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ルイス後編10

「君の最愛の双子の弟の妹だが、私のことが好きだそうだ」


「ん? 『私の最愛』の妹でいいんじゃないか?」


「いや、君の『最愛の妹』だと、ダイアモンド姫になってしまうだろう? もう片方の北領の姫の方だよ」


 フレデリックとレイチェルに育てられている私とアデルのことを、「仲の良い義兄妹」と爽やかに解釈してくれる臣民が増えて悩んでいる。

 お行儀良くしすぎかもしれない。


 ちゃんと婚約者だと発表しているのに……


 クリスは、カップル認知してもらえなくて凹んでいる私を面白がってからかっているのだ。



「アレクサンドリア姫のことだよね? いつ出会ったの?」


「姫の14才の誕生日会に招かれた」


 北領領主暗殺阻止から、6年が経ち、私達は高等部へ入学した。



「そのために学園を休んでまでノーザスに行ったのか?」

 

「まぁ、カール卿の故郷を見てみたいというマチルダのつきそいだったんだが……」


 6年前は数か月に一度の頻度だったカールとマチルダ姫の魔術談議は、徐々に頻度を上げて、最近ではカールが修行で帝都に来る日は毎週デートするようにまで発展した。


 カールの方でも「妻にするならこの人がいい」と感じ始めたような雰囲気はあるが、恋愛に疎い男なので、婚約には至っていない。


 それでもゆっくりと順調に歩みを進めていると密かに喜んでいたのだが……



 マチルダ姫は悪手を打った。


 カールの家族にも自分の存在を知ってもらいたいと欲張って、アレクサンドリア姫の誕生日会のために北都ノーザスまで出向いた。

 この時、カールの妹のアレクサンドリア姫がマチルダ姫の兄のクリスを好きになってしまった。


 なんでも、クリスはダンスが上手いところが良かったらしい。

 アレクサンドリア姫は誕生日ガールの特権で、何度もクリスにダンスを申し込んで、もうクリス本人にも明らかにわかるレベルにぞっこんだとか。


 ダンスね……

 アデルは運動はあまり好きじゃないから、私も上手いのに全く意味がないんだよな~。



「で、クリスもアレクサンドリア姫のこと気に入ったの?」


「姫と私がどうこうじゃなくて、マチルダがカール卿と結ばれるように応援したい」


 サウザンドス家は一目ぼれしがちで、ウェストリア家は惚れるのに時間がかかる。

 

 マチルダ姫は母カメリア夫人に、クリスは父エドワード公に似た。


 私の祖父の妹皇女は、ゴリ押しでウェストリア公子と婚約を結んで、婚約者として3年ウェストリア家に居座ったが、なかなか両想いになれず傷心で出戻りしたら、追いかけてきてくれてようやくハッピーエンドを掴んだ。


 3年居座った後に、ようやく、だ。


 そして、切り替えスイッチが入った後のウェストリア家の男は、超絶執着男になるから、割と本気で怖い。



 エドワード公の時は、時戻しの後、アルバート陛下が長らくエドワード公に片想いしていたカメリア夫人に伯母の秘策「押しかけ女房作戦」を授け、3年ほどしたら、ラブラブ熱愛カップルが出来上がった。



 時戻し前のクリスの伴侶は、はじめからクリス個人を好きだったか不明だ。

 アデルが自分の影武者の一人、アンジェリーナ・マイルズ嬢を地下活動中のクリスの補助につけたら、二人して表に浮上してこなくなった。


 当時のアデルの話では、姫様大好きアンジェリーナ嬢は、「アレクシア姫」の秘蔵エピソードを聞きだそうとして毎晩クリスに付きまとっていたらしい。


 クリスが知っている「アレクシア姫」の話は、機密性が高い極秘事項ばかりだ。

 クリスがなかなか口を割らなかったから、アンジェリーナは割としつこく付きまとっているようだけど、クリスは拒絶はしていないとイタズラ顔でニヒヒと笑っていた。


 アデルは意外と縁結びが好きなお節介な性格なんだ。


 この令嬢はクリスの家に居座ったりはしていないはずだが、おそらく、毎晩、というのがミソなのだろうと推測している。


 アンジェリーナ嬢はトムの初恋の人でもあるらしいが、大人になってからはクリスがキッチリ隠し通して、私は顔を見たことがない。


 クリスは私のことを執着が酷くてキモいと呆れているが、最終的には君の方がもっとキモくなるんだぞ!


