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ルイス前編11

「ルーイ。忘れたふりをするというのがテーラ家からの指令なのです。ルーイが知らないことの方が驚きです。わたくしが陛下の命に背いたことは内緒にしてください」


 私は何度も頷いた。


 ()()()()からの指令?


 もしかして、私が最初から「アリー」と問いかければ「ルーイ」と返してくれる仕組みだった?



「それから、ごめん。アリーが抱っこが嫌いな理由、わかっちゃった」


 アリーは重くなかった。

 羽根のように軽いという表現があるけど、そういうレベルじゃなくて、重さがなかった。


「魔力障害なのです。気を抜くとプカプカ浮いています」


 拘束の緩んだ私の腕の中を抜けて、馬車の中でプカプカ浮いて見せた。


 驚いたけれど、そんなことよりくっついていたくて、プカプカ浮いているアリーを引き寄せて膝の上で抱っこした。

 私のことを覚えているなら、ちょっとぐらいベタベタしても大丈夫だよね?


 幸せ。


 幸せな気持ちがぶわっとあふれ出た気がした。

 アリーといるときはいつもこうだ。


 幸せ。


「重さはないけれど、くっついている感覚も、暖かさもあるんだね?」


 幸せ。


 もう、語彙が一個になってしまいそうだ。


「はい。だから、わたくしは、皇太子妃に不適格なのです。ちゃんとしたお子が生まれないかもしれません」


「お子?」


 私は顔から火が出るように真っ赤になった自覚があった。

 アリー、私とお子、作ることを考えたこと、あるの?


 動揺で心臓がバクバクとした。

 きっと、抱っこされているアリーにも感じ取れるだろう。


「ルーイはお子を楽しみにしているでしょう? 子育てについてもいろいろ考えているでしょう?」


 うぎゃっ。

 あれだ!

 ミレイユ姫がアリーを訪ねてきた時に、我が子は学園に通うかどうかについて本人の判断に任せるとか何とか言ったのを覚えているんだね?


 あれは、深い意味はないんだよ?

 君との夫婦アピールをしたかっただけで。


「アリーが生んでくれるお子なら、どんな子でも嬉しいし、なんならお子が生まれなくても、君ば傍にいてくれれば、私は最高に幸せなんだ」


 ひー。

 私は何を言っているんだ?

 アリーとお子作りが頭を駆け巡って、もうちょっとしたパニックだ。


 幸せ過ぎて怖い。

 私、今日死ぬのかな?


「ルーイはそれでよくとも、世界が困ります」


「次の皇帝のこと? トムがいいよ。私より責任感あるし」


「陛下はまだ何も教えてくれないのですか?」


「しつこく聞いたら、成人したら全て話すと言われたよ。あと1年だ」


 アリーは、自分の頭を私の首元にもたれ掛けさせて、アリーの首裏を支えていた手を剥して、私の手の甲を指でなぞった。


 うーん。

 私の腕の中でまったりとくつろぐ愛妃、最高だ。


 幸せ。

 幸せ。

 幸せ。



「ここに、テーラ家の紋があるのです。輝いていません」


 テーラ家の紋章?

 私の手の甲に?

 聞いたことがない。


「魔眼で見えるの?」


 トムにも見えているのか?


「はい。父様はノーザンブリア家の紋章が水色に光っていました。兄様も。ルカはサウザンドス家の紋章が赤く光っています。エドワード様とクリスはウェストリア家の紋章ですがお二方とも光っていません」


「父上のは、白く光っている?」


「陛下にはありません。ミッキーの紋章はテーラ家のものではありません。伯父さまと同じ紋章ですが、光っていません」


 ミッキーは、アリーの伯父君と同じ紋章?

 親子継承とは限らないということか?


「父上には、ない?」


 アリーは静かに首を振った。


「これについては早い方がいいと思います。テーラ紋章について知っていそうな人を紹介します」


 光っている、光っていないの違いは、大事なの?


「試練を越えたかどうか、とか? 私にとっては君が傍にいてくれないのが一番つらい試練だよ」


 これ以上離れているなんて、もう嫌なんだけど。



「ルーイ。ウェストリア家の二の姫は実在します。その方が『皆が皇太子が娶るべきだと考える姫』です」


 ウェストリア家の二の姫?

 皆って誰のこと?


