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マイクロフト4

 ミレイユ姫は、帝立学園の初等科を1ヶ月以上欠席しているルーイ兄様を気遣う言葉を並べ立てた。


 皆がルーイ兄様を心配しているとか、復学を心待ちにしているとか、そういう話だ。


 学園では、カール様の意識が戻ったんだから、ルーイ兄様は復学してもいいはずだと思われているとか、アレクシア姫ほどルーイ兄様に甘える勇気のある人はいないなどと言われているらしい。


 アレクシア姫に「お前のせいで皇太子が学園に通えなくなっているんだぞ! 少しは遠慮しろ」とイヤミを言ったのだ。


 アレクシア姫はそのイヤミに気付かないふりをしてあげた。

 学園と北領との関係強化、どちらが重要か、明らかすぎる。

 それ、墓穴だから止めとけ。

 僕でも思った。


 残念ながらミレイユ姫は止まらなかった。


 アレクシア姫が「泥棒」扱いされているとか、このままじゃ皆から嫌われてしまうとか、どんどん酷くなっていった。


 仕舞には、僕は不登校で学園に通っていないんだから、僕に姫の面倒を見させればいいじゃないか、年も近いし丁度いい、という内容のことを言い出した。 



「まぁ! 細事に目をつぶってもらえるのは末っ子の特権ですね? わたくしは生まれながらの『ひきこもり』です。マイクロフト殿下は学園に在籍しているなんて、とても立派です」

 

 アレクシア姫の初めての反撃が僕を庇う発言だったことに衝撃を受けた。


 自分はもっと酷いと伝えることで、「面と向かって言ってみろ、ゴルァ!」と返し、それ以上の発言を止めたのだ。


 しかも、学園なんて「細事だ」と、姫にしては乱暴に切り捨てた。

 多分、結構、怒ってる。


 もしかすると僕を庇ったんじゃなくて、姫自身が啄かれたら嫌な話だったのかもしれないけど、僕は嬉しかった。


 そして、なんと!

 兄上が僕のために追撃してくれた!!


「ああ、それなんだけれどね。北領や南領は、高等部だけ帝立学園に子女を送るだろう? 帝室もそれでいいんじゃないかと思うことが増えてね。今回みたいに皇子が子供でも帝室のために出来ることってあるじゃない?」


「はい。兄と殿下の交流は先々で北領と帝室の連携を高めることに繋がるでしょう」


 アレクシア姫は、やっぱり兄君至上主義だ!

 ここで、自分ではなく、兄君を出してくるところが、好感持てる!


「しかし、子供だからね。短気を起こして関係悪化に繋がることも考えられる。難しいところだね?」


 これは一見、リリィ姫のことを言っているようで、ミレイユ姫にも当てはまる。


「帝立学園は対人折衝のよい練習の場になりましょう」


 アレクシア姫は、ミレイユ姫に「お前は通った方がいい」と言っている?

 くっそ強烈なイヤミ?

 まさかね?


「そうだね。父上は、通うかどうかは別として、帝室の子は在籍させておくのが良いとお考えなんだろう。ミッキーも学力テストは受けに行っていると聞いている。でも、自分の子供に関しては、本人の意思に任せるのもいいかと思うんだ。アレクシアはどう思う?」


 に、兄様!

 大好きです!!


 個人的には、学園に通うも、通わないも、好きにしたらいいと思うと言ってくれているんですね?



「殿下。わたくしはまだ9才です。自分が子供で、自分が学園に通ったことがないのに、答える立場にはございません。殿下はずいぶん気が早いのですね?」


「ははっ。そうだね。気が早すぎたかな?」



 うわ。

 ナニコレ。


 将来的にどこかのタイミングで兄様とアレクシア姫の婚約は必ず公になる。

 いつかはこの婚約がアレクシア姫の生誕の折に締結されたものだと知らされる日が来るのだ。


 目の前で自分たちの子供について相談されてたなんてことが分かったら、ミレイユ姫は怒り狂いそうだよ。


 兄様はアレクシア姫が聞き出した「ミレイユ姫は何も知らない」という情報を使って、こっぴどい仕返しを未来に向けて仕込んだんだ。


 すごいです。

 兄様!


