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マチルダ11

 今、振り返ると、アレクシア様の「お姫様ごっこ」の後のウェストリア家とノーザンブリア家の晩餐会は、わたくしとカール様のお見合いだったように思えてなりません。


 もしくはお兄様とアレクシア様の……


 アレクシア様は、カール様、伯父君で北領当主代行のノルディック様と共にノーザンブリア一家として晩餐に参加されました。



 そして、そこには、帝室から派遣された中立立会人という名のお仲人さんがいました。


 ルイス様と「ウェストリア家の二の姫」として、西領の第3都市で隠れ育てられたライラでした。


 ライラは生きていたのです。


 わたくしは何も知りませんでした。

 お兄様は知っていたけれど、ライラに会ったことはなかったようです。


 これはお母様のプロジェクトで、姪っ子のライラをどこに出しても恥ずかしくない西領基準の「お姫様の中のお姫様」に育てたことを誇りに思っているようでした。



 この晩餐を持って、ライラはウェストリア家を離れ、「サウザンドス家の二の姫」としてテーラ家で預かることになったそうです。


 晩餐の後はルイス様と共にテーラ宮殿へ帰りました。


 まるで、皇太子妃かのように。



 南領紛争で命を落としたと思われていたライラが生きていて、しかも名門ウェストリア家で隠し育てられていたのです。


 ルイス様と結ばれる運びになれば、民の喜ぶ美談となりましょう。



 お昼のやりとりを考えあわせれば、帝室から派遣された中立立会人「ウェストリア家の二の姫」の正体は、サウザンドス家のライラ姫となってしまいます。


 アレクシア様?

 それでよろしいのですか?


 そして、ウェストリア家は「皇太子妃の座」争奪戦から一の姫マチルダを引いて、二の姫ライラに選手交代したように見えなくもありません。



 わたくしがその晩餐がお見合いのようなものだったと感じた理由は、食事の後にわたくしとカール様がライトアップされた夜の庭園でお散歩する時間が設けられたからです。


 一の姫マチルダは、二の姫ライラの為に埋めておいた「皇太子妃の座」争奪戦の枠の引継ぎを終えて、本命の縁談に望んだ、と理解することも出来るでしょう。


「妹は君のことを『英雄マチルダ』と呼んで、敬愛しているようなんだ。お昼の茶番は君をルイス争奪戦から引っ張り出して、人数合わせにライラ姫を押し付けたという感覚なんだ。傍迷惑で申しわけない」


 英雄?

 わたくしが?


 何がどうなって、そうなったのですか?


「英雄? 人数合わせ? アレクシア様はルイス様にはお気持ちを寄せられていないのですか?」


「それがわからないんだ。私が女性だったらルイスが好きだと思うんだけど、兄妹でも好みが違うだろうから…… マチルダ姫にはどう見える?」


 そうですか……

 カール様が女性だったら、ルイス様がお好みなのですね?


 どのあたりが?

 顔ですか?

 キラキラっぷり?


 そちらが気になって仕方がありませんが、まず質問に答えなくてはなりません。

 

「わたくしはアレクシア様にお目にかかったのは初めてで、全く分かりません。兄との方が親し気に見えなくもありません」


「ああ。クリス卿のことは『本当の兄様』と呼んで慕っているようだ。『ライラ姫は実の兄様の嫁にも、本当の兄様の嫁にも遠慮したい』と言っっ。あっ、しまっ。マチルダ姫、今のは、内緒で。頼む」


 カール様、うっかり口を滑らせてしまったようです。

 ちょっと気まずそうなお顔で口止めされました。


「ふふっ。わたくしもアレクシア様に同意見です。実はテーラ家に引き取って貰えると伺って胸を撫でおろしたのです。内緒にしてくださいね?」


 ウェストリア家では何も教えてもらえないわたくしです。

 うっかりとは言え、内情を吐露してくださったカール様は、ぐっときます。


 入学式の際も、隣の建物の黒ローブが妹だと教えてくれました。


 わたくしがカール様への帰属意識を芽生えさせてしまっても仕方がないことではないでしょうか?



 ライラは完全にお母様を取り込んでいました。

 わたくしはきっと甘え下手なのです。


 リリィが生きている頃から、わたくしはお母様に相談したり、頼ったりすることを止めてしまいました。


 わたくしに頼られなかったお母様は寂しかったのかもしれません。

 ライラはリリィのように悪意を向けてくるようには見えませんが、母様とのやりとりから、甘えんぼで、愛を独占したいタイプのように思えます。


 本当の娘であるわたくしの前で、お母様の愛を独占することに躊躇いがないのです。

 甘えられたいタイプの人の心を掴むでしょう。


 二人のやりとりからお母様がライラを本当の娘のように可愛がって、最高の形で「皇太子妃の座」争奪戦に参戦させてあげたいと奮闘した様子が伝わってきました。


 東領のミレイユ姫や姉姫リリィが絶対に許してもらえなかった「並び立つ」のポジションで会心のスタートを切れたのです。


 見事だと言っておきましょう。



 でも、ハッキリ書いておきます。


 お昼にアレクシア様が「お姫様ごっこ」でルイス様を誘導しなければ、実現しなかった厚遇ですよ。


 アレクシア様に感謝ができる頭脳が備わっているとよいですね?



