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【閑話】マグノリアの謝罪


「なんだか久しぶりだね、ルカ。今日はどうしたの?」


 ルカと改名し、南領紛争時、行動を共にした南領公子マグノリアが学園の寮室を訪ねてきた。


「君に詫びたいことが沢山あって......」


「詫びる? あぁ、まぁ、座ってよ。お茶をいれるから」


 心当たりはいくつかあるが......



「まず、ライラの事、隠していてすまない」


「いいよ、予想はついていたよ」


 これは、ライラック姫の埋葬の時に、遺体が本物じゃないことを隠したことだろう。


「予想がついていた?」


「魔眼持ち達には、君の手の甲の『火の継承紋』が、赤く光って見えるんだって」


「火の継承紋が光っている?」


 ルカは継承紋については知っているようだが、光ることは知らなかったみたいだ。


「死後間もない誰かを『救済』の権利を使って生き返らせると、光るようになるんだって」


「生き返らせる? ルイスにも継承紋があるのか?」


「あるけど、君の様に『救済』が使える紋じゃない。『救済』を使ったら紋が光るのは、権利を使うことで継承者の義務から逃れられなくなる証らしい。そして、生き返らせることができるのは、一生に1人だけだそうだよ」


 テーラ家の紋章は用途が他と全く違う。


「つまり、私がライラを助けたと?」


 自覚がないこともあるんだな。


「カールはサウザンドス家と会ったことがなかったから、誰を見てもわからなかっただろうけれど、私はライラ姫以外とは会ったことがあるからね。君が救済を使ったとすれば、ライラック姫かな、と思っていたんだ」


 アリーに聞いたのは、ついこの前だから、それまでは私も気付いていなかったけどね。


「別人だと明かせば君が遺体を探しに行くと言いそうだと心配した。それに私は遺体がライラじゃないことに期待を寄せていたんだ。南領紛争中に孤児院の慰問をしていたのは、密かに探していたからだ」


 気を使わせてしまったようだ。

 申し訳ないね。


「ウェストリア家で育てられたこと、知らなかったの?」


「知らなかった。テーラ宮殿で保護されることになったという公示を見て知ったんだ」


 公示を見て?

 それじゃ、一般大衆と同じタイミングじゃないか。

 まさか知らないとは思ってなかった。


「会ってないの?」


「会いに行ったけど、ルカなんて平民の知り合いはいないと面会を拒否された」


 え?


「君が身分を隠しているのを尊重してくれたのかな?」


「クリスの話では、私がサウザンドス家を再興しないなら、自分がやると怒っているそうだ」


「それは......」


 わからないでもないが、サウザンドス家を再興するって言ったって、実力が足りなさ過ぎるんだ。


 カールとアリーは実はアホみたいに優秀だからやっていけてる。


 備えもあったし、テーラ家の力を借りるのも上手いし、ウェストリア家からも愛されてるし、イースティア家は取り込んでるし、サウザンドス家なんて保護してる。


 腐敗貴族達も粛清して、味方しかいない状況を作り出した。


 アホみたいに優秀なんだ。

 ホントに。


「ライラック姫は再興出来ると?」


「本人はそう思っているようだが、クリスは『西領のお姫様教育では統治者にはなれない』と言っていた」


「ライラック姫は、リリィ姫の遺志を継いで『皇太子妃の座』争奪戦に参戦するとも聞いたよ。そんなものもうないって言ってるのに」


 ルカは小さくため息をついた。



「君に謝りたいことの2つ目は、それだ。煩わせてすまない。サウザンドス家を再興するのは君との子供だと決め込んでいるようなんだ」


「それで、父上がライラック姫を『正妃』に、アリーを『愛妾』になんて言い出したのか......」


 アリーとライラック姫は統治の実力に天地の差が開いている。

 しかも北領の姫は滅多に生まれない希少性もあって、姫としての価値が数段上だ。


 アリーがライラック姫より下に扱われるなんてありえない。


「君は陛下と対立して寮に入ったのだろう? ソフィア妃も実家に帰り、弟君は地下に潜って、一家離散になった元凶になってしまった」


「君のせいじゃないよ。それに君が再興すればいいじゃないか?」


 ルカは頭を抱えた。



「君に謝りたいことの3つ目なんだが......」


「サウザンドス家は再興しない?」


 なんとなくそんな気はしていたが……


「君は『帝室一強論』を知ってるか?」


 こっちは予想外だった。

 ムリゲーなやつだ。


「世界を一つの政府で統治する一元統治思想ね。ウェストリア家がやるなら、私は喜んで退くんだけど?」


「え?」


「何なら隠居先も決めてるよ。でもテーラ家でやってほしいんでしょ? それは妻次第だよ」


 カールは無断でやろうとしているんだから、ルカは頭を下げに来た分だけ誠実だ。


「妻? いるのか、妻が?」


「まだいないよ。心に決めた人がいるのは知ってるよね。もう絶望的だけど」


 いや、最初から絶望的だったのが、ようやく明らかになりつつあるだけだけど。


 

「それも、謝りたいことの1つだ。帝室一強論を実行するためには、領主一家は邪魔だから、みんなで徐々に身を隠していく未来が来る気がしてる。その時はきっとアレクシア姫も......」


「そこは大丈夫だと思う。私が仕事しないで人探しに明け暮れたら、姿を表すよ。そういう子だ」


「は?」


 ルカは、啞然としている。


 私は開き直り過ぎているだろうか?


「ルカ。君がとても律儀で気持ちの良い青年だということがよくわかったよ。気にしなくていいよ、全く」


「全部押し付けられても、平気なのか?」


「平気かどうかは妻次第。一元統治思想は西公が初めてな訳じゃない。そんな世の中を見てみたいんでしょ? 本当にそうなったらやってみるだけやってみるよ。ダメだったら皆んな戻ってくるでしょ」


 ルカは頷いているから、少なくとも彼は危機的状況に陥ったら戻ってきてくれそうだ。


「君は立派だな」


「ははっ。立派じゃないよ。父上は大反対だから、ライラック姫のサウザンドス家再興に助力して、南領の統治を丸投げすると読んでいるだけだよ」


「君や弟君が寮や地下に移ったことで、ライラ皇妃としてサウザンドス再興の為の次代を生むことは絶望的になったんじゃないのか?」


 甘いな。


「ライラ姫が本気で()()()()()()()()()()サウザンドス家を再興したいなら、父上に母上と離縁させて、父上の子を産めばいい」


「ソフィア妃はそんなつもりで家を出たのか?」


「夫婦喧嘩なんて真に受けるべきじゃないけど、そんなことを言ってたよ。啖呵を切った母上を初めて見たけど、カッコよかった」


 私がニコニコしてると、ルカはプッと吹き出した。

 クリスの笑いツボもおかしいが、ルカの笑いツボも謎だ。


「一家離散しても、仲良しなのだなテーラ家は。それに比べて私はたった1人の妹に会ってもらえないなんて、不甲斐ないな」


 母上はアリーに釣られて既に宮殿に戻っているよ?


「反抗期かもしれないよ。あの兄上至上主義のアレクシア姫だってカールに反抗したんだから」


「ああ、あれは凄かった」


「その時のこと、詳しく聞きたい」


 将来アリーと夫婦喧嘩した時の為に参考にしたい。


 それからカールとアリーの初めての兄妹喧嘩についていろいろ教えてもらった。


 プライベート情報の漏洩?

 まぁ、大目に見てよ。


 ルカってさ、そういうガードが緩いところが領主に向かないと思うんだ。

 だから、彼が南領領主になりたくないのであれば、出来る限りのことはやりたいなと思っているよ。

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