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ルイス後編9

「ルーイは、私の代の時戻しの前は、リリィ姫と仲が良かったんだ」


「ん?」


 カールとマチルダ姫のお見合いが上手く行かなかったことについて気をもんでいたら、フレデリックから思いもよらない言葉が飛んできた。



「君の代の時戻り先がもう少し遅かったら、兄さんはリリィ姫を初等科のオープンキャンパスに招待していたと思う」


「なっ」


 そう言われてみれば、リリィ姫が何かの折に私の顔を見て、初等科に入学すると駄々をこねたんだったっけ?

 前回はその時期からリリィ姫とミレイユ姫が「皇太子妃の座」争奪戦を始めたのだ。



「兄さんはソフィアがもぎ取ってきた君とアレクサンドリア姫の婚約に反対だった。君はリリィ姫に出会えばまた好きになるかもしれないと心配していたんだ……」


「私の知るリリィ姫は宮殿のプライベートエリアにズカズカ入って来るので、苦手でした」


 時戻り前に来客を庭園や居住区の談話室で迎えることで、リリィ姫やミレイユ姫に入り込む余地を与えていたのは、私に政略結婚以外の選択肢を与えるための陛下の配慮だったのかもしれない…… 


 無論、今は、来客なんて殆ど受け付けないし、受け付けるとしても私達が迎賓館に足を運ぶようにして、プライベートエリアの門も扉もキッチリ閉めている。


 時折、クリスとまったりお茶を飲んでいた時間を懐かしく感じることはあるけど、一人入れるとなし崩しになるから止めてる。



「当時、リリィ姫しか生まれていなかったから、唯一の幼馴染にフレンドリーに接していただけかもしれないけれどね。時戻りの前には聞いてない? 君は私の時戻りの前と後で同じ人物だが、別人みたいだ」


「同じ人物だけど、別人みたい?」


「私はむしろ時戻りの前と後で生まれた子は別人だと思って別の名前を与えたんだが、同じ人物だった。だけど、表に出ている性格がかなり違うって感じかな……」


 アデルと私の子供達もまた同じ子が生まれてきてくれると期待していいだろうか?

 


「?」


「プカプカ浮いているアデルと暮らすうちに君はお兄ちゃんっぽくなった。『だっこ』と言うから、抱っこして欲しいのかと思ったら、抱っこしたいという意味だった時は衝撃だった」


「幼児だった頃の事は覚えていないんです」


 残念過ぎる。


「君はアデルの影響で歩き始めるのも早まったし、喋り始めるのも早まった。それにおしゃべりな子になった。よくプカプカ浮いているアデルを捕まえて、しゅきしゅきだいしゅきって頬ずりしていたし、愛情表現も豊かになった」


「ああ、赤ちゃんの頃のアデル、かわいかっただろうな~」


「ふっ。プカプカ浮いている時のアデルはずっと目を閉じていたんだけど、顔に触れられると目を開けるんだ。君はそれが凄く好きで、ほっぺにチュッとしては、ニコニコしながら目が開くのを待ってた」


「それは途轍もなく幸せな子供時代ですね」


「4才の時には離れて暮らすようになったのに6才で『時戻りをつかいました。アデルを手元に置きたいです』と言っていると兄さんから聞いたときには、心底驚いたし、私達の記憶には残っていない君たちの物語に興味が湧いたよ」


 極甘の恋物語を想像していたのかもしれないが……



「アデルとカールの悲惨な幼少期の話しかなくて心苦しいばかりです」


「君のせいじゃない。でも、もう分かるだろう? もし君が時戻りの前に好きだったからという理由でリリィ姫を押し付けられたらどう感じたか……」


「闇落ちしたでしょうね。つまり、カールは今回マチルダ姫じゃない人を好きになるかもしれないが、それはそれで幸せになればよいということですね?」


「その時々の状況と出会う人によって、誰と親しくなるかは異なってくるから、飽くまで本人の望むようにしてあげないとね」


 ふむ。

 記憶を持っている私とトムは、カールとマチルダ姫の睦まじさを知っているし、彼らの子供達とも会ったことがあるから、どうしてもその記憶に引きずられてしまう……


 どうもモヤモヤするが、とにかく、過干渉はしないように心がけることにした。



 ルカやクリスの縁談も同じ感じになるかもしれない。

 ルカは南領紛争直後、クリスは東領紛争中にそれぞれ伴侶との出会いがあった。

 

 今回、二つの紛争を回避できれば、元の伴侶に出会えない可能性もある。


 もしかすると、帝立学園で出会うにしても二人とも元の伴侶とは学年が違うから以前と同じような出会い方はムリだ。


 マイクロフトに至っては、伴侶の方が5才年上だったから、学園でも出会わない。


 どう思う?