 多分、兄様はかなり怒っている。

 僕は兄様が怒っているのを初めて見る、いや、初めて聞くから、自信はないけど……


 兄様が初めて怒ったのが、僕のため。

 姉様の初めての反撃も、僕のため。


 僕はドキドキした。



「こういうことに早すぎるということはありませんわ。どこの貴族も10才ぐらいには婚約を締結し始めます。帝室の後嗣は、世界全体にとっての重要事項ですもの! 11才の殿下には、遅いぐらいですわ」


 ミレイユ姫の言っていることは間違っていない。

 優秀と言われることだけはある。


 ミレイユ姫は単にまだ知らないだけなんだ。


 兄様と姉様の婚約は、兄様が2才、姉様が0才の時に締結されている。

 これ以上早いのはムリだ。


 ルーイ兄様の将来の仕事はもう決まっていて、結婚のお相手も既に決まっていて、結婚したら最速でお子をつくることも決まっていて、後は「自分の子供の教育方針」ぐらいしか決まってないことが残ってないってことを、知らないだけなんだ。


 ミレイユ姫は、この後、父君がカール様のお見舞いを終えて迎えに来るまでずっと、婚約、結婚、子供の将来設計について自説を語り続けた。


 アレクシア姫との違いを兄様に知ってもらいたかったんだと思う。


 母上が言っていた意味がちょっとだけ分かった。


 兄様がアレクシア姫を選んだ時点で勝負は既に決しているんだ。

 皇太子妃の座争奪戦なんてないんだ。


 母上にそう言おうとしたら、母上は逆に闘志に燃えていた。



「ミッキーの言っていたことは本当だったわ。アレクシア姫には防衛戦があるのね? わたくしもサポート態勢を整えないと。協力してくれる?」


「はい!」


 母上は「皇太子妃の座」の争奪戦も防衛戦も戦ったことがないそうだ。



「は~。疲れた~。ね~。アリぃ~。抱っこさせて」


 え?

 ミレイユ姫を見送った後、ドサッという音がして、姿は見えずとも兄様がソファーにへたり込んだのが分かった。


 しばらく兄様観察を自粛していたら兄様は、物凄く人間臭くなってた。



「ソフィア様から頂いた大きなクマのぬいぐるみは抱っこに最適です。ご自分のためにおひとつお買いになってはいかがですか? 抱っこし放題です」


「アリーが抱っこさせてくれればいいじゃない?」


「わたくしは抱っこされるのは好きではありません」


「じゃぁ、ハグ」


「どちらでも同じことです。わたくしが北領に帰ったらルーイは抱っこするものがなくなります。わたくしからプレゼントしたいところですが、買い物をしたことがなくて、勝手がわかりません。無力です」


 ええっ?


 手を差し出されただけでビクッとしていたあのアレクシア姫が兄様の心配!?


 兄様、手懐けレベルが神がかっています。



「あ~。アリぃ~。また言葉がかしこまってる~」


「わたくしも凄く緊張したので余裕がありません。『お友達ごっこ』は少し休憩させてください」


 崩れた言葉の方が「ごっこ」なの?

 アレクシア姫って、本物のお嬢様なんだ……


「取り繕う余裕がないうちに聞いちゃうけど、南領の姫と東領の姫のことどう思った?」


「そうですね…… お二人から兄様に縁談が来たら、わたくしの総力を持って阻止いたします。そのためにわたくしも力をつけなければ!」


 本物だ!

 この方は、本物の仲間だ!


 兄様至上主義仲間だ!


 姉様と呼んでいいですか?



「それ、わざわざ立ち上がってまで言うこと?」


「とても大事なことです」


「私にヤキモチを焼くという選択肢もあったんだよ? 分かってる?」


「はっ。申し訳ありません、ルーイ。どうかご無礼をお許しください」


 兄様と姉様の力関係はワケがわからないけれど、概ね、大体、方向的には、上手く行っているらしいことが分かった出来事だった。



 姉様と僕の初対面は、それからまもなくのことだった。


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