表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/169

クリストファー2

 しかし、同時に不安要素も見つかっていた。


 チェスだ。


 ルイスは誰とでもチェスを打ちたがり、その打ち方で傍に置く人を選んでいるようだった。


 北領領主は試しに私と対戦させるためにアレクシアに予め駒の動きを教え、少し練習させてきた。


 アレクシア姫は基本的な駒の動きしか知らなかったが、ハチャメチャな打ち方で、私に勝った。


 姫は全く強くはないが、魔眼持ちで相手の表情から次の動きを予測できる。そして先手を打つタイプだったから、駒展開のスピードが早かった。


 恐らく「卒のない」チェスを学んでいる貴族の子供達は誰も姫に勝てない。


 私は5戦して、4戦負けた。

 全くかわいくない。


 私も魔眼持ちだが、初めての魔眼持ち同士の対戦に動揺した。


 魔眼は魔力を見たりや魔紋を読み書きするための第3の目だ。


 ひたすら訓練して習得する技術で、たとえ魔眼が開眼しなくとも訓練の過程で観察力が磨かれるから、我が子が生まれたらとりあえず幼少期に練習させてみる価値はあると思う。


 魔眼で表情を読む技術ではないが、魔眼持ちになれた人はもれなく観察力が高くなっているので、他人の表情から色々な情報を汲み取ることができる。


 私はこの時初めて自分と師匠以外の魔眼持ちに会って、これまでの戦法が全く通じないことに愕然とした。


 最初の2戦は序盤を「外交進行」でまったり進めたので、勝ちようがなかった。

 次の2戦は展開の速さに冷静になれなくて、負けた。

 最後の1戦は、姫と同じように序盤も中盤も終盤もないハチャメチャな打ち方で勝った。


 対戦は、なかなか面白かった。


 北領領主は危機感を感じた。


 アルバートから「不合格」を貰えても、ルイスから気に入られてしまうかもしれない。


 北領領主はその後、姫の「大好きな兄様」との時間をチェスに限定し、カールに遅くて退屈でしかないチェスの定跡を教えさせた。



 このお見合い練習会の後、アレクシアは私に最初の密使を送った。


【本当の兄様へ 君はわたくしを虫けらを見るような目で見た。もしかしてわたくしの本当の兄様か? 読後焼却のこと】


 私はバカウケした。


 虫けらの様な目で見られてるのがわかっていながら、全くへこたれてない!


 私のことをまじまじと観察していたのは、自分と似ているところを探していたんだろう。

 その時のアレクシアの様子を思い出すと笑いが込み上げた。



【本当の兄様から面白い方の妹へ 虫けらを見るような目で見た理由は、君が7才にもなって大人の足にしがみついていたからだ。安心しろ。カールは君の実の兄様だ。 読後焼却のこと】


 両親と相談し、私も返信を送った。

 これに対するアレクシアの返信に涙が出るほど笑った。



【面白い方の妹から本当の兄様へ 正直な答えをありがとう。残念だ。兄様と結婚できるかと期待した。泣いた。 読後焼却のこと】


 カールが好きなのか?

 かわいいところがあるじゃないか!


 しかも、泣いたって、大変素直でよろしい。



【本当の兄様から面白い方の妹へ 元気出せ。ルイスは頭の悪い子が嫌いだ。トーマスは冷たい子が嫌いだ。マイクロフトは人が嫌いだ。上手く嫌われて北領に残れることを祈る 読後焼却のこと】



 密書を運んできたゴードンと足にしがみついていたカーナは、本物の北領隠密だった。

 普通にウェスティン城の正門から入ってきたゴードンは、父に事情を説明した。


 北領領主ダニエルは「隠密ごっこ」にハマっている娘のために、本物の隠密を姫の世話係につけた。


 姫は凝りに凝って、人前に出なくなったし、食事も隠密たちと取るようになって、「無菌室の姫」と呼ばれるようになった。

 この度は、初めての「密使」に胸が高鳴り、心躍らせているので、可能であれば返信が欲しいとのことだった。


 甘やかし方がウチより酷い。


 アレクシア姫は城の表には出なかったが、城の裏では既にのびのびといたずらっ子に育っていた。


 この時点で大分クセがある姫だという事は疑いようもない。



「ダニエルは気付いていないようだが、帝室から『不合格』が貰える理由は、こっちだろう」


 両親も私も爆笑して、密書のやりとりを快諾した。


 

 それだけ備えたにも関わらず、合否が明らかになる前に、北領領主夫妻は毒に倒れた。

  


 北領領主夫妻が暗殺された後、帝室は北領のお家騒動を利用し、北領の遺児たちを囲い込んだ。


 少なくとも西領からはそのように見えた。


 もしかしたら、暗殺を仕掛けたのも帝室かもしれないとまで考えた。

 そのレベルに信用してない。


 ただ、帝室は勧善懲悪的な行動の為には気持ちの悪い罠を掛けるかもしれないが、別に領土を増やしたいような雰囲気はなかったから、違和感が残った。



 北領総領カールは、毒を受けたが生き延びた。


 意識を取り戻したのは、葬儀から1ヶ月程経った後で、北領の遺児たちは既に帝室に囲い込まれた後だった。


 帝室が黒幕だった場合でも、西領領主が北領総領に弔問と見舞いをすることは許されるはずだ。

 でも、カールに会わせてもらえるのは1度きりかもしれない。


 心配心から直ぐに出向いて次の手が打てなくなると困るので、南領領主に先鋒を頼んだ。



「西領は疑われているみたいなので、弔問を自粛するか悩んでいる。先に行って様子を見てもらえないか?」


 母は元は南領の姫だったから、頼みやすかった。


 南領領主は娘のリリィがアレクシアを慰めたいと言ったので、連れて行ったらアレクシアを怒鳴りつけて帰ってきた。


 怒鳴りつけた理由は「あの新参者がルイス様を誑かしたからよ!」だ。

 烈火のごとく怒り狂い、5才児かのように泣いていたそうだ。


 リリィは性格はキツイがまぁまぁかわいい。

 好きな男の子が他の姫に取られそうになったことで、5才児かのように泣く。



 アレクシアはかわいくない。

 北領での葬儀の後に大好きな兄のいるテーラ宮殿に戻るために、大して好きでもないルイスにしがみついて、5才児のような泣き真似をした。


 お葬式のために北領まで足を運んだ父に同伴し、その様子を見た私はこの子が気の毒でならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