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マイクロフト14


 僕はルーイ兄様が帝都にご帰還なさる前に宮殿に戻った。


 いてもいなくても分からない第3皇子だから、研究地区で僕をガン見していた近衛達が姉様から離れて僕につくようになったこと以外は、特に何の変化も引き起こさなかったと思う。


 僕はいつの間にか「無菌室の皇子」と呼ばれるようになっていた。

 姉様とお揃いだ。


 姫じゃないから、ブランド力は高くないが、泣き虫マイクロフトよりよっぽど良い。



 南領での引継ぎなどの為にカール様より3ヶ月遅れて宮殿にご帰還なさったルーイ兄様は、日に焼けて背も伸びて前より精悍なキラキラ皇子に変貌なさっていた。


 抜群にかっこよかった。


 姉様、どうか、このキラキラ皇子に篭絡されてください。



 しかし、ちょっと気に入らない問題も発生した。


 東領のミレイユ姫が東領公邸に戻されなかったのだ。


 しかも、ルーイ兄様の後をついて歩くようになった。


 不愉快だ。



 人質、姉様がそう言っていたし、理由も知っているので、ぐっとこらえている。



 ミレイユ姫は、表向き帝室に保護されていることになっているのに、トム兄様にも僕にも挨拶に来ようとしたことがない。


 なんでも子供の時にトム兄様が学園で姉様のことを「誰でもお傍に侍って良い方ではないから自分はお目に掛かったことがない」と言ったとき、姉様の圧倒的なお姫様感と貴人感に、学園に激震が走ったらしい。


 恐らくミレイユ姫は自分も同じ位置に置いているんだろうとトム兄様は推測していた。



 姉様は「皇太子妃」になるお方だったから、ルーイ兄様、父上、母上に紹介されないと会わせてもらえないんだよ。

 保護されてる上に実は人質のミレイユ姫とは全く立場がちがうよね?



 許されてもいないのに姉様の前に飛び出しちゃった僕が言うのもなんだけど、常識がない。


 それでも東領勢の広報活動の効果で、「並び立つ姿は太陽と月」なんてもてはやされて浮かれているらしい。


 だから兄様の学園復帰の日、僕は学園の様子を見に行った。

 学園の生徒達がどんな反応なのか知りたかったからだ。


 そこで奇跡が起こった。



 兄様とミレイユ姫じゃない。

 そっちはどうでもよくなるような奇跡だ。

 

 カール様と姉様の「英雄マチルダ姫」が、出会って、会話して、自己紹介し合ったんだ!



 その日、僕は、隠密ごっこを気取って、ルーイ兄様が学生たちに挨拶をするのが見やすい場所の木に登った。


 まもなくカール様が来た。

 カール様も人質ミレイユ姫の様子を確認しに来たんだろう。


 見やすい場所は誰にとっても同じだから、鉢合わせしちゃった。


 木から降りて挨拶したかったけど、降り方がわかんない。


 僕、木に登ったことなんてないから、近衛たちに梯子をかけてもらって、登った後、梯子を外してもらっただけなんだ。


 固まってたらマチルダ姫が来た。


 二人はなかなか会話のテンポが良くて、楽しそうだった。



 僕は出ていける雰囲気じゃないから、とにかく木から落ちないように、動いて怪しまれないように固まっていた。


 調子に乗って慣れないことをするもんじゃない。


 でも、慣れないことをしたから運命の瞬間を盗み聞き出来たんだから、たまには慣れないことにも挑戦した方がいいのかもしれない。


 どっちだろう?

 わからない。



 カール様とマチルダ姫が立ち去った後、近衛たちに木から降ろしてもらって、急いで姉様に手紙を書いて報告した。


 姉様はすぐに帝都に来て、学園にマチルダ姫を見に行った。


 母上が帝立学園中等部の女子生徒の制服を準備して、茶色のカツラを被せて自ら馬車で送って行った。


 ごめんなさい。

 僕のせいでカール様の恋路、テーラ家内部でバレバレです。


 でも、皆で応援していますから、許してください。



 僕はルーイ兄様の近衛に姉様が学園に来ていることを教えてあげた。


 そしたら、ルーイ兄様が他の生徒達が見ているところで姉様のおでこにチューしたらしくて、ルーイ兄様の「秘密の恋人」疑惑で学園が大騒動になって、東領勢が火消しに大忙しだと、トム兄様が言っていた。


