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マチルダ13

「はい。もちろん可能です。そんなことでよろしいのですか?」


「わたくしはウェストリア家に誠実でありたいのです。両親がなくなった時、ウェストリア家のご夫妻はわたくしたちの保護を申し出て下さいました。兄は惣領として北に戻ることを決めていたことをお伝えすると、それならばわたくしだけでもとクリスとの婚約を申し出てくださいました。9才の頃のことです」


「まぁ、お兄様と? それでは、アレクシアがウェストリア家に入ったかもしれなかったのですね?」


「はい。わたくしたちはいずれの形であっても姉妹になるご縁なのです。マティ姉様」


 アレクシア様が真剣な表情を崩してほっこりなさっています。

 嬉しいです。

 とても嬉しいです。


「光栄ですわ。アレクシア」


 わたくしからも満面の笑みがこぼれました。


 そして、マイクロフト殿下の瞳からは滂沱の涙が。

 いろいろと事情をご存じなのでしょう。



「ええ。でも、その時点では、西領のご夫妻もお命を狙われていたのです。北領と西領との関係強化は東領を刺激してしまいます。わたくしはテーラ宮殿に預かってもらっていた頃、ミレイユ様の訪問を受け、明確な牽制を受けました」


「え? 帝室と北領の結びつきに関する牽制ではなく、西領と北領の?」


 あの時のミレイユ様のお話は、「皇太子妃の座」争奪戦に置いて、アレクシア様に圧勝なさったことに終始していたように思いますが、水面下でそんなやり取りが?



「はい。ミレイユ姫はルイス殿下に夢中でご自分が何をおっしゃっているか理解していなかったようですが、必ずその事に触れるように仕掛けられていましたので、間違いありません」


「アレクシアはそんなに小さい頃からしっかりしてらっしゃったのですね? わ、わたくしなんて、アレクシアに会ってもらえなくて、ポロポロ泣いて、ルイス様に大変励ましていただきました」


 わたくしは自分が情けなくなって、再び涙がこぼれ落ち始めました。

 交代で泣いているようで、本当に奇妙なお茶会でした。



「マティ姉様。わたくしはあの頃、姉様の勇気に励まされたのですよ。後で誤解だとわかったのですが、それでも貴方様はわたくしの英雄なのですから、胸を張って下さい」


「え?」


 何をおっしゃっているのか、全く分かりません。

 マイクロフト殿下が目元にタオルを当ててうんうんと頷いておられます。


 アレクシア様とマイクロフト殿下は、そんな子供の頃から仲良しなのですね?



「この話は長くなるので、また別の機会に聞いてくださいませね。今は兄様のことが大事ですわよね? そして北領からの西領への誠意についてもしっかりご理解いただきたいの。東領から縁談が来ているなんて、本来は相手方を尊重して漏らすべき情報ではありません…… 後で兄様にバレたら怒られるかもしれませんわ。それでも、わたくしはお伝えしておきたいのです。少なくともわたくしは断固拒否ですと!」


 のほほんとした雰囲気で、こぶしを握って力説しておられます。

 良家のご令嬢の麗しさが身に染みわたるようです。


 でも……


「それって、カール様はお受けするかもしれない、と?」


 わたくしの瞳に涙がじわっと滲んだのを見たアレクシア様は慌てて言葉を続けます。


「兄様は東領の姫と結婚なさるおつもりはないでしょう。でも、お見合いや婚約ぐらいまでは進めてしまいそうなのです。兄様の婚約が決まらないと、わたくしの婚約を進められないでしょう? そういうどうでも良いことを気にするタイプなんですの」


 慌ててお話になっても、ゆっくりですが、でも表情から頑張ってしゃきしゃきテンポよくお話になろうとしていることが伝わります。


「どうでもよいということは、ないでしょう?」


「どうでもよいのです。兄様はアルバート陛下が敵方の令嬢と婚約なさって内部に潜入したと聞いて、思案顔でしたので、それも心配なのです」

 

「えっと、それは、誤解なんですが、まぁ、その話も、機会があればおいおい」


 マイクロフト様が慌てて言葉を挟みました。


「……」


 理解できない話が立て続いて、咄嗟になんと言っていいかわかりませんでした。



「兎も角も、わたくし断固拒否ですの。万が一、婚約が締結されてしまったら、屋敷ごと婚約締結書を燃やしますから、ご心配なさらないでね?」


 アレクシア様。

 それは、ダメです。

 猛烈に心配になる発言です。


「えっと、そうなる前に、他にわたくしに出来ることは、ありませんか?」


「そうですわね? この件が学園でどのように噂されても信じないで下さると嬉しいわ。あとは、うーん。マティ姉様からご両親に兄様と結婚したいと言って下さるとか?」


「そ、そうですわね! 東領から婚約の打診があったのですから、西領からあってもおかしくはありませんよね?」


「その方法なら両親がカール様の後見人なのでテーラ家の家印と署名で東領よりも先にお二人の婚約を締結出来るかもしれません」


 マイクロフト殿下、のほほんとしてゴリ押し発言ですか?



「まぁ、ミッキー。素晴らしい案ね! 東領の方は権限がない伯父様か、未成年の兄様で法的拘束力は弱めですが、西領の方は皇帝陛下になりますから、ツヨツヨですわ!」



 アレクシア様のお顔がパアアっと明るくなりました。


 ミッキー……


 ルイス様は「殿下」呼びでしたよね?

 マイクロフト様は愛称呼びなのですね?



「でも、ムリはなさらないでくださいませね。それでは、わたくし頑張って兄様と戦ってまいります!」


 アレクシア様は妙に張り切ってらして、すこし心配になりました。


 お二人を見送りながら思いました。


 アレクシア様とマイクロフト様が歩くと普通の歩道が宮殿のお庭に変わったのかと思えるほどの優雅さです。


 一緒に育った幼馴染が婚約なさったらこんな感じになるのではないでしょうか?


 お二人とも無菌室仲間ですから、もしかすると本当に一緒にお育ちになった可能性もありますわよね?


 でも、ルイス様は、本当にアレクシア様がお好きなのです。

 帝室はどうなってしまうのでしょうか?



 兎も角も、わたくしは、アレクシア様に頼まれた通り、東領から北領への婚約の打診について両親に報告しました。


 そして、わたくしこそがカール様と結婚したいと、渾身の号泣と懇願でお父様とお母様にお願いしました。

 わたくし、あのお見合いの日以来、一度も駄々をこねたことがありませんでした。


 お母様はわたくしに頼られてとても嬉しそうにしておられました。

 わたくしは号泣しているというのに。


 甘え下手な娘だったことが少し申し訳なく思えました。


 あれから6年、人生二回目の渾身の号泣が「カール様と結婚したい」なんて、ご縁とは不思議なものですわね?

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