表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/169

マグノリア9

 カールの元で領主修行を積もうと考えていた私だが、翌年から帝立学園へ通うことになった。


 急展開でちょっと理解に苦しむところもある。


 全てはカールが帝室学園の中等部に潜入したことから始まっている。


 東領のミレイユ姫は、南領紛争が終結した後も、テーラ宮殿で保護されており、ルイスの婚約者かの如く振舞っているという噂が流れた。

 カールは、その様子を見るためにルイスの復帰後の初登校に帝都へ向かった。


 ルイスとミレイユ姫の様子だけではなく、その2人に対する周囲の反応を確認するためだ。


「私も高等部だけ帝立学園に通うことにした」


 カールは、ノーザス城に戻ったあと、自身の帝立学園の高等部への入学を決めた。


 カールが言ったのはそれだけだった。

 何があったのか分からない。



 兄君至上主義のアレクシア姫は自身も速やかに帝都に赴き、学園を密かに視察した。

 そして帝都にダミーの家、実際に住む家、緊急避難用のセーフハウスを買ってきた。


 仕事が早い。

 そしてこの姫は兄君のすることには疑問を呈さない。 



「兄様、学園は露払いが必要です。来年、わたくしが1年間在学いたします」


「そう。では、ルカとマギーは、アレクシアと一緒に学園に通ってくれないか?」


 ワケがわからない。

 北領兄妹のやることは、いつもワケが分からない。


 何故、妹が兄より先に入学する?



 もしかすると、アレクシア姫はカールが私とマギーを帝立学園に通わせたがっていることを察してそのように提案したのかもしれない。


 私は、カールに帝立学園への入学を勧められた。マギーも一緒だ。

 南領の再建において、ここで作った縁は後で役に立つだろうとのことだったが、私は辞退した。


 チャラチャラと学園に通うために3年もの時間を浪費するのは嫌だった。

 でも、私が辞退したせいで、アレクシア姫に私たちを先導させる羽目になって申し訳なく思う。



 春が来て、私は一年遅れ、マギーは学年通り、アレクシア姫は2年早く、年齢的にはチグハグな3人組がカールに先行して入学することになった。


 身分を隠して3人とも北領平民として活動することにした。

 アレクシア姫は隠密ごっこが大好きだから素で喜んでいた。


 かなり子供っぽい。


 私はリリィの「押して、押して、押しまくるのみ」戦法が功を奏して、入学前に滑り込むようにマギーとの婚約を結べたので、学園で少しゆっくりできることを心の底では喜んだ。



 アレクシア姫との学園生活は、衝撃の連続だった。


 入学式、講堂に入るとすぐにアレクシア姫扮するアルの両親役であるゴードンとカーナ、マギーの両親に北領敬礼を贈りたいと言うので、付き合った。


 3人で保護者席に向かって北領の軍式敬礼を贈ったので、少し周りの目を引いた。



 次に、ゴードンとカーナの隣に座るカールに南領式敬礼を贈りたいというので、戸惑った。


 カールは私より2才も年下だが北領での私の後見人なので、保護者として入学式に列席してくれた。

 妹の入学式を見たかったという理由もあるだろう。


 仕方がない。姫のワガママだ。

 姫の方でも兄君に単独の敬礼を贈りたいのだろうと、再び3人で南領式敬礼を贈った。

 カールは微笑みながらこなれた南領式敬礼を返してくれた。


 姫はカールの南領式敬礼を初めて見たらしく、破顔して喜んだ。


 その時点で、あの3人は何をしているんだ? とかなり目立っていた。


 北領総領であるカールを平民の保護者席に座らせただけでも申し訳ないのに、目立ってしまって冷や汗が出た。


 でも北領平民アルに扮したアレクシア姫はそこで止まらなかった。



「クリス」


 恐ろしいことに、既に入学生席に座っていた西領総領クリストファーを呼び捨てた後、ニッコリ顔を傾けてクリストファーの参加を促した。


 アレクシア姫とクリストファーが顔見知りだと知らなかったのでギョッとした。

 保護者席のカールは動じていなかったので家同士の繋がりがあるんだろう。


 クリストファーは、口元に笑みを浮かべながら呆れたように首を振って私たちに近づき、私の背中をバンバンと叩き、背筋を伸ばすように促した。

 マギーとアルには紳士の礼を取った。

 マギーは淑女の礼で、アルは北領敬礼を返した。


 クリストファーは、北領平民ルカにとっては雲の上の存在だが、南領総領マグノリアとしては従兄弟同士だ。私は馴れ馴れしくされても驚かないが、周囲はどよめいた。



「私の両親にも西領式敬礼を贈っていいかな?」


 クリスにそう促されて、王族・領主クラスの保護者席に座っている西領領主夫妻に向かって4人で西領式敬礼を贈った。マギーにやり方を教えておいてよかった。


 西領領主夫妻は号泣しながら敬礼を返してくれた。

 久しぶりに見る生き残ってしまった甥っ子の姿だ。

 元々涙もろい人たちだから、なんとなく予想はできていたけれど、目立ち過ぎだ。


 クリストファーは必死に笑いを堪えていた。

 いや、笑う場面じゃないだろう?



「ルイス」


 もう、次の展開は分かっただろう?

 クリストファーがルイスを呼び、ルイスが隊列に加わり5人で向きを変えた先はテーラ皇帝アルバート陛下と皇后ソフィア妃だ。


「では、帝国式で」


 ルイスも凄く嬉しそうでノリノリだった。


 この時には他の生徒も何が起こっているのか理解して、ルイスに合わせて両陛下に向かって帝国式敬礼を贈った。


 両陛下は立ち上がって笑顔で帝国式敬礼を返してくださった。


 壮観だった。


 皇子、公子達が学園に戻り、王侯貴族たちが保護者席に列席することができるまでの平和がやってきたことを感じることができた。


 実際には、平和も復興もまだ遠い。


 でも、アレクシア姫の妙なワガママのおかげで、暗い雰囲気を払うことが出来たのではないかと思う。



 平民アルはさも当然のごとくクリストファーの横に腰かけ、私とマギーもそれに続いた。


 入学式が終わった後も、さも当然のごとくクリストファーと並び歩いて共に西領領主の元に挨拶に行った。

 それに続いた私は久しぶりに伯母カメリアと言葉を交わし、マギーを婚約者として紹介することが出来た。



 その集団に合流したカールは、少年姿で短い髪のアレクシア姫の頭をわしゃわしゃっと撫でてやっていた。

 カールがアレクシア姫に触れるのを初めて見た。

 姫は本当に幸せそうにほっこりしていた。



 入学式の時点で、アレクシア姫とクリストファーは、アレクシア姫とルイスの関係よりもはるかに親しいことが明白だったことが、気に掛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