 ライラは、わたくしやアレクシア様との交流はそこそこにルイス様に貼り付いていました。

 アレクシア様のことは怖がって見せて、ルイス様に近く寄り添っていました。


 見込み薄、かもしれません。



 アレクシア様とライラの間にどんなやり取りがあったのか知る由もありませんが、大切なお兄様達のお嫁さんに「不合格」にするレベルにはライラの本性を見抜いたのでしょう。


 こちらもお見事です。



 ルイス様はあの後すぐにテーラ宮殿をお出になられて、学園の寮で暮し始めました。

 異例中の異例です。


 ルイス様のことを見直しました。



「陛下と大喧嘩したみたいだよ」


「大喧嘩にならない方がおかしいとも言えますわ。王命で『秘密の恋人』を出動させたのですから」


「頭を冷やすために旅に出たいとか言って、近衛の撒き方を聞かれたんだけど、私そんなことしたことないから分からなくてね。アレクシアに手紙を書いておいた」


「アレクシア様は、近衛の撒き方をご存じなのですか?」


「いや、知らないと思うけど、あれはアレクシアも加担していたから、ちゃんと責任を取らせないと……」


 カール様は、いつもルイス様に同情的です。

 会話を重ねるに連れて、ルイス様の一途なところが応援したくなるポイントのようだとわかってきました。


 わたくしとカール様の会話の内容はほとんどがアレクシア様についてです。


 アレクシア様は兄上至上主義だということが有名ですが、カール様の妹至上主義も相当なものでした。


 わたくしはそれがカール様攻略法だと心得て、決してヤキモチは焼きません。


 わたくしがアレクシア様に気に入られているからこそ、カール様はわたくしに対してガードを緩めてくださり、お傍にいられるのですから。


 しっかりと肝に銘じなければなりません。


 

 それにしても、わたくしには理解できません。


 ミレイユ様が何故、身をお引きにならないのか。


 ルイス様のお気持ちはあの「お姫様ごっこ」で明確に示されたように思えました。

 その上、ライラがテーラ宮殿に入ったのです。


 ルイス様不在のテーラ宮殿で、何が起きているか知りませんが、決して立ち寄りたい場所ではなくなりました。


 それなのに、ミレイユ様は相変わらず側仕えの様にルイス様に付き従っています。


 まるで卒業までそのポジションを保ち続けられれば、妃になれると確信しているように。



 お姫様ごっこから半年も経った頃には、「皇太子妃の座」争奪戦は、再びミレイユ様一強になって来ました。


 東領の組織力には見習うべきところが多くあります。


 言い方を変えると、あの組織力を持ってしても、決定打を打てていないとも言えます。



 ミレイユ様はそれでよいのでしょうか?


 ミレイユ様は、ルイス様に愛されていなくても、隣にいられれば幸せなのでしょうか?


 秘密の恋人とは生き生きと楽しそうに会話なさっていたルイス様は、生徒達が見たことない表情のオンパレードでした。


 自分には見せない表情を秘密の恋人には大盤振る舞いしている夫を「まぁ、あなたったら、その子が本当にお気に入りなのね?」みたいに上から目線で眺めている忍耐強さなんて、わたくしにはありません。


 ええ。無理です。



 もしちゃんと愛し合った時期があって、その後で浮気されたら、わたくしも虚勢を張ってしまうかもしれません。


 でもね、微塵も関心を持たれない状態が最初から最後まで続くなんて、わたくしはイヤ。


 カール様の「特別」は、わたくしだけです。


 話しかける女性はわたくしだけ。

 エスコートもわたくしだけ。

 隣に立たせてもらえるのもわたくしだけ。

 そして、他の令嬢は絶対に傍にお寄せになりません。


 目つきの鋭い学生侍従が両サイドをガッチリ固めています。

 他の令嬢とお話する際は、必ず「相対す」です。

 にこやかですが、距離は遠く、会話は短いのです。


 ルイス様、クリス兄様、マグノリア兄様と全く同じ慎重さでありながら、わたくしにだけ穴をあけて下さっているのです。


 わたくしとの交流は礼儀正しく、爽やかですし、愛称や呼び捨てなど絶対になさいません。


 周囲からは北領と西領の関係強化のために北領惣領と臨時の西領惣領が友人として親しくしているとしか思われていませんし、わたくしもそのように理解して行動しています。


 それでも敬意を払ってもらえるだけ、ミレイユ様よりマシな気がします。



 そんなどこへ向かうでもない学園生活が半年ほど続いた後、運命の日は突然にやってきました。


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