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マグノリア6

 領主夫妻暗殺から3ヶ月が経ち、北領までの移動に耐えうるレベルまで回復したカールは、アレクシア姫を北領に連れ帰った。


「母上と私は、アリーの温もりにやられちゃってた。母上はアリーのために自分とお揃いの巨大なクマのぬいぐるみを買い与えたんだけど、私も強請って買ってもらった。寂しくて」


 ルイスは、リリィが憧れていたような完全無欠な皇子様ではなかった。

 好きな子と離れて暮らすのが寂しくて、ぬいぐるみを抱いて紛らわす人間臭い男だった。


 なんとなくだが、リリィはルイスの実態が想像と違ったとしても、それはそれで好きで居続けた気がする。



「アリーはノーザスに戻ったあと、ソフィアとルーイを恋しがって泣いていたらしいのに、1年経つ頃には私たちのことを忘れちゃっていたんだ」


「忘れちゃった?」


「母上がカールから聞き出したんだ。両親ではなくソフィアとルーイを恋しがって泣くのは外聞が悪いから、ソフィアとルーイは想像上のお友達だよと、複数の侍女が繰り返し言い聞かせたらしい」


「洗脳みたいなものか?」


「だろうね。でも、アリーは黒衣に執着しているだろう? あれ、母上と私の面影を追ってくれてるんじゃないかって、思っちゃうんだよね」


「アレクシア姫は、お母君のことも忘れていたのか?」


「忘れていたよ。でもソフィアはズルいんだよ。毎年、ご両親の命日にお参りに行って、商人ソフィアとして点数稼いでる。抱きしめて、手を繋いで、くっついて、そしてちゃっかりビジネスを仕込んで、師匠として慕われてるよ」


「お母君の方が一枚上手だな」


「一枚どころか、数枚上手だよ」


 

 アレクシアが黒衣のルーイの事を思い出すことで再びツラい思いをするぐらいなら、彼の事は忘れていいと思っている。


 その代わり、次に会う時は、最高の形で再会したい。

 そんな風に願っていた。



「今の話から君には汲み取れたと思うけど、アリーは彼女が生まれた瞬間から僕の妻になる人だから、手を出したら、容赦しないよ」


「それが言いたかったのか……」


 

 わたしは、きっとアレクシア姫に惹かれることはない。

 アレクシア姫の事を考えると、必ず妹たちのことが頭を過る。


 むしろ、ルイスのような存在がいるアレクシア姫が羨ましい。


 アレクシア姫はルイスに抱きしめられれば、きっと直ぐに彼の暖かさに気付く。

 記憶があっても、なくても、ルイスはアレクシア姫が大好きだ。

 きっと居心地がいいだろう。


 彼の声が、口調が、言葉が、いたわりと思いやりで満ちて、あふれ出ているから。


 私は今、アレクシア姫のおこぼれに預かって、とても癒されている。


 ルイスと共に南領で共に戦うようになって、彼の暖かさに少しずつ癒されつつある。

 でも、いつかは自分にとってのルイスみたいな存在が欲しいと願っている。



 南領紛争は終結までに18カ月を要した。

 敵は無国籍軍事集団で、最後までその母体と思しき組織は見つからなかった。


 宣戦布告もなく、ゲリラ的に都市を攻撃し、その政治中枢を占拠する。

 占拠した後、聖女と神官を攫って、魅了薬を作らせているという話だった。


 しかし、最初の3ヶ月が経った頃、それが「地下組織の仕業だ」と思わせるための作為的な行動であるように見えてきた。


 東領が軍を入れたがって、何度も帝室に申し出ているというのだ。


 今回、帝室がいち早く「皇太子」を入れて、軍事行動の主導権を取ったのも、その辺が関係しているようだった。


 ルイスは帝室の皇太子だから、4領の和平を脅かす原因を作るようなことは何も言わない。


 だから、カールに聞いてみた。


 カールはまず北領についての状況を教えてくれた。


 両親の毒殺を指示したのは、北領当主代行で、証拠も揃っている。

 黒幕は東領だと思われるが、証拠が弱い。

 証拠があったとして、今のノーザンブリア家では単独で東領に抵抗できない。


 東領目線では、北領自体は既に掌握済み扱いだが、帝室の公印決済になっているが故に完全に自由に操りきれないでいる。

 それでも北領自体は傘下に置いていると思っているから、北領が軍事攻撃に晒されることはない。

 

 但し、ノーザンブリア兄妹が目の上のたん瘤であることは間違いないだろう。


 アレクシア姫が現在準備している大粛清が成功すれば、現在の東領の子飼いである領主代行が力を失い、カールを取り込まざるを得なくなる。

 この場合、カールが成人する前に東領からミレイユ姫との縁談が来るのではないかと予想している。



 とはいえ、ミレイユ姫はずっとルイスに張り付けてきた姫で、現在はテーラ宮殿で保護されているので、今はまだルイス狙いだ。

 カールに縁談が来るとすればルイス攻略を諦めた時だろうから、緊急性はない。

 状況にもよるが、南領のマグノリア公子が生きていることが分かれば、そっちに縁談が来るかもしれない。


 東領の次善策は東都にいる嫡男シオンとアレクシア姫の婚姻だ。


 この場合、カールが邪魔者になり命が危なくなるから、アレクシア姫は断固拒否している。


 そもそも兄妹ともども命の保証がないので、帝室の皇太子の婚約者は辞退するしかない。

 その上で、帝室が自らの意志で空席にしているのであれば、カールにどうこうできる問題じゃない。


 正直、北領は現在、縁談どころではない。



 ノーザンブリア兄妹は大粛清に備え、領都ノーザスを出るときにアレクシア姫に分かりやすい「過失」を作った。


 カール出兵後の最初の朝議で既に「アレクシア姫の幽閉」に賛成の声が大きかったから、アレクシア姫の姿で北領に戻ったらすぐに捕らえられるだろう。


 北領を出るときは手元に置くつもりだったが、ルイスが帝国領で引き取ってくれて大変感謝しているという状況のようだった。

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