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クリストファー1

【本当の兄様へ 君はわたくしを虫けらを見るような目で見た。もしかしてわたくしの本当の兄様か? 読後焼却のこと】



 西領と北領は、帝室と仲が良くない。

 対立はしていないし、対立する気もないが、馬が合わない。


 テーラ皇帝アルバートは、10才の時、お見合い相手の大富豪の娘ソフィアに「お金に汚い人たちが沢山いる場所に住みたくない」と結婚を断られた。


 アルバートは腐敗の元凶の家の娘と婚約を結び、内部に入り込み、結婚間際に全てを断罪して、他の腐敗の原因となりうる家も巻き込んで潰した。


 そして、ソフィアに「棚ぼた」で皇妃の座がポロっと落ちてきたように見せかけて娶った。


 ソフィアは流石に降参した。



 うぇっ。きもっ。


 西領総領エドワードと北領総領ダニエルの感想だ。


 アルバートだけじゃない。

 歴代皇帝に似たようなエピソードがある。


 馬が合わない。

 そうとしか言いようがない。


 西領は姫を帝室に嫁がせることがあったが、北領は嫌がったから縁戚関係になったことがなかった。

 ノーザンブリア家は女の子が生まれにくかったから、目立つ問題になっていなかった。



 北領にアレクシア姫が生まれた時、帝室は電光石火で婚姻の申し入れをした。


 姫の祖父である当時の北領領主は受けた。

 姫の父親である当時の北領総領はキレた。


「ウチの娘をアルバートの息子になんかやりたくない」


 本来、非公開の縁談についてはどこにも漏らさないが、北領総領ダニエルは親友の西領総領エドワードの前で大いに嘆き、西領総領エドワードはこの親友を慰めた。

 

 北領総領ダニエルは娘を「無菌室の姫」と呼ばれるようになるほどに隠して、皇子妃に不向きな「これといって特徴のないおっとりさん」に育てた。


 そしてダニエルは領主になった後、嫡男カールとエドワードの娘マチルダの婚約締結のついでに、この「これといって特徴のないおっとりさん」を皇帝アルバートの皇子たちに会わせてみることになった。



「大丈夫! ウチの娘、絶対『不合格』を勝ち取ってくるよ」


 北領領主ダニエルは変なところに自信満々だった。


 私が何故そのことを知っているかと言うと、それが父の親友だった北領領主ダニエルから貰った最後の手紙だったから。


 父はその手紙を握り締めて号泣していた。


 妹が駄々をこねなければウェストリア家だって危うかったのに……



 妹のマチルダは、北領領主が『不合格』を貰いたがっていたアルバートの長男が好きだった。

 名前はルイス。私の幼なじみだ。


 父はマチルダが熾烈な競争を勝ち抜いてルイスの妻になれるならそれでいいと思っていた。

 一方で、ルイス争奪戦が本格的に始まる前にカールを見せて気に入ればどっちかと言えばそっちがいいと思っていた。


 西領は姫を真面目に育てない。

 

 他領に出すことが多いから、西領の奥底はあまり教えられず、ただバカかわいがるだけだから「天真爛漫な純然たるお姫様」に仕上がるのが西領ブランドだ。


 お姫様といったら西領だ。


 私もその方が姫がトータルで幸せな人生を送れると思うから、娘が生まれたらそのように育てると思う。



「羨ましいな~。ウチも娘が『不合格』を貰った暁には『のびのびいたずらっ子なお姫様』に育てたいな~」


 これは北領領主ダニエルからの最後から二番目の手紙に書いてあった。


 何故、父がその手紙を私に見せたかと言うと、ダニエル亡き後、アレクシアを私の妻にと考えたからだ。


 婚約すれば引き取れる。


 親友の娘を「のびのびいたずらっ子なお姫様」に育ててあげたかったのだ。


 西領は、無難な令嬢を貰うことが多い。

 何ならおバカでも良い。

 少なくとも私はそういう子を好む。

 微笑ましくて、かわいいじゃないか?


 のびのびいたずらっ子なお姫様はその範疇に入る。



 但し、アレクシアはかわいくない。

 顔のことじゃない。


 性格に「かわいさ」がない。

 親は「これといって特徴がない」と思っているようだが、実際には「かなりのクセ」があった。


 見方によっては、けなげでかわいいかもしれないが、甘さが全くない。


 アレクシアが私の好みではないとわかっていた父は、手紙を見せて意図を説明し、私も承諾した。



 私とアレクシアは、北領領主夫妻が亡くなる2年前から知り合いだった。


 北領ノーザンブリア家は、北領と西領の国境付近に別荘を持っていて、夏は避暑に来た。


 私は一度だけ父に連れられて休暇中のノーザンブリア一家と会ったことがあるのだ。



 私はアレクシアの「模擬見合い相手」だった。


 アレクシアは帝室に嫁ぐことになっていたが、3人いる皇子の内、どの皇子に嫁ぐか決まっていなかったので、いつかはお見合いをすることになっていた。

 北領領主ダニエルの理想は「全滅」だが、最悪「皇太子妃」じゃなければ良いと考えていた。


 皇太子のルイスは私と同じ年齢で、私は彼の幼馴染で彼のことを知っていたから、丁度良い練習台だ。



 模擬見合い中、アレクシアはずっと世話係のカーナの足にしがみついて、無言で私を観察していた。

 この醜態は「不合格」を貰うにはまぁまぁ好評価だ。


 帝都育ちの姫や令嬢達はアレクシアと比べ遥かに早熟だ。

 妹のマチルダは、他家の子供に会う時に大人の足にしがみついたりしたことがないと思う。


 ご挨拶もお喋りもちゃんとできる。


 この点において、この姫はちゃんと「不合格」が貰えそうに見えた。


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