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マイクロフト8

 姉様が死にかけたと聞いて、母上が北都ノーザスへぶっ飛んでいって、カール様から話を聞いた。


 カール様は、兄様と姉様の婚約を解消することを希望した。


 父上は、了承した。

 ルーイ兄様も仕方がないことだと諦めた。


 きっとテーラ家は「強い外戚」だから、好まれていないのだろうと思った。

 ルーイ兄様は皇太子だから、最強の外戚だ。


 もしかするとカール様と姉様はいつでも逃亡できるように縛りを取り除いておきたいのかもしれないとも思った。


 ルーイ兄様が婚約の解消に同意したのだから、婚約があると姉様のお命が危ないのかもしれない。


 ノーザンブリア家は「生き延びることが第一命題」だから。



 でも、母上は諦めなかった。


 父上と母上がこのことについて相談する時、ソファーの対局に座った父上と睨みあう母上の膝の上に座らされ、ぎゅうぎゅう抱きしめられていたから知ってる。


 母上は嫌なことがあったら、いつもクマのぬいぐるみをぎゅうぎゅうしているっぽい。

 僕は人間なので普通に苦しかった。


 これは夫婦喧嘩ってやつだ。

 普通は子供には見せない。



「テーラ家が婚約を取り下げれば、ウェストリア家に取られるだけです」


 母上は、多分、父上に反抗するのが初めてだったんじゃないかな?

 声が震えていた。


「姉様は、僕と、同じで、兄君、至上、主義です、ので、カール様と、引き離されて、西領に送られて、しまえば、元気を、なくして、ポロっと、死んで、しまうかも、しれません」


 お怒り気味の父上にこんなことを言うなんて、僕はどうかしている。

 これまでで一番緊張した。


 父上は、小さなため息をついて、カール様への返信にこう書いた。


「テーラ皇帝アルバートは、北領総領カールからのルイス皇子とアレクシア姫の婚約に関する提案について了承した。正式な手続きについては皇后ソフィアから追ってご連絡差し上げる」


「つまり、わたくしが手続きをしなければ、婚約は解消されない。そういうことですね?」


 母上は、満面の笑みを浮かべて、僕をぎゅうぎゅうして、ちゅっちゅした後、恐る恐る父上の額にキスをして、ルーイ兄様に報告に行った。


 母上が父上にキスをしたのを初めて見た。


 母上が僕にちゅっちゅしたのも初めてだ。


 姉様は母上をすっかり人間に作り替えてしまったようだ。


 神の遣いは凄い。



 母上がウキウキで父上の執務室から出て行った後、父上は言った。



「アレクシア姫とルーイの婚約が失くなっても、アレクシア姫とクリストファー卿の婚約が締結されることはないよ」


 何故、そんなことを言うのですか?

 もしかして、父上は本当に婚約を解消しちゃうのですか?


 母上を騙したのですか?


 母上を騙してでも婚約を解消してあげないといけないほど、姉様のお命が危険なのですか?



「何故……」


「婚約を解消する理由が多すぎたからだよ。ルーイが本当にアレクシア姫と結婚したいなら、全ての問題を解決してから再び申し込むしかない」


 どうしよう。

 母上に秘密が出来てしまった。

 

 全ての問題ってなんだろう。

 ルーイ兄様、解決できるかな……



 自分の部屋に戻ったら、トム兄様がやって来て「アレクシア姫がルーイ兄様のことを完全に忘れちゃったって、落ち込んでいる」と言うから、僕は青ざめた。


 まさか、ルーイ兄様が暗号のことを知らないとは思っていなかった。


 トム兄様が聞いた話だと、領主代行のノルディック様が、侍女達に命じて「ソフィアとルーイは想像上のお友達」だと洗脳したらしい。


 僕の想像では、姉様は洗脳されて忘れたんじゃなくて、僕からの指令を受けて忘れたフリをしているだけだと思う。


 僕は姉様との文通の中で、ルーイ兄様自慢に一層力が入った。



 母上、ルーイ兄様、ごめんなさい。

 僕は父上の手先になりました。


 ルーイ兄様が姉様と結婚できるように出来るだけの協力をしますから、どうか許してください。


 僕はしばらく落ち込んで、浮上できなかった。



 母上は、僕にロイとユリアナを姉様の家庭教師に任命したいが良いか聞いてきた。


 ロイとユリアナは、母上の父上と母上だ。つまり僕のグランパとグランマなんだけど、二人は名前呼びされたがるので、名前呼びしている。



 僕が学園に行けなくなった時、しばらくの間、ロイとユリアナの家に預けられた。

 ロイはやたらとベタベタ触って来て、最初は嫌いだった。


 でもそのうち慣れて、僕の方からロイのお膝に乗ったり、ベタベタくっつくようになった。


 母上が姉様と手を繋いだりベタベタくっついていたのは、ロイの真似事だ。



 正直、姉様に合っていた方法だったか、わからない。


 姉様は「抱っこされるのは好きではありません」と控えめに、でもハッキリと断っていたから。



 ユリアナはやたらとチュッチュしてくる。

 これは、今でも好きじゃない。


 僕は姉様がロイとユリアナを好むとは思えないと正直に言った。


 母上が姉様を帝室に囲い込もうとしているのはわかる。

 だからこそ、嫌われたら、逆効果だ。



 母上はニッコリと笑って、ロイとユリアナにベタベタしないように言い聞かせるからと約束してくれた。

 そしてユリアナみたいにチュッチュしてきたので、僕は、普通に嫌がった。


 母上は人間になってから、行動がロイやユリアナとそっくりになった。

 ギャップが激しすぎて、ちょっとついていけないでいる。



 今になってようやく気付いた。


 あの時、母上は、ロイとユリアナがいなくなっても僕は大丈夫なのか聞いたんだな。

 


 姉様は、意外にもロイとユリアナと気が合うようだった。


 二人はちょいちょい宮殿に顔を出して、僕をお膝に乗せて姉様の様子を聞かせてくれた。

 僕はチュッチュされたけど、姉様にはしていないという。


 姉様からの手紙を届けてくれるので、二人の来訪を心待ちにするようになった。


 僕は魔道具作りを教わったが、姉様は化学研究がお好きなようだった。



「うちの子たちはあんまりビジネスにはグッと来ないみたいね?」


 母上の中で、姉様は既に娘になっていた。

 

 ルーイ兄様は、ロイとユリアナに近づかなかった。


 ベタベタするし、チュッチュするから、苦手なのは分かるけど、そんなことより姉様のお話をききたくないのかな? と不思議に思っていた。

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