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マチルダ14

 翌日、カール様は見るからにげっそりした様子で学園にいらっしゃいました。


 おっとりと闘志に燃えたアンバランスなアレクシア様が徹底抗戦している姿が目に浮かんで、思わずわたくしの瞳にもじんわりと涙が浮かんでしまいました。



 そして、その日の放課後、慌てた様子で駆け寄ってきた西領貴族令嬢から耳を疑うような話を聞きました。


 東領のミレイユ姫が、号泣している。


 北領からカール様とミレイユ姫の縁談が持ち込まれ、ミレイユ姫は拒絶しているが力が及ばない。


 ルイス様は今日授業中もずっと上の空で、縁談のことを知ってしまったのではないかと心配していた。


 放課後になって、カール様を生徒会室にお呼びになって、人払いした。


 ミレイユ様はこれまで一度もルイス様から人払いを受けたことがない。


 ミレイユ様に聞かれたくない話なんて北領からの縁談の話に違いない。


 その後、二人は同じ馬車で消えた。

 決闘なんてことになっていたら、どうしましょう、と。



「は?」


 思わず淑女らしからぬ反応をしてしまいました。


 かつてお兄様が言っていたことがあります。


 お兄様に見える現実と東領が見せる幻想が余りにも違いすぎて人間不信に陥りそうになったことがある、と。



 わたくしも正にそんな心境でした。


 ルイス様はアレクシア様がお好きなのです。何故、空気のように扱っているミレイユ様のために決闘を?


 ルイス様がカール様を生徒会室に呼んで人払いをしたのは、間違いなくアレクシア様の件です。

 領地で留守番しているはずのアレクシア様が突如帝都に現れたのです。

 何があったのか、聞くでしょう?


 きっと、ルイス様がカール様にウザがらみして、カール様が「仕方ない。会わせてやるよ」と同じ馬車で消えたのでしょ?



 それに、北領から東領への縁談?


 実際は方向が逆です。

 普通は縁談のようなセンシティブな話はどっちからどっちへなどということを不特定多数に広がるような形で明かしません。


 東領が見せる幻想。

 なるほど、お兄様、こういうことですね?



 前日にアレクシア様に教えてもらえていなかったら、わたくしは取り乱したでしょうね?

 学園で号泣して、大変なことになっていたでしょうね?


 そして、アレクシア様が9才の時に受けたという西領と北領の関係強化についての明確な牽制。


 こういうことですね?


 北領から東領への縁談をミレイユ様がポイ捨てした後に、西領が北領に縁談を申し込んだら西領は、東領がゴミに捨てた物を拾った乞食みたいですよね?


 しかも、北領の公子は東領の姫が捨てたゴミです。


 でも、アレクシア様の時と同じく、ミレイユ様はご自分が何を言っているのか、理解していないのかもしれません。


 東領の誰かがミレイユ様に「北領から強引な縁談が来て困っている」とお伝えになるだけでああいう反応になるかもしれません。


 仕掛けの発動のきっかけは何でもいいし、いつでもいいのです。 


 カール様とルイス様は戦友です。


 親しいのです。


 遅かれ早かれ、いつかは「2人で何やら相談してどこかへ消える日」が来ます。その時にミレイユ様がこんな風に騒ぐように仕組んでおいたのです。


 それがアレクシア様が緊急で帝都にお見えになったことで起こった、それだけ。


 わたくしは、お父様とお母様に泣いて懇願するのが遅かったのです。

 こうなる前に我が儘を言っていれば……


 東領が打診する前に、西領が打診していれば……



 悔やんでも仕方がありません。


 お父様とお母様に相談できるよう、遅くまで学園に残り、出来るだけの情報を集めていたところ、すぐに家に戻るようにと迎えが来ました。


 嫌な予感しかありません。


 馬車に乗ると、お母様が待っていました。


 ああ、これはきっと本格的にダメな感じでしょうか?


 わたくしの瞳からはボロボロと涙が出ました。

 お母様は凄く驚いています。


「まぁまぁ、そんなに嬉しいの?」


「え?」


「え?」


 お母様は顔を険しくして、ささっと状況を教えてくださいました。


 なんと、北領総領のカール様、後見人の皇帝陛下、中立立会人として南領惣領のマグノリア兄様が我が家にお見えになるとのことなのです。


 え、それって……



 今度は嬉しくて涙がボロボロと溢れました。


 でも、ぎゅっと堪えて、放課後のミレイユ劇場について箇条書きのメモと共にお母様に報告しました。


 北領と西領がどんなそしりを受けることになるか、分からないのです。


 お母様は話を聞いた後、お父様に情報を共有しておいてくださることを約束下さり、わたくしは家に到着次第、着替えにお化粧にと大忙しでした。


 皆様がお付きになると、カール様はわたくしが泣いたことに気づいて心配そうなお顔をなさったので、わたくしは小さな頷きを返しました。


 カール様もミレイユ劇場の事を知っていることを理解しましたよ、わたくしは信じていませんよという意味です。


 カール様も頷きで「分かった」と返してくれました。


 皆さんの相談が終った後、茶室で二人きりにしてもらい、求婚を受けました。




「マチルダ姫、私と結婚して下さいませんか? 一生大切にします」



 もちろん、喜んで。


 涙が止まらなくて、上手く言葉が出ませんでしたが、表情やしぐさから、ちゃんと答えは伝わったようです。



「学園でのミレイユ姫の大芝居が宮殿に伝わってすぐにアレクシアとマイクロフト殿下が大急ぎで全てを手配してくれたんだ」


 俄かには信じがたいスピードです。


 アレクシア様とマイクロフト殿下の連携が凄まじすぎます。


 もしかするとアレクシア様とルイス様の「お姫様ごっこ」よりも……


 やはり、そういうことなのでしょうか?



 この日を境に、ルイス様の耳を飾っていた水色のピアスは、黒色のピアスに代わりました。


 わたくしたちの婚約を機に、ルイス様が同じ色を遠慮してくださったことに感謝いたしました。


 しかし、学園では「秘密の恋人」との破局がまことしやかに噂されることとなりました。



 ミレイユ様の瞳は紫色です。

 リリィの瞳の色は赤色です。


 ルイス様の新しいピアスは、ミレイユ様やリリィの色ではないのです。

 むしろ北領の黒衣と同じ色です。


 ルイス様はアレクシア様を諦めてはいないと理解しました。


 ここまでくると、わたくしもルイス様を応援したくなります。



 ルイス様の耳元から消えた水色は、わたくしの耳を飾るようになりました。

 カール様の瞳のお色です。


 そしてカール様の耳元ではわたくしの瞳の色の青色が輝いています。



 わたくし、お互いの耳元を飾る色が永遠にこのままになる様に努力を惜しまない所存ですわ。

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