 ミレイユ姫、ざまぁみろ、だ。



 それにしても、おでこにチューしたぐらいで大騒動になるんだったら、宮殿にいた頃の兄様と姉様の様子を見たら、みんな泡を吹いて倒れちゃうかもしれない。


 ルーイ兄様、姉様に「抱っこさせて」とおねだりして、断られてたからね。



 それに、ルーイ兄様もロイとユリアナの血を引いているからね。

 最悪、ブリタニー家方式でギュウギュウ抱きしめて、チュッチュしていたかもしれないまである。

 

 おでこにチューは、テーラ家方式の家族の挨拶だから、愛情表現控えめなんだ。


 僕もルーイ兄様におでこにチューしてもらったことあるぐらいだからね。

 特別だけど特別じゃないっていうか、ね。


 姉様はルーイ兄様におでこにチューされた後、母様と帝都を巡り、家を7軒も買って帰った。


 そのうち一つは、帝都の西領公邸のお隣だ。

 英雄マチルダ姫のお家の隣のお家ってことね。


 姉様から「西領公邸のお隣はシャムジー邸にしました♪」とウキウキ調のお手紙を貰って唖然としたよ。


 母上曰く、西領公邸のお隣とブリタニー老邸の後ろは人が住んでいたのを立ち退いて貰ったからちょっと高かったらしい。

 久しぶりの「娘とのお買い物」でルンルンだった。



 それから、姉様は来年1年間だけ学園に通って「露払い」することにしたらしい。

 学園は雰囲気が悪いから、「マチルダ姉様の為に掃除する」と張り切っていらした。


 アレクシア姫のことをずっと「姉様」と呼んでいる僕が言うのもなんだけど、姉様、マチルダ姫のことを「姉様」呼びするのが早くない?


 僕の時は、一応、ルーイ兄様と姉様の間に婚約があったよ?


 

 後は、カール様の家と「影武者」とマグノリア公子の家が隣り合っていて、ちょっと離れたところに学園に登録する表向きの住所にする邸宅など、諸々だそうだ。


 諸々の部分、誤魔化されたようで、どうも気になる。


 でも、いいと思う。

 カツラビジネス、この冬を越したらお金が余りまくるから。


 帝都の不動産で資産を運用するのはいい案だと思う。


 

 僕は父上と母上にお願いして、姉様が学園に通っている間、北領の研究地区の留守番をさせてもらうことになった。

 姉様はカール様の様子が気になるだろうし、僕は僕で研究地区は居心地が良くて楽しい。


 テーラ宮殿に戻って来てから、やることがなくて退屈していたんだ。


 父上と母上はカール様に手紙を書いてくれて、快諾のお返事を頂いた。


 研究地区に戻ったら、臨時主席研究員の仕事をしながら、姉様が着手していた魅了薬の修飾研究を引き継いだ。


 ロイとユリアナがむしってきた臭い草を使って、魅了薬を回復薬に変える研究だ。

 ほんと臭くて、涙出た。


 姉様は森にいる間にその領域の研究論文をかなりの数読んでいて、だいたいの道筋がついていたので、後は実験して、結果を出すだけだった。


 森生活の後半は、避難路のド真ん中に居座って、棋譜集めと論文集めで趣味を謳歌していたっぽい。


 姉様の人生は苦難に満ちて見えるけれど、本人はいたってマイペースに人生を楽しんでいる。


 それが姉様だ。

 きっと、皇太子妃にも向いている。



 粗方の研究成果が出たところで、姉様と連名、といってもアリシア・シャムジーとマイケル・シャムジーの連名で論文を出したら、北領の大学から博士号を貰えるし、北領と帝国で子爵に同時叙爵されるしで、その年は割とバタバタしていた。


 僕ばかりがいろいろ貰っちゃって申し訳ないから辞退することを姉様に手紙で伝えたら、姉様は染料関係の特許で博士号を貰ったし、ノーリス籍は伯爵に昇爵してもらった上に土地も貰ったから、ミッキーも貰えるものは貰っておきなさいと返事が来た。


 ミッキーは遠慮がちだから、シャムジー家の家訓を「貰えるものは貰っとけ」にしましょうか?

 だって。


 姉様、かなりちゃっかりしてた。

 

 流石、ロイとユリアナとソフィアの弟子ってとこか?


 そういえば、姉様、父上から南領戦役での国境警備と森の天然要塞化のご褒美は何がいいかと聞かれて、「チェスの弟子」を強請って、父上の弟子にもなってた。


 すっごく囲い込まれているけど、すっごく楽しそうな人生だ。


 後は、ルーイ兄様に篭絡されるだけなんだけど、そっちはあんまり進捗していないようだ。


 がんばれ、兄様!

 しっかり、兄様!


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