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ルイス前編4

 アリーは、動かなくなった両親のご遺体をその目で確認し、母上に促されてご遺体の冷たさをその手で確認し、死がどういうものかを理解した。


 でもカールの遺体は見ていない。


 兄様はどこですか?

 兄様は無事なのですか?

 兄様に会わせてください?


 ずっと泣き続けていたから、宮殿を離れられない母上の代わりに、私がアリーと病院へ行った。



「兄様、わたくしが身代わりになりますから、目を覚ましてください」


 アリーは泣きながら、何度も何度もそのようにカールに語りかけた。



 アリーの伯父君が帝都に駆け付けたが、アリーを迎えに来たのは世話係だった。


 カールを見舞い、北領領主夫妻のご遺体の北領への搬送手配を行い、葬儀、埋葬の手配に、告示、業務指示などなど、忙しいのは分かる。


 でも、自分でアリーを迎えに来なかったことに不信感を感じた。


 伯父君が忙しいのであれば、その奥方でも良かったはずだ。


 だが、世話係しか寄越さなかった。

 どう考えてもおかしいし、アリーの待遇が悪すぎる。


 父上は「ちゃんと丁寧なお礼の手紙を頂いているし、多忙なだけでおかしなところはない。姫をお返ししなさい」と仰った。


 しかし、母上は警戒し、アリーは私達と共に帝室の馬車で北都ノーザスに連れ帰ることにした。



 ノーザス城の迎賓館に入った私達は、この伯父君が挨拶に来ないことに更に不信感を持った。

 ノーザンブリア家の血を引く傍系も誰も挨拶に来なかった。


 私たちのアテンドについたのは、ノーザンブリア家とは血のつながりがない北領の外交長官だった。


 伯父君は既にノーザンブリア家を出ており、城の主ではないため、ご挨拶する立場にないのだと説明を受けた。


 その後、アリーがノーザンブリア家の暫定当主として、私たちに非礼のお詫びに来たことで、私は理解した。


 私とアリーの縁談は、破談になったも同然だ、と。



「領主夫妻が2代続けて毒に倒れたことで、北領の臣民たちが心の余裕を無くしており、ご不快な思いをさせてしまい、大変申しわけございません」


 アリーは、言い慣れない言葉でご挨拶するために直前に練習してきたことが分かる少しのたどたどしさを残しながらも、立派にノーザンブリア家の暫定当主のお詫びの言葉を述べた。


 母上は、あんなに小さい子にこんなことを言わせるなんてと更に怒った。


 ノーザスに戻るまでのアリーは、両親を亡くした悲しみに暮れ、兄を恋しがる唯の「妹」だった。


 ノーザスに戻ってからのアリーは、小さいながらもしっかりと家の務めを果たそうとする「ノーザンブリア家当主」になった。



 母上は、「もうしばらくただの小さい女の子でいられるように、帝室がサポートしましょう」と闘志を燃やして、アリーに言い聞かせた。


「カール卿の元に連れて帰れるようにするために、お葬式と埋葬の間は、ずっとソフィアかルーイにしがみついていて」


 アリーは、人差し指と中指の第2関節同士の間に唇を埋めて、少し考えた後、承諾した。


 アレクシアは忠実に指示に従い、母上と私の傍を離れたがらなかった。


 離されると、渾身のギャン泣きで、私たちの名前を呼んだ。


 そして、ちょっとおかしくなった子供のように私たちの名前以外の言葉を話さなかった。



 喪主は伯父君だったが、アレクシアは伯父君の傍に行くのを嫌がって、ずっと私達と同じ参列者側にいた。

 従兄弟たちにも怯えて、近づきたがらなかった。



 それは伯父君にとって非常に都合の悪いことだった。


 領主の娘が領主の死を悲しんで泣くのではなく、テーラ皇后と皇太子の名前を呼んで泣き叫ぶのだ。


 外聞が悪すぎる。


 私たちの説得もあって、ご両親の埋葬の後、アリーは私たちと共にテーラ宮殿に戻された。



 私たちが宮殿に戻った時には、カールは病院からテーラ宮殿に移されていたので、朝夕2回、アリーの手を引いてカールの病室へ連れて行った。


 アリーは皇太子妃の居室で預かった。


 皇太子の婚約者だから、正しい処遇だ。


 夫婦の寝室に眠る年齢ではないので、真ん中の部屋を二人の居室に、両脇をそれぞれの寝室にして、基本的に起きている時はずっと一緒にいた。


 カールが目覚める前のアリーは、カールが永眠してしまう夢を見ては、泣き叫んだ。


 だから母上がアリーを抱きしめて眠った。


 母上は、そんなことしたことなかった。


 きっと実子ではない私はほとんど抱っこもしたことがないだろう。


 最初の子供のトムは、あまり抱っこさせてもらえていない。


 一番下のミッキーだけは、それなりに接触出来ているが、それはミッキーの対人恐怖症が始まってからだ。


 アリーに関しては皇族ではないというのもあるが、皇太子の私が直々に母上にアリーの世話を任せている様子を見せたので、女官たちは母上を止められなくなった。


 母上は大喜びで思う存分甲斐甲斐しく世話していた。


 簡単に言うと、母上は女官達を締めることができていなかった。


 アリーを皇太子妃の部屋に連れ帰った日なんて、好奇心旺盛な女官が見物に来た。



「この3人の侵入者を投獄して」


 どの家もそうだが、テーラ家にも所属紋がある。

 私の個人紋は、テーラ家の家紋の中に太陽の意匠だ。


 襟章が皇太子所属紋じゃなかった3人を即刻投獄した。


 女官長が慌ててやって来て、誤解だなんだと言い訳を並べ立てた。



「平時は規律が緩くてもアットホームでいいのかもしれない。でも、私の妃のご両親が毒で暗殺されたばかりなんだ。暗殺者の侵入を防ぐのに協力してくれるかな? 私の妃はノーザンブリア家の暫定当主でもあるんだ。重々失礼のないようによろしくね?」


 私は微笑みを湛えながらも、譲らなかった。


 言うことが聞けないなら、次に投獄されるのはお前だ。


 そう思ったのが伝わったのだろう。

 その日から、テーラ家の居住区はピリッと引き締まった。


 投獄された3人の最終的な処置は知らない。

 父上が厳重な警備と緘口令を敷いて、女官長も腰かけ気分の女官や口の軽い女官達は入れ替えたようだ。


 ん?

 怖い?


 知ってる。


 アレクシア姫に関しては人が変わると良く言われる。


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