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クリストファー4

 一方、カールの見舞いの方は、秘密の話はできない。

 宮殿内の施設で療養していたので、見舞いの間の話は帝室に筒抜けだろう。



 だから、父は直球でカールとアレクシアを西領ウェストリア家の養子として迎え入れる準備があることを伝えた。


 カールは感謝を伝え、自分は北領に帰ると決めていると答えた。

 妹は自分と一緒にいたいようだから、出来れば連れて帰りたいと付け加えた。


 アレクシアは、恥も外聞もなく、好きでもないルイスにしがみついてまでカールの元に戻ったのだ。

 父にも二人を引きはがす気はなかった。


 次に、父は、アレクシアを私の妻として迎えたいと申し出た。

 それならば直ぐに引き取るということではなく、西領の庇護下にありながら、北領で暮らすことができる。

 ルイスとアレクシアの婚約は公になっていないのだから、こちらから申し込む分には問題ないはずだ。


 カールは答えに余地を残した。



 カールはアレクシアを北領に連れて帰る必要があった。

 妹の世話係は本物の隠密だ。


 この「引きこもり」な妹がいれば、敵に知られずに動くことができるようになる。


 妹のちょっとおかしな趣味は、強力な武器に変わっていた。


 カールは、帝室の耳があるところで、わざわざアレクシアを「西領」に嫁がせたいと匂わせた。


 私たちはその理由を帝室がアレクシアを手離したがらず、西領ほど簡単に身を引いてくれないからだと察した。


 テーラ家の男は執念深い。


 帰宅後、父は「やっぱりあいつらは馬が合わん」と、幾分スッキリした顔でぼやいていた。


 父はカールに親友ダニエルとの思い出話を沢山聞いてもらって、沢山泣いて、沢山励まされて帰って来た。


 アレクシアも父の見送りに出てくれたようだった。


 人嫌いで引きこもりのマイクロフト殿下が連れてきてくれたとのことで、出された腕にちょこんと手を乗せた立派な淑女姿だったらしい。

 

 二人とも目を泣きはらしていることを心配したら、「マイクロフト殿下は一緒に泣いてくれました」と答えるから、父はまた涙が止まらなくなって大変だったようだ。



 庭園にマチルダを迎えに行くと、ルイスと楽しそうにお茶をしていたそうだ。

 カールとアレクシアの為にそれぞれの好きな花でブーケを作ったそうだ。


 父はそこでもまた号泣した。


 北領と西領の友好関係が帝室にバレたのは父のせいだ。


 でも、アレクシアが帝室で大切にしてもらえているようで安堵した。



 その後どんな交渉があったかは分からないが、アレクシアはカールと共に北領に戻ることができた。


 そして直ぐにゴードンを送ってくれた。



【面白い方の妹から本当の兄様へ 本当の父さまは泣き虫仲間だった。でも婚約はできない。共倒れはよくない 読後焼却のこと】


【本当の兄様から面白い方の妹へ 了解した。ローズのブーケもありがとう。かわいい方の妹もとても励まされていた。感謝する 読後焼却のこと】



 アレクシアには、かわいさがない。

 だが、心優しい。


 

 半年ほどして、再びアレクシアを妻にどうかと聞いてきた。この時は保護目的じゃなくて、本気のやつだった。

 私は答えを保留してゴードン宛に手紙を書いた。

 


【本当の兄様から面白い方の妹へ 父上は「のびのびいたずらっ子なアレクシア姫」に未練がある。嫁に来るか? 読後焼却のこと】


 返事はゴードンが持ってきた。


【面白い方の妹から本当の兄様へ 感傷で縁談を決める余裕はない。だが利用したいので、申し込んでくれると助かる 読後焼却のこと】


 この婚約の申し込みは、使わずに済んだので、なかったことにしましょう。ご協力いただき本当にありがとうございましたとの旨、カールからお礼の手紙が届いた。


 私の短信のせいで父の本気が伝わらなかったかもしれない。

 いや、伝わった上で、私が自分の好む相手を選べるように配慮してくれた可能性もある。



 アレクシアには、かわいさがない。

 だが、立派だ。


 しばらくの間、静かに時が過ぎた。



 アレクシアが黒色染料から抽出した医薬原薬を高値で販売して、荒稼ぎをしているという噂が伝わってきたころ、南領が急襲された。


 領主一家は、嫡男マグノリアを以外の全員の死体が晒されたらしい。

 母は兄一家の訃報を聞いてふさぎ込んだ。



 実はこの時、西領も急襲を受けていた。

 領都ウェスティンとその他2都市だ。


 西領ウェストリア家は帝都にいたから命の危険はなかったし、西領には正規軍があるから無国籍軍事集団などという雑兵の集まりに城を取られることがなかっただけだ。


 騒いでもいいことがないので、ボヤ騒ぎが起きたぐらいに見せかけた。


 私たち家族は全滅を避けるために3拠点に分散して暮らすことにした。

 母が3拠点を巡って、連絡係を務めた。



 無国籍軍事集団は、西領での最初の3拠点を取れなかったこと、西領がボヤ騒ぎ程度にしか揺れなかったことで、あっさり西領から引いて、戦力を南領に集中させた。



 襲撃を受けた時、私は速やかにゴードン宛に手紙を書いた。


【本当の兄様から面白い方の妹へ ウェスティン城 マール城 ロポント城が同時急襲された 北領も注意されたし 読後焼却のこと】


【面白い方の妹から本当の兄様へ ご家族が無事でよかった。北領は既に占領下扱いで軍事攻撃には晒されないのでご安心を。でも暗殺されそうだから少年になって実の兄様と一緒に逃げた。のびのびイタズラっ子っぷりで本当の父上の合格点が貰えるだろうか? 読後焼却のこと】



 おもしろい方の妹が全く面白くないことを書いていた。

 

 この時ばかりは、ゴードンから詳しい話を聞いた。


 アレクシアは髪を切って、男装している。


 しばらく領主代行に北領を明け渡し、自由に泳がせた後、明確な派閥の色分けが出来た時点で戻って粛清するから放っておいて欲しい。


 カールの近衛として従軍し、サウザーンでルイスと合流する予定だとのことだった。


 北領は既に占領下扱いとは、東領のことを指しているのか、帝室のことを指しているのか、私達には判別がつかなかった。

 北領と東領は、領交断絶しているような状態だ。占領下に出来るとすれば、政治派閥のことだろう。

 帝室は、北領公印が紛失してから、実質的に北領を支配しているように見える。


 ノーザンブリア家は、いつの日か苦境を脱することができるのだろうか?


 私の婚約者の枠はアレクシアが結婚するまで開けておいてやろうと決めた。



 父は泣いた。

 うちに逃げてきて欲しかったと言って泣いた。



【本当の兄様から面白い方の妹へ 本当の父さまはウチに逃げてきて欲しかったと泣いた。逃げるにしてもせめて軒のある場所にして欲しかった。南領へ『志願兵』を送る。傍に置け 読後焼却のこと】


 父は私達家族の近衛を全部で20名も削って、南領市民に紛れさせ、アレクシアの元に送った。

 黒衣と北領籍を支給してもらえるだろう。


 マチルダに付けている人数の4倍だ。

 アレクシアはそれだけ危ないことをしていた。



【面白い方の妹から本当の兄様へ わたくしも泣いた。本当の父さまはやっぱり泣き虫仲間だ。親元に逃げたら分散にならない。帝室の近衛が嫌がりそうだから『志願兵』は3人だけ借りることにした。ありがとう 読後焼却のこと】


 西領を「親元」と表現してくれたことが嬉しかった。


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