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マイクロフト15

 翌年は、カール様が帝立学園の高等部に入学なさって、姉様が北領に戻った。

 臨時の主席研究員の僕も、テーラ宮殿に戻されてヒマになった。


 姉様と僕が二人で北領でお留守番するのは、良くないらしい。


 ルーイ兄様、超絶ヤキモチ焼きだから、難を避けるためにも帝都で大人しくしていた。


 ヒマつぶしにトム兄様やクリストファー卿の地下組織撲滅プロジェクトの方を手伝うようになって半年くらいたったある日、姉様が北領からぶっ飛んできた。



「ミッキー、助けてください。兄様がミレイユ姫と婚約してしまうかもしれません!」


 カール様とマチルダ姫は、ボチボチだけどいい感じに距離を詰めているって聞いていたから、驚いた。


 どうやら北領の当主代理ノルディック様を経由して東領からカール様に持ち込まれた縁談らしい。


 北領の大粛清の後、すっかり影が薄くなって、力も弱まってはいるけど、カール様が成人するまでは伯父君が監督者的な立場にある。


 大粛清の後、追放になった北領貴族の殆どが東領へ引っ越したことで、全ての黒幕は東領にしか見えなくなった。


 北領は、まだまだ多くの移民を抱えているから、国力的にはすぐには動けないけれど、ノーザンブリア家が強さを増していることは東領からも見て取れると思う。


 カール様はあと2年で成人だし、これが敵方の最後のあがきって感じなのかもしれない。



「お初にお目にかかります。マチルダ姫。テーラ家第3皇子のマイクロフトです。突然お邪魔いたしまして申し訳ありません」


 父上とも相談して、姉様と共に西領公邸のマチルダ姫に突撃した。

 なんか、めちゃめちゃ驚かれた。


 僕はマチルダ姫を見たことがあったけど、マチルダ姫は僕を見たことがないからね。


 あからさまに「誰だっけ?」って顔されたよ。

 ま、仕方ないよね?


 姉様から東領からミレイユ姫とカール様の縁談について打診があったとお伝えしたら、ボロボロ涙を流していらした。


 マチルダ姫もカール様のことがお好きらしい。


 カール様、流石です。


 ルーイ兄様と違って、ちゃんとマチルダ姫の心をガッツリ掴んでらっしゃいました。


 よかった、よかった。



 マチルダ姫の方から、ご両親にカール様と結婚したいとおねだりしてくれるとも言ってくれた。

 訪ねて行って良かった。


 姉様と姉様の英雄のやり取りを見てたら、ムネアツで、僕も泣いちゃった。


 僕の泣き虫は治っていないけれど、この部分は「気立てが良い」の一部だから、敢えて治す必要もないかと思ってる。


 マチルダ姫のお父君だって、かなりの泣き虫だけど、立派な西領領主だしね?


 ゴードンとカーナにとっては、僕と姉様の泣き虫はいつものことだから、周到にタオルを準備してくれてた。


 多分、次の任務では、ゴードンは自分のタオルも必要になりそうな感じでウルウルしてた。



 宮殿に帰ったら、父上と母上から呼ばれて、マチルダ姫との会見についての報告を行ったら、父上と母上も、カール様がお望みになるなら、少しゴリ押し気味でお二人の縁談を進める方がよいだろうとおっしゃった。


 いつでも求婚に行けるようにこれからしばらく「良き日」は開けといてくれるって。

 なんなら翌日が「良き日」だから、念のため準備しておいてくれるって。


 どうやら西領の方でも外野の準備はできていて、後は本人たち次第ってところまで詰まっているっぽい。


 流石です。姉様。



 それから、カール様から僕のノーザンブリア家への養子入りについて打診を受けているという話を聞いた。


 姉様の婿養子じゃないよ?

 普通の養子入りだよ。


 姉様はいつかはどこかへお嫁に行く。

 その時、ノーザンブリア家にはスペアがいなくなるから、北領を回せる人材をノーザンブリア家に迎えたい。


 僕は北領で姉様の封地を管理して、移民の受け入れを支えた実績があるし、何より研究者たちから猛烈に愛されているから、姉様が不在の時の「臨時」主席研究員じゃなくて、正式な主席研究員になって欲しい。


 受けてくれるなら、僕の封地は、研究区域と現在開発が進んでいる医療都市になる。


 仮に姉様の嫁入り先が北領内だったとしても、アルキオネ伯爵籍の封地をいっぱい貰ったから、研究関係は僕に任せたい。


 そう言うことらしい。



 僕はボロボロと涙が出て止まらなかった。

 ゴードンがいないから、タオルが間に合わなくて、顔が涙でぐちゃぐちゃになった。


 僕はノーザンブリア家がテーラ家と同じくらい好きだ。

 北領が好きだし、研究地区も、研究員たちも大好きだ。


 なにより、あの場所は、猛烈に居心地がいい。

 まるで僕の為に作られたような場所なんだ。


「受けてもよろしいですか?」


 父上も母上も笑顔で同意してくれた。

 そして、父上の瞳から涙がこぼれたのを初めて見た。


 姉様はとうとう父上まで人間にしてしまった。

 神の遣いで間違いない。



 カール様とマチルダ姫はその翌日、婚約を結んだ。


 僕も東領公邸にお断り状をお届けするお役目を頂いた。

 テーラ皇子としての最後の仕事が、姉様のお手伝いなんて、感激だ。



 その次の「良き日」にカール様と姉様がノーザンブリア家の正装でテーラ宮殿にお運びになって、僕の養子縁組が調印された。


 ノーザンブリア兄妹は、この日以降、黒衣を脱いだ。


 僕の養子縁組がきっかけで喪が明けるなんて、本当に光栄すぎて、ドキドキした。


 僕は僕の新しい紋章、ノーザンブリア家の水色のサッシュ、僕の未来の奥さんに贈る僕の瞳の色のピアス、マイクロフト・ノーザンブリアの身分証などなど色々なものを賜って、ノーザンブリア家の「家族のご挨拶」で迎えられた。


 唇にチュウだ。


 カール様からチュウされたときには、本当に驚いた。


 そして、なんと!

 姉様からもチュウして頂いた。


 こんなにお美しい人からチュウしてもらえるなんて、マイクロフト・ノーザンブリアになって良かった。


 ルーイ兄様がその場にいなくて命拾いした気もする。



 テーラ家のデコチュウと同じで、特別な時にしかしないから、あまり知られていないかもしれないと言っていた。

 なんならサウザンドス家も唇にチュウのハズだと聞いた。



 その夜は、テーラ家とノーザンブリア家の晩餐会があって、姉様とイチャイチャしようとするルーイ兄様が見られるかと思ったけど、ルーイ兄様はとっても控えめだった。


 談話室からダイニングホールまで標準エスコートでお連れする間、何やら笑顔でお話されていたけれど、いつものルーイ兄様のウキウキ感が感じられなくて、ちょっと心配した。


 その日の主役は僕だったから、遠慮してくれたのかなとも思った。



 帰り際にはテーラ家の皆からハグとデコチュウで見送られた。


 よく考えたら、トム兄様からデコチュウしてもらったのは初めてだったし、僕が皆にデコチュウしたのも初めてだった。


 最初で最後ってやつだ。


 ノーザンブリア家では、もっと沢山の「家族のご挨拶」の機会があるといいなと思った。


 え?

 下心じゃないよ?


 慶事が多いといいなって意味だよ?


 ホントだよ?

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