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マーガレット7

 夜間シールドを張るために昼夜逆転しているアリスターについて、城の者たちは「アリスターに変装したアレクシア姫は任務を放棄して寝てばっかりいる」と非難しました。


 また「アレクシアは城に戻れば幽閉されることが分かっているから、避難路の真ん中に居座って無為に過ごしている」と後ろ指を刺されました。


 わたくしは、怒りに耐えながら、ニコニコとしてやり過ごしました。


 何故なら、アレクシアの見方がアレクシアの敵と同じ方向の噂を流しながら、潮流を僅かに操作していることを理解し始めたからです。


 例えば、かつてのわたくしは、アレクシアの敵側に属していました。

 アレクシアの「お話相手」の立場を利用して、情報を収集し、お茶会で悪評を撒き、嘲笑の的にしました。

 

 それに対し、アレクシアの味方は、悪評を利用して、城から追い出しているように見せかけて、その実、アレクシアに封地を与え、黒衣を着せて普通の人は寄り付かないようにして、富を蓄えました。



 今は、アレクシアの敵は、わたくしとは別の声が大きい人達を使って、大量の移民を受け入れたことで後で自分たちが貧国の責任を問われないように、アレクシアの悪評を立て続け、朝議での立場を弱くしています。


 それに対し、アレクシアの味方は、敵が全ての責をアレクシアに擦り付け易くなるように仕向けているように見えますが最終目的はまだ見えません。


 トータルでは、皆がアレクシアの人気をよく知りつつも、それを利用して移民による貧国の責をアレクシアに擦り付けようとしているのです。


 城の第3勢力、「静観者」たちはアレクシア派閥でしょう。

 いつの間にどうやって取り込んだのか分かりませんが、髪を切る前からアレクシアには自分の派閥があったのです。


 とはいえ、わたくしはまだアレクシア崇拝者の新参者です。

 何故、他の者たちがアレクシアの為に動かないのか分からず、観察を続けることにしました。


 そんな中、アレクシア本人がアリスター姿でひょっこり研究区域に顔を出したのです。



 アレクシアはアリスター姿でマッドサイエンティストたちと領都ノーザスの郊外を巡り、湧き水があるけれど都市にするにも農地にするにも十分な水量が確保できない寂れただだっ広い土地を丸ごと購入しました。


 わたくしはアレクシア姫姿でお供することを許されました。

 アリスターがアレクシアだということが分かっていても、お慕いする英雄の横を歩けることが嬉しくて顔がほころびました。


 美しい少年姿に心が踊り、微笑みかけられると赤面しました。


 アレクシアがアリスターを囲っていると本格的に噂されるようになったのは、この時の私の所為でしょう。わたくしのせいでアレクシアの悪評は留まるところを知りません。



「マーガレット姉様、これから慈善活動は、マーガレット・サマーとして行動してください。屋外での慈善活動は苦手なので、戻った時に対応できません」


「ご、ごめんなさい」


 最初こそ、禁忌だと認識して恐る恐る行っていた研究地域への訪問と避難民たちへの慈善活動は、次第に頻繁になりつつありました。


 それがわたくしがイメージする「優れた姫」の姿だったから。

 アレクシアの名誉改善に貢献できていると思っておりました。


「アレクシア姫は『引きこもり』じゃないと、わたくしもカール兄さまも困るのです。逆にアレクシア姫は『ひきこもり』だからこそ、数か月間、城から出なくとも誰も気に留めないのです。朝議が終わったらマーガレット嬢に戻って自由になさってください」


 そうでした。

 影武者マギーの基本任務は、朝議に黙って玉座に座っていることなのでした。


 欠席したことはありません。


 でも、その場の全員が、わたくしを影武者だと知っており、いてもいなくても顧みられることのない存在になっていました。


 わたくしがそのことについてアリスターに相談すると、少し驚いた顔をした後、励ましてくれました。


「いい感じです。そのまま空気に徹していてください。いつの日か中身が本物のアレクシア姫に入れ替わっていても誰も気付かないレベルに目立たないで」


 一緒に特大のイタズラで大人たちをビックリさせようよと誘っているかのようにニッコリ笑って。




「今あるお金は全部使ってドカンとやっちゃってね?」


 アリスターは、幽霊というあだ名の臨時筆頭マッドサイエンティストの助手にアレクシア姫の印章を渡して、たった3日で再び避難路の守護に戻りました。


 大喜びのマッドサイエンティストたちが建設を計画したのは、先端研究設備を備えた医療都市です。

 農民になれなかった難民たちは、都市インフラ整備と病院建設に従事しました。

 

 移民という名のふんだんな建設作業員を手に入れたマッドサイエンティストたちのはしゃぎようと言ったら、可笑しくてたまりませんでした。


 最初は移民達の仮設住宅。

 その後は、水の浄化や再利用の研究と建設が大盛りあがりでした。


 次の2年ほどで医療都市を完成させる。

 

 更に、医療都市と領都ノーザスを結ぶ公道やその周辺の居住区を建設。


 建設作業員たちが一通りの都市整備の技術を身に着けたら南領に戻し、南領を再建するという計画のようです。



 お金になるという理由で「医療都市」を指定したのはアレクシアですが、残りは彼女の崇拝者が彼女のために提案した計画だそうです。


 アレクシアが領主になればいいのに……


 わたくしの脳裏にそんなことが浮かんだことは、内緒です。


 あっという間に1年半が過ぎ、北領への移住希望者が落ち着き始めたので、カール様は南領からの撤収を決めました。



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