 一度ぐらいは顔を会わせる機会を作った方てあげた方がいいよね?

 それすらも余計なおせっかいだろうか?



 **



 カールとマチルダ姫のお見合いの後、アデルはリリィ姫のお茶会に招かれた。


 マチルダ姫がテーラ宮殿で暮らすカールの双子の姉アデルと親しくなるためだ。


 マチルダ姫の方ではカールが気に入ったということだろう。



 アデルをウェストリア家に招けば、アデルをクリスに会わせたくない私がゴネるということは、一部では有名な話だ。


 クリスも知っていて、呆れている。


 それで、マチルダ姫は従姉妹のリリィ姫に南領の公邸に招いて貰ったのだ。

 ルカは領地だからオスはいない。



 8才にして情報通のマイクロフトによれば、リリィ姫は茶会に参加した令嬢を子分扱いするようになるらしい。


 そんな事態を防ぐべく、マイクロフトの仕込みで、アデルが南領公邸について30分も経たないうちに回収した。



「アデルぅ~。帰ろ? アデルぅぅぅ~。ね? 帰ろ??」


「アデ…… うゎーーーーん。ア、ア、うわーーーん。いや~~」


 これ、私じゃないよ。

 チビ皇子達だよ。


 茶会の数日前から、アデルが遠くに行っちゃうかもとか、トーマス兄様みたいにずっと帰ってこないかもなどとチビ皇子たちの前で匂わせておいたら、アデルが宮殿にいないことに気付いたチビ皇子たちがパニックで号泣し始めたので、間髪入れずに馬車に詰め込んで、南領公邸に追いかけたそうだ。


 帝室の馬車から降りてきた号泣する幼児たちに驚いた南領公邸のスタッフたちは大慌てでチビ皇子たちをアデルの元に案内した。



「姉様、ご令嬢の皆様、大変申し訳ありません。ダイアモンド姫は単独で出かけるのが初めてで、弟たちが心配してパニックを起こしまして……」


 マイクロフトによる仕上げの「ダイアモンド姫はテーラ家の宝」アピールが功を奏し、アデルはマウントを取られる間もなく宮殿に戻ってきた。



 **



「『魔術は想像力だ』なんてフワッとした教え方では、習得できる人間が限られてしまいます。広く普及させるためには、理論立てて誰にでもできるように()()しなければならないというのが『魔術は理論だ』の真意なのです」


「なるほど。そういうことですのね? カール様に影響を与えた魔術理論の書籍をご紹介いただけますか?」


 3度ほど断って、ようやく応じた茶会では、マチルダ姫がアデルの好きな魔術の話でご機嫌を取った。


 アデルはご機嫌になって、カール攻略のヒントをあげた。


 マチルダ姫は、真面目な努力家だ。


 カールの興味関心分野について、かなり猛勉強した。


 一年ほど経った頃、アデルが絆されて、マチルダ姫だけテーラ宮殿に招いて、カールに会わせてあげた。


 カールは、時空魔法の訓練のために、週に一度、アデルが作ったノーザス城とテーラ宮殿の間を往来するゲートを通ってやってきては、泊って帰る。


 ん?

 不満じゃないよ。


 うん。

 不満じゃない。


 アデルを独占してはいけないんだ。

 うん、うん。



 1年ぶりに再会したマチルダ姫が、ちょっと魔法オタクっぽくなっていたことに興味をそそられたカールは、数か月に一度のペースでマチルダ姫とも魔術談義をするようになった。


 毎週、テーラ宮殿に泊って帰るのに帝都のことを殆ど知らないカールに帝都の観光地を案内した後、お茶をしながら魔術について話をする。


 それ、デートだよね?


 いいと思う。


 時戻し後は新しい人生を歩むべきだと頭では理解していても、カールとマチルダ姫が上手く行くといいなと思ってしまう自分がいる。

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