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マチルダ9

「なるほど。市井の遊びなのだから、市井に伝わる方法で確認しなさいという任務なんだね?」


「はい。猛烈に目を引く装いで登場し、学園の食堂で確認が行われれば、市井によく伝わるだろうとのことでした」


 浮いている事はご承知なのですね?

 これは、わざと、なのですね?


 そうであれば、大成功です。


 そして、ウェストリア家は、わたくしマチルダが市井の遊びに付き合わされていることに迷惑しているからハッキリさせたいということですね?


 これに対して、帝室は北領のアレクシア姫を中立立会人として派遣することで、ウェストリア家に協力の姿勢を見せた、と。


 ここでアレクシア様が「本物の婚約者」であれば、きっとウェストリア家の風評被害に責任を感じて動いてくださる場合、中立ではなく、帝室側の立場を取るでしょう。


 ということは、アレクシア様とルイス様は、まだ婚約に至っていないということですね?



「そうだねぇ~。私とウェストリア家のクリストファーは友人だから、よく一緒にいたが、マチルダ姫はそれを利用して私に近づいたことはないよ。存命中のリリィ姫と一緒にいる時に話しかけられることが多かったことも確かだ。個人的にアプローチされたと感じることはなかったね」


 そしてルイス殿下自身に語らせることで、わたくしの不参加の事実を固めて下さるのですね?


「殿下、もう一声、お願いします」


 これは、市井っぽい催促の仕方なのでしょうか?


「ふむ。私は一度だけマチルダ姫と2人で宮殿の庭園を散策したことがある。ご両親を亡くしたばかりのアレクシア姫を慰めに来てくれたんだけど、アレクシア姫はエドワード公にご挨拶に行きたかったから、マチルダ姫のおもてなしは私が担当した。その時、マチルダ姫と一緒にアレクシア姫とカールに贈るブーケを作ったんだけど……」


「3色のローズのブーケとローズマリーとラベンダーのブーケですね? テーラ宮殿の記録によれば、マチルダ様が単独で殿下とお会いになったのはその時のみです」


「その時、マチルダ姫は、アレクシア姫とカールの好むものについてのみ知りたがって、私の好きなものについては一度も訊ねなかったよ。このエピソードは、マチルダ姫が『皇太子妃の座』争奪戦とやらに参加したことはなかった証明になるかな?」


「ご協力ありがとうございます。殿下」


「市井の者たちも納得してくれるといいね?」


「はい。殿下。両陛下もそのようにお望みです」


 公式文書での発表ではないにせよ、これでキッチリ帝室のご意向が伝わることでしょう。

 鮮やかなお手並みです。


「ところで、君は? 君は争奪戦に参加してくれないの?」


 ルイス様、まさかのおねだり?


「両陛下によると、わたくしはコードネーム『秘密の恋人』とのことです。まだ活動指令はありません」


 今、まさに、絶賛ご活躍中です。アレクシア様。


 茶色の髪で殿下が額にキスを落とす令嬢のことを「秘密の恋人」と呼ぶのですよ?


 それにしても、コードネームとは。

 この期に及んでも「隠密ごっこ」なのですね?

 カール様が凝り性だとは仰っていましたが、ここまでとは……



「そうなの? それ、いいね。で、3つ目の任務は?」


 ルイス様はニッコニコです。

 こんなに表情を顔に出す方だったのですね?



「3つ目の任務はウェストリア家で今晩開催される晩餐へのご招待です。ケビン、招待状を」


 ケビンと呼ばれたウェストリアの近衛がトレーに乗せられた招待状を持ってアレクシア様に近づき、アレクシア様は立ち上がってそれを殿下に差し出しました。


 ルイス様はその招待状を確認して、ギョッとするようなことを仰いました。


「わたしは毒見役だね?」


「はい。陛下は、毒が入っている場合は、殿下がまず最初に死ぬようにと仰せでした。テーラ家の総力を持って必ず復讐するから、と」


 その場の全員が固まりました。


「ウェストリア家はノーザンブリア家を招待するのか?」


「はい。総領のカール様です。わたくしの『お姫様ごっこ』の中では、マチルダお姉さま用の王子様役です。この晩餐は北領領主暗殺以来初めてのウェストリア家とノーザンブリア家の正式な会合となります」


「そうか。ようやく公式な領間交流が実現するんだね。目出度いことだ」


「はい。ウェストリア家は、カール様の後見人である両陛下にも招待状をお持ちになりました。ウェストリア家とノーザンブリア家の誰一人毒に倒れることがないように、帝室から殿下とわたくしが毒見薬として派遣されることになりました」


 ウェストリア家の「二の姫」は飽くまで「ごっこ」で本当の身分ではなく、正体は帝室の人間で、しかも殿下のパートナーだということを暗に示しているのですね?


「いいだろう。拝命しよう」


「ふふっ。わたくしも毒見薬ですから、死ぬときは一緒ですよ、殿下」


 ふふっ、じゃありません。

 全く笑えません。


 でも、のほほんとなさって、毒気が抜けます。


「私はまだ死にたくないし、君を死なせたくないから、吐き戻し薬を大量に持参することにしよう」


 周囲の生徒達はそれぞれ空いている椅子を見つけて座り込んで聞き入っています。


 この「お姫様ごっこ」が児戯ではないことに気付いています。


 ルイス様とアレクシア様は、打合せなしでこのチームワークなのですね?


 驚異的です。



 仮に、ウェストリア家とノーザンブリア家の晩餐について聞きつけた者が悪事を働こうとしたとして、帝室の皇太子とその恋人しか死なないと宣言することで抑止しようとしているのです。



 同時にウェストリア家とノーザンブリア家の交流について公開することで、ウェストリア家が北領領主暗殺の黒幕でないことを印象付けようともしています。



「殿下、4つ目は、西領総領クリストファー公子からの密書です。お納めください」


 アレクシア様は再びケビンから小さな封書を受け取りルイス様に差し出しました。

 その密書を読んだルイス様は僅かに顔を曇らせた後、ふっとお笑いになりました。


 そしてじっとアレクシア様をご覧になって、それからそれはもう愛おしそうに両頬にキスを落としました。



 両頬のキスはウェストリア家の家族のご挨拶です。

 西領勢から小さな悲鳴が上がりました。


 皆の憧れの君が西領のお姫様に愛おしそうにキスを!


 公開「お姫様ごっこ」最高です!!



 アレクシア様はルイス様からキスをされても動じることはありません。

 わたくしもアレクシア様の標準運転に馴染んできました。


 でもルイス様の表情が曇ったことについて首を傾けました。


「殿下?」


 ここまでくるともう、普段、この方はルイス様にどんなことをされているのか気になって仕方がありません。



「ウェストリア家の二の姫、4つのミッションは、この順で実行するように陛下から指定があったんだね?」


「はい。殿下」


「カールは今どこに?」


「ここだよ。全部聞いていたが、私にも何か?」


 カール様は、妹君のアレクシア様が頬にキスをされても動じていません。


 カール様にとってもこれが普通なんですね?


 無反応なカール様を見て「秘密の恋人」の正体がアレクシア姫だと推測した者たちは混乱しました。


 自分の妹が皇太子殿下から家族のキスをされているのに無反応でいられるなんて、ちょっと考えられません。


 いろんなことが「お姫様ごっこ」で攪乱されてどうともつかなくなっています。

 これは「お姫様ごっこ」の皮を被った「隠密ごっこ」ですね?

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