「私は嫌だ。皇太子はトムの方がいいよ? 魔眼修行を終えてから恋していなくてフリーだし」


 アリーは、私には見えない紋章を指でなぞるのを止めて、口元に引き寄せて、キスをくれた。


 キュン死するかと思った。


 手の甲へのキスは、忠誠の証……



「もし、この紋章を持たないものが帝位についたことで世の中が乱れてしまったのだとしても、ルーイはトーマス殿下に帝位をお譲りになりますか?」


 父上は紋章を持っていないのに帝位についたから、世が乱れた?


 アリーはそんな風に思っているのか?


 文化祭で踊った時、アリーは「世の中がこんな風になってしまった」と言った。


 その時もなんだか私の目に写っていないものがアリーには見えているような感覚に囚われた。

 

 

「アリー。君は何を知っているの?」


「帝室の継承紋のことは知りません。ノーザンブリア目線の世界だけ。でも、信じています。キラキラ皇子様はきっと素晴らしい皇帝になると」


 アリーはそう言うと、私の手をアリーの首裏に戻して、何かを訴えるように私の瞳を覗き見た。


 何?

 キスしていいの?


 そんなわけないよね?


「ははっ。アリーにも一応、私がキラキラ皇子様に見えているんだったね?」


「ええ。胡散臭いぐらいにキラキラなさっています。きっと大丈夫です」



 ガタリ、と音を立てて馬車が止まった。

 西領公邸に到着したようだ。


 流石にお姫様抱っこで西領公邸に伺うわけにもいかず、アリーを膝の上から降ろそうとしたら、予想外のことが起きた。


「殿下。わたくしのお役目はここまでです。中に『本物の二の姫』がいらっしゃいますから、紹介を受けてください」


「本物の西領の二の姫が公邸に? 食事会も『本物の二の姫』と?」


 アリーはゆっくりと頷いた。

 お姫様ごっこの終わりは、ここ?


「ウェストリア家とノーザンブリア家の食事会です。わたくしはアレクシア姫として参加します」


「カールと一緒に来るんだよね?」


 他の男がエスコートしたりしないよね?


「はい。兄様と。それでは『秘密の恋人』より皇太子殿下へお別れのご挨拶を申し上げます。お気をつけて」


 アリーはそう言って、ノーザンブリア家の「家族のご挨拶」をくれた。

 唇と、唇の。


 ぐふっ。

 嬉しくて昇天するかと思った。


 もしかして、さっきもキスして良かったとか?


 まさか、ね......



 西領公邸に入った私は、クリスと面会し、彼の今後の地下活動について話を聞かせてもらった。


「私達が『東領』だと思っていた敵方が実は元帝国貴族達だということが分かり始めた」


 元帝国貴族達?

 複数系?


「東領は既にその帝国人達に乗っ取られたと言いたいのか?」


「イースティア家は既に東領にはいない。私はトムから聞いたから、君も知っているものだとばかり思っていた」


 イースティア家は東領におらず、帝国人が東領にいる?


「私は成人するまで何も教えてもらえないそうだ」


「そうか。テーラ家も複雑なようだな。だが、陛下から君に対する悪意は感じられない。だからアレクシアも素直に陛下に従っているんだろう。用心するに越したことはないが」



 クリスはそう言うと、私の右手の甲に目を落とした。

 アリーに見えていたテーラ家の紋章が見えているのだろう。


 アリーに言われるまで気づかなかったが、これまでも魔眼持ち達には紋章が見えていたのだろう。


「成人までまだ時間があるし、私も魔眼修行をやってみようかな……」


「ふはっ。それは止めて欲しい。君が闇落ちすると厄介だ。それに魔眼修行には受講資格があるんだよ。恐らく君は教えてもらえない」


 クリスの笑いツボはよくわからない。


 トムも魔眼修行の後半は、気が立っていて少し不安定だった。

 気さくで大らかなトムがああなるんだから、気が短い私は教えてもらえないかもしれない。


 でも、何かして気を紛らわせないと、アリーを追いかけて北領へ押しかけてしまいそうだ。


 アリーへの気持ちは、いつも私を不安定にする。


 クリスには「君はアレクシアが絡むとバカになる」と言われたことがあるが、事実だ。


 ではこの気持ちを捨てることができれば、私は安定するのか?

 そうやって安定した私は、私と言えるのか?


 アリーを好きで好きでたまらないのが「私」だと思うのだ。


 バカになろうと、闇落ちしようと、それを止めたくはない。


 なんだか、な。



 クリスとの面談を終えた後は、西領の二の姫との対面だった。

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