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【閑話】兄妹喧嘩

「カールは、極甘なんだ」


「何? 極甘って、どういうこと? ギャンすか言い合いしたんじゃないの?」


 ルカこと南領惣領マグノリアが訪ねてきたついでに、カールとアリーの初めての兄妹喧嘩について話を聞いた。


「全然。カールが怒っているアレクシア姫を見てプッと噴き出したんだ。それでアレクシア姫が泣きだした。涙ながらにミレイユ姫を嫌がるアレクシア姫を優しく優しく宥めてた」


 優しく宥める?

 それ、私もやりたい。


「どんな風に?」


「隣に座らせて、向かい合ってタオルで涙を吸い取ってあげながら『私のかわいいダイアモンド、まだ返事を決めたわけじゃないよ。慎重に検討するだけだよ』と」


「何だそれ! 恋人みたいじゃないか?」


 羨ましすぎる。


「うん。ノーザスに住んでいた時、ヴァイオレット嬢から『妹を宝石に例えるヤバいシスコン』だと聞いてはいたんだけど、見たのは初めてで驚いた」


 ヴァイオレット嬢?

 誰それ、アリーの友達?


「ああ、北領臣民は姫を『至宝』だと表現するからね」


「それで姫が『検討するのも嫌です』と子供みたいなダダをこねて、カールが東領との政略について滔々と説いて……」


 アリーがカールにダダをコネた?


 カールが毒から生還した時にも礼儀正しく淑女の挨拶をしたあのアリーが?


 それはカールも動揺するかも。


「東領との政略婚が必要なら、わたくしがシオン公子に嫁ぎますと言いだしたんだよね? そこだけ聞いた」


 生徒会室に呼び出した時だ。

 それで私が「そんなの絶対にダメだ」とゴネて、「そんなに好きなら本人に愛の告白でもしてみては?」と、家に連れて行ってもらうことになった。



「そう。それでカールが真っ青になって『君が自分の幸せを探すお手本を見せてくれたら、政略は止めよう』と言ってごまかそうとしたら、もっと泣いて『兄様がお好きな方と結ばれるのがわたくしの幸せです』と……」


「あー。目に見えるようだよ」


 カールの幸せが自分の幸せ。

 アリーが言いそう。


 私はアリーを幸せにすることが出来ないんじゃないかと不安になるよね。


「カールは、アレクシア姫がずっと泣き続けるので慌て始めた。『甘いものを食べると落ち着くと聞くよ』と、ビスケットをアーンして、ハーブティーの入ったマグを渡して、また涙をタオルで吸い取って......」


 なかなか甲斐甲斐しいじゃないか。


「カールって、そんなに優しいんだ......」


「そうなんだよ。それでも涙が止まらないから、『断るにしても伯父上に相談に行こうな?』と時間稼ぎしようとしたんだが」


「ダメだったんだね?」


「そう。姫は『相談も嫌です』って、即刻断り以外の返事を受け入れず、カールが滾滾と優しく『断るにもマナーがあるんだよ』となどと言い聞かせて、の繰り返しだったよ」


「で、結局、カールが断ると言わなかったから、私に『ミレイユ姫に求婚してこい』と言い出したのか?」


 ルカは気まずそうポリポリと頬を掻きながら励ましてくれた。


「窮地に陥った時に頼られたんだから、君にも気を許しているんじゃない?」


 絶対違うだろ。


 悲しくなってきた。

 話を変えるか......


「まぁ、私もマイクロフトが泣くと甘いものを食べさせて宥めてたかも。あの子はダダを捏ねなかったけど......」


「リリィは宥めてもどうにもならないタイプだったけれど、ライラは私もそんな風だったかもしれない」


「もし、ライラック姫に『サウザンドス家を再興してほしいです』って泣かれたら、聞いちゃう?」


 ルカは首を振った。


「私は聞かない。だからカールは極甘だと思ったんだ。結局はお断りした。しかも、アレクシア姫の望み通りマチルダと婚約した。ありえない」


「良縁だと思うけど?」


「マチルダがシスコンに嫁ぐのが可哀想でね。紛争時にあんなに目つきが鋭かったカールが、妹の前では眉がハの字で優しいお目々の極甘公子なんだ」


 ん?


 あっ!


 ルカが初めてあった時のカールは、魔眼修行の途中で目つきが悪かったんだった。


 私はクリスやトムを見ていたから、全く気にならなかったけど、魔眼は隠すから、言っちゃだめなやつだよな。


 カールは元々、くりくりお目目のわんこ系公子だよ。

 初めて会った10才の頃なんて、かわいい真っ盛りだったよ?


 アリーもくりくりお目目のわんこ系公女だよ。

 その頃は微妙にぶちゃいくなところが何ともかわいかったよ?


 いろいろ重なってシスコンなカールにドン引きしているのは理解した。


 でも、為政者としてのカールは尊敬しているみたいだから、放っておこう。



「マチルダ姫にも甘々だから、大丈夫じゃない? 評判いいよ。理想の婚約者だって令嬢達に羨ましがられてるみたいだし」


「そうなのか? 学年が違うと滅多に会わないし、マギーのお茶会でもマチルダの話題は少ないんだ」


 マギーは2年の「女帝」で、マチルダ姫は1年の「女帝」だ。


 クリス不在で暫定西領惣領のマチルダ姫の方がはるかに格上だから、お茶会の淑女たちもマギーより格上の他の女帝の話を遠慮しているだけな気がする。


 アリーが「マチルダ姫の学園快適度」をつぶさにチェックしていて、いろいろ教えてくれるから、私が特に詳しいだけかもしれない。



「ふっ」


 ルカがフッと何かを思い出したように笑った。


「どうしたの?」


「リリィに甘々な父上が唯一最後まで聞いてやらなかったワガママを思い出したんだ」


「聞いてあげなかったワガママが一つだけってのも、なかなかだね」


 学園だって一度は領地に戻したけれど、中等部で復帰しているから、結局ワガママが通っているのか……


「父上は、娘に甘かったんだ。リリィは『ローズ』と改名したがったんだ」


「いや、流石に名前はダメでしょ」


 本当に目的のためなら何でもアリの姫だったんだな。

 少し背筋が寒くなった気がした。


「そうなんだよ。『リリィ』だってサウザンドス家では最上級の名前なのに。『ローズ』は帝室の花だから名前に付けるのは遠慮するんだが、『帝室の花の名前を頂ければ、月なんかには負けません』と言ってね。当時は意味が分からなかったよ」


 自分の名前を「帝室にふさわしい花」に変えれば、有名小説の一節を味方につけているミレイユ姫と対抗できると思ったのか……


「申し訳ないね。姫に宝石の名前をつけるノーザンブリア家も帝室の至石『ダイアモンド』は遠慮してくれているのか、歴代7姫に『ダイアモンド』はいないね」


「ああ、至石はノーザンブリア家でも『ダイアモンド』なのかもしれないな。カールも『私のかわいいダイアモンド』だろ?」


「名前の宝石はアレキサンドライトなのにね?」


「へぇ。珍しい石だな。私はまだ見たことがない」


「私も。いつかアレキサンドライトのピアスを貰える日を夢見ているよ」


 でも、まぁ、このシールド魔法が込められたピアス、ちょっと気に入っちゃってたりするけどね。

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