クリストファー3
【面白い方の妹から本当の兄様へ 犯人は伯父だ。黒幕はわからない。巻き込まずに済んでよかった。本当の父さまを励まして 読後焼却のこと】
アレクシアは、ご両親の葬儀と埋葬の時、ほんの少しの隙をついてゴードンを送ってくれた。
父は表情を殺して参列していたが、魔眼持ちのアレクシアには父が悲しんでいることが分かったのだろう。
父について来てよかったと思った。
アレクシアの頭がしっかりしていることに安堵した。
【本当の兄様から面白い方の妹へ お悔やみをもうしあげる。いつでも逃げてこい。 読後焼却のこと】
私がその場ですぐに考え付いた返信はそれだけだった。
もっといい励ましの言葉をかけたかった。
アレクシアは、かわいくないが、心は温かい。
父はカールの見舞いについては、東領領主の見舞いが終わるまで待ってみることにした。
リリィは慰めに行くと言って、怒鳴りつけて帰ってきた子だ。
更に、学園で散々アレクシアの悪口を言った。
それが皇后ソフィア様の耳に入り、直筆の牽制を受けて、南領に戻された。
そんな子の言葉を元に動くことはできなかった。
但し、リリィが初等科でルイスとアレクシアの熱愛疑惑について大騒ぎしたから、恐らく東領領主も姫を連れて行って、アレクシアについて探りを入れさせると思ったのだ。
その時点では、ルイスがアレクシアを気に入ったというリリィの言葉を信じていたわけではなかった。ただ、何かが妙だと警戒していた。
東領のミレイユ姫の訪問の結果から、ルイスとアレクシアの婚約は確定のように見えた。
ミレイユ姫は、ルイスが学園を休んでいる原因になっているアレクシアに対し「登校拒否で引きこもりのマイクロフトはずっと城にいるんだからそっちに世話してもらえ」と当て擦った。
弟の傷に触れられたルイスは「自分自身の子については、学園に行くかどうかを本人の自主性に任せたいと思っている」と庇った後、アレクシアだけに意見を求めることで反撃した。
アレクシアは「気が早い」以外何も言わなかった。
ミレイユ姫は、聞かれてもいないのに、アレクシアがまだ何もわからないお子ちゃまだと嗤って自分の結婚観、出産計画、子育て方針を延々としゃべった。
アレクシアは口を開かず、ずっと黙って聞くことで、ミレイユ姫の自尊心をくすぐった。
そうやってミレイユ姫が学園でそのトピックを中心に吹聴するように仕向けた。
アレクシアは「分からない」ではなく「気が早い」と答えたのだから、北領当主の自信満々の「不合格」作戦は失敗に終わったことが伺えた。
で、ルイスは弟たちの婚約者にはルイスの子供の教育方針なんて聞かないだろうから、相手はルイスだ。
恐らくミレイユ姫は、ルイスとアレクシアの前でリリィの話をしたんだろう。
アレクシアは、学園の情報伝達機能を理解して、直ぐに私宛の通信に利用した。
ミレイユ姫は私と同じクラスだったから、耳に入ったどころか、ミレイユ姫が得意満面でアレクシアをバカにしている姿を自分の目でも見なければならず、いたたまれなかった。
可哀そうなミレイユ姫は、アレクシアに利用されていることに気付かず、ルイス・アレクシア夫妻の前で持論を語り続けた話を繰り返していた。
「気が早い」と言ったアレクシアに、ルイスが「気が早すぎたかな?」と気恥ずかしそうにしたので、ミレイユ姫が「こういうことに早すぎるということはありませんわ!」といろいろ教えて差し上げたと、心から嬉しそうに語っていたよ。
私はおバカな子をかわいいと思って好んでいたが、哀れなほどおバカなのはダメだと思った。
かわいくないアレクシアの方がマシだ。
カールの見舞い前、父は涙ながらに親友について私に語って聞かせ、私がアレクシアを妻にしても良いと承諾した後は、母とよくよく相談し、折衝方針を決めた。
最初は私が一緒に行く予定だった。
一緒にカールを見舞ってもいいし、アレクシアと話ができるのでもよい。
しかし、マチルダが行きたがった。
お見合いの遅刻について詫びたいと言うので、仕方がなかった。
マチルダは、カールとのお見合いの前に号泣し、ゴネにゴネて、支度に時間がかかった。
それでウェストリア家は見合い会場への到着が遅れた。
北領一家は、時間つぶしに飲んだお茶と共に出された茶菓子に入っていた毒に倒れた。
西領は、北領領主殺害の黒幕と噂された。
マチルダは、自分が遅刻の原因を作らなかったら、北領領主一家が時間つぶしのお茶を飲んで死ぬことはなかっただろうと泣き続けていた。
リリィが学園でその話をして、噂になった。
そんなマチルダが遅刻について謝りたいと言っているのだから、そうさせてやりたい。
とはいえ、父上はカールと大事な話があるから、マチルダは邪魔だ。
アレクシア姫のお相手でもよいか聞いたら、頷いたので連れて行った。
相手がアレクシアでも、お詫びの気持ちを伝えることができれば少しはマシになるだろう。
アレクシア、頼むよ?
私はアレクシアになら安心してマチルダを預けることが出来た。
アレクシアは想像以上だった。
ミレイユ姫は、ルイスとアレクシアの前でマチルダについてもしゃべったのだろう。
西領一家の遅刻の原因は、マチルダがカールとの婚約を嫌がって、お見合い用の服をビリビリに破いたからだと。
アレクシアは、伯父が犯人だと疑っていて、西領一家を巻き込まなくてよかったと考えているような賢い姫だ。
マチルダがこの件について落ち込んでいることを察して、ルイスだけにマチルダの相手をさせた。
できるだけ長い時間、しっかり励ましてやってくれと頼んだのだろうと思う。
マチルダはしっかり励まされて帰ってきた。
でも、どう言ったわけか、ルイスへの恋心がトーンダウンしたような気がした。
リリィや他の友達の前では以前のようにルイス様賛美でキャッキャ言っていたが、前より東領の姫やその他の令嬢たちの動きを冷静に観察するようになった気がする。
妹はかわいいが、そこまでじっくり観察する対象でもないから、自信はない。