 モヤっとするが、まぁ、とにかく、クリスからの情報をアデルに相談することにした。



 **



「マチルダ姫の『魔術オタク』は、養殖モノです。でも、マチルダ姫の日々の学習の成果であり、努力の結晶です」


「クリスの『ダンス上手』は、天然モノだよ。ダンスが上手いっていうより、日々の魔法騎士の訓練によって育てられた運動神経がダンスに活かされているだけだけれどね」


「甲乙つけがたいですね」


 私は個人的にはカールとマチルダ姫を応援したいが、アデルにとっては弟と妹だから、どちらかに肩入れするのはムリかもしれない。

 


「兄妹で同じ家と結ぶというのはナシなの?」


「ノーザンブリア家は気にしないかもしれませんが、ウェストリア家はどうでしょうか?」


「じゃぁ、両方ともはナシですかって、聞いてみる?」


 政略としては二重になって、無駄と言うか、過剰と言うか、あまりよろしくないけれど、時戻し後の努力の結果、南領紛争も回避できたし、東領はトムとフレデリックが締めてるから安定している。

 非効率的な縁組になっても困らないと思う。



「なぁ、それ、本人の前で話すことか?」


「カールに聞かせているのは、危機感を煽るためです」


「アデルぅ、それも本人に言っちゃうの?」


「はい。カールに隠し事はしたくありません」


 いや、それ、恋人に隠し事をしたくないみたいな場面で使われる表現だよね?

 双子の弟に隠し事があってもいいじゃない?



「効果的ではある。アレクサンドリアが『ダンスが上手でかっこいいの!』と言う対象はクリス公子だけではないが、私が『魔法オタクで趣味が合うんだ』と感じる令嬢はマチルダ姫だけだからな。私からも父上に相談する」


「カール、それって、カールもマチルダ姫が好きってこと?」


「まぁ、そうだな」


 え?

 自分事じゃないのに、嬉しいかも。



「恋心の自己認識に繋がったのは素晴らしい成果です。サンデーがかっこいいと思う人はクリス卿だけではありませんが、サンデーがかっこいいと言った人の中でクリス卿のかっこよさは断トツですから、今回は本気かもしれません。油断しないで下さいね」


 んんっ?



「たしかに」


「たしかにって、何? アデルとカールは、クリスが断トツにかっこいいと思ってるの?」


「クリス公子はどう見てもカッコイイだろう?」


「男性からも女性からもカッコイイと思われる、爽やかな男らしさが素敵です」


 うんうんと頷き合っている双子を見て、猛烈に不安になったよ。


 アレクサンドリア姫の伴侶としては合格ってことね?

 それだけだよね?



「アデル!? 何それ、浮気じゃないよね?」


「浮気じゃありません。客観的事実です」

 

「え? じゃぁ、私と比べてどっちがカッコイイの?」


「ルーイ? ルーイとクリス卿は同じ箱に入っていません」


 アデルとカールが同時に眉をひそめて、こちらにジト目を向けてきた。

 そっくりだ。


 いや、今は、それどころじゃない。



「箱? 何のこと? ちょっと、それ、私の方が好きってことで、あってる?」


「私はこの辺で失礼するよ。ダイアモンド、健闘を祈る」


「カール、わたくしもカールの健闘を祈ります」


 カールとマチルダ姫の婚約は、この後すぐってわけではなかったけれど、二人の高等部入学前には決まったから、かなりスムーズに進んだようだ。嬉しい。


 アレクサンドリア姫の方は、クリスじゃない方向で、大波乱が起きて頭を抱えた。

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