


 流石、アリー。

 アデルになっても兄様至上主義が冴えわたっていた。


 それでも、以前よりははるかに愛されている可能性を感じる今日この頃だよ。

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