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クリストファー8

「アリーとはどういう関係なんだ?」


 入学式の後、ルイスは家に怒鳴り込みに来た。

 何か言ってくるとは思っていたが、まさか私達が家に帰り付く前に待ち伏せされる程とは思っていなかった。


 どうやら、常識がなくなるほど、アレクシアの事が好きらしい。


 ルイスとは幼稚舎の頃からずっと近くにいたが、こんな彼を見るのは初めてだった。


 父が色々と察して、ウェストリア家の家宝の1つ「アレクシアの思い出帳」を茶室まで持ってきた。


 これまでアレクシアから受け取った短信が全て収められている。


 読後焼却?

 したことないよ。


 父親同士で相談して決めているから、私が送った方もあちらに残っているだろう。


 ルイスはまじまじと読んで、キレた。



「お前、何回アリーに求婚したんだよ!?」


 ん?

 求婚?



「そういえば、そういうこともあったな。でも、今はないよ。読めばわかるだろう? マチルダとカールを結びたいと鋭意共闘中だよ」


「ねぇ、この『婚約は出来ない。共倒れは良くない』と『縁談を感傷で決める余裕はないが申し込んでくれ』ってさ、アリーも君と結婚しても良いってことだよね?」


 ルイスは気が立っていて、アレクシアに聞くべき質問まで私に聞いてきた。



「本人に聞けばいいだろう?」


「私、ちゃんと自覚してるんだよ。アリーから愛されてないって。怖くて聞けないよ」


 そして恋のお悩み相談が始まった。

 相談相手を大きく間違っている。


 私は女性をかわいいと愛でることはあっても、これまで女性にキュンとしたことがないのだ。


 何を言われても理解できんぞ。


 むしろ、父上にウェストリア家の男はいつ頃キュンとし始めるのか聞いたほうがよいだろうかと考え始めたところだぞ。



「ルイス、君はアレクシアが絡むとバカになるだろう? そこをどうにかしないとアレクシアは帝室に申し訳なくて君に近づけないんじゃないのか?」


「一緒にいられればバカにはならないさ」


 バカになってる自覚が半分ってとこか。


「一緒にいる時もバカになってるだろう? 君はリリィを烈火の如く怒り狂わせるようなヘマをしたことがなかった」


「あー。あれは不可抗力だよ。予告なしに他家の庭に入って来たんだよ?」


「リリィは割といつもそうだったと思うが」


「そうなんだけど、見られちゃったんだよ『アリーかわいいな〜。チューしたいな〜』と思ってる時の顔。で、アリーが怒鳴りつけられたから、サッとひいたんだ。あの状況の最善策だよ」



 オスが入ってたのか……


 なるほど。

 リリィは幼い頃から妙にメスだったから、そこを敏感に覚ってキレ散らかしたのか。


 しかもルイス本人に敵認定されて立ち去られたことでショックも大きかった、と。



「その後、ミレイユ姫にも喧嘩を売りまくっただろう? 君はああいうこともしたことがなかった」


「引きこもりバッシングに反撃したこと? 確かにそれまではスルー出来ていたかもしれない。でも、愛する人が出来たのに守らないという選択肢、ある?」


 愛する人、なのか......

 すごいな。


「あれはミレイユ姫は気づかなかったけれど、いろいろ気付いた人もいただろうから、アレクシアとしては君は危なっかしいと感じたのではないか?」


「なるほど。アリーに心配させてるのか。それはいけないな」


 アレクシアはその危なっかしさに便乗して利用したけれども、そこ以外は喧嘩っ早いルイスをフォローした様にみえる。


 でもルイスはアレクシアが絡まなければ攻撃性が出てこない温厚な皇子だ。


 トータルではどうしてもアレクシアのせいでルイスが要らぬ争いに身を投じてしまっている気がしてしまう。



「それに今日の敬礼だって、東領のフォローをしなかった。ルイスっぽくないと思う人はいると思う」


「アリーの為には何でもやっちゃいたくなる私の方がよっぽど私っぽいが、まあ、言いたいことはわかる。アリー以前の私は皆にとって今より好ましかったということだね」


 昔のルイスは鉄仮面を被った完璧皇子様だったが、しばらく見ない間に随分人間臭くなっていた。

 それを「悪い」と評価するのは、ちょっと違うと思うが、そのように考える人の方が多いだろう。


「皇太子だしな」


「それなんだけどね、皇太子はトムでもいいだろう? あいつ優秀だし。だからアリーが北領へ帰るとき、私も北領へ行きたいって言ったんだ」


「は? そこまで?」


「これが本来の私の姿だったんだよ。アリーに会うまで自分でも知らなかっただけで。でもあの頃、テーラの元皇太子なんて連れ帰ったらもっと北領が荒れてしまう状況だったから、泣く泣く今だに皇太子やってる。だから実は皇太子として不合格でもいいんだ」


 アレクシアと出会って5年。

 ルイスは完全に開き直っていた。


「いや、ちょっと待て。それ、本気で言ってるのがわかるから怖いよ。君は皇太子適格で、アレクシアだって皇太子妃適格だろう? 何故不合格になる必要がある?」


「適格だろうと、一緒にいられなければ、意味がないだろう? でもその前に私は愛されてない」


 人の家のクッションを3つも重ねてぎゅうぎゅうしている。

 一挙一動、一言一句、初めて見たルイスだった。

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