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カール35

 ルカとマギーの次に身を隠すのは、私とマチルダだった。


 これはマチルダが張り切って、殆ど一人で全てを手配した。


 せめてもの手伝いに、どこかへ行くときは必ずついて行くようにしたが、とにかくアイデアに溢れる女性で、あれやこれやと毎週末、楽しそうに雲隠れの準備を進めていった。


 準備の中には、私達の結婚式も含まれていた。

 マチルダの希望を全て叶えたら、驚くほど質素になった。


 式場はテーラ皇族が結婚式を挙げる由緒ある神殿だったし、お仲人さんも陛下と皇妃という豪華な顔ぶれだ。


 しかし、参列者を制限し、入場を許可したメディアもバリバリの保守系の新聞社が1社のみで、とにかく小規模に整えられた。


 戦場にいるダイアモンドやルイスは参列できなかったし、クリス卿も地下に潜ったまま。伯父一家も逃がした後だったから、本当に少人数でひっそりと執り行われた。


 わけがわからないのは、この結婚式の後、地味婚ブームが起きたことだった。そういう小さな結婚式を望む令嬢はマチルダの他にも一定数いたらしい。


 とはいえ、私たちの結婚式は、独占の新聞社が分厚い専用冊子を作って、ドレス、指輪、ブーケ、ベール、靴、メイクアップなど、こと細かに解説したことで、どこよりも地味だが、どこよりも有名な結婚式になった。


 お姫様の中のお姫様は、やることが違う。


 生い立ちのせいかオシャレ関心度が低めなダイアモンドとヴァイオレットは、その冊子を一冊ずつ貰って一緒に眺めて見たものの、他種族の生態を学ぶかのように遠くにとらえていたそうだ。

 

 むしろ、二人の恋人のルイスとトーマス殿下の方が熱心に読んでいたという。



 学園の卒業後すぐに結婚式を終え、ノーザス城に連れて帰った後は、ウキウキで雲隠れ後の身分や住居や身の回りのものを整えて、猛烈に楽しそうに準備していた。


 ウェストリア家にいた頃は、自分たちの命運を左右するような重要事項には関わらせてもらえなかったそうで、大仕事を任されたのが嬉しかったらしい。


 私は両親が亡くなってから、ダイアモンドやフレデリック様に頼り切りだったから、頼るのは得意だ。


 そういう意味でもマチルダとは相性が良かったんだろうと思う。

 

 英雄として戦死したアレクサンドリア姫の一回忌を終えた後、北領の執政をマイクロフトに引き継いで、ルンルンのマチルダに引っ張られるように、公の場から姿を消した。


 以降、私達は特に貧乏することもなく、穏やかで恙ない日々を過ごしている。



 **



 帝室一強制への移行の仕上げは、ウェストリア家のエドワード公とカメリア夫人だった。


 私が心配するまでもなく、アルバート陛下に西領公印を引き渡し、隠居した。

 特に雲隠れしたわけではないが、すっきりきれいに執政を降りた。


 ルイスが早めに帝位を継いで、アルバート陛下が西領の統治を引き継いだ。



 ルイスの皇帝としての最初の仕事は、一元統治制への切り替えと東西南北4領の全ての法規や制度を帝国法に統一する計画についての公式発表だった。


 ダイアモンドはテーラ家の居住区で暮しているが、表に出ることはない。

 ただ「ルイス陛下には最愛の恋人」がいるとだけ噂されるに留まっている。


 ソフィア妃も公務には参画していなかったので、似たような感じでのらりくらりしていればいいだろうと楽観しているようだ。



 **



「本当にいいのか?」


「もう4領主はいないんだ。こうすべきだろう。君こそ、いいのか? アルバート様は反対するだろう?」


「大丈夫じゃないかな? 父上はこの部屋には入れないから、気付かないだろう」


「そうか……」



 旧領主4家で相談の上、火水風雷の継承と救済の仕組みを終わらせることにした。


 方法は簡単で、魔王ウィリアムが作った魔道具を壊すだけだ。


 ルイスに頼んだら「壊すのは自分でやってよ」と言われ、テーラ宮殿内の継承者の部屋に連れてきてもらった。


 ノーザンブリア家の緑の部屋と似たような仕組みなのか、継承者に招待されない限り入れない部屋らしい。



「私は魔眼持ちじゃないから、どれがどれかわかんないんだ」


 その部屋の飾り棚には、3つのクリスタルが輝いていた。


 テーラ紋、特殊紋、火水風雷紋の魔道具で、クリスタルの中にそれぞれの紋が輝いているんだが、ルイスには見えないらしい。


「これだ」


「ふぅん。どうやって壊すの?」


「のみと槌でいけるらしい」


 のみと槌で壊せるが、のみと槌の両方が世界最高硬度のロンズデーライトで出来ている、ダイアモンドのお手製だ。


 これで砕けば魔法が解けるように作ってあると魔王ウィリアムが言っていたそうだ。


 ダイアモンドがいなければ壊す道具が作れなかったことを思えば、やはりこのタイミングで壊す運命だったように思う。


「とりあえず持って帰る?」


「そうさせてもらう」



 魔法時代の終わりの始まりだ。


 魔王ウィリアムの時代は、種族間の戦いの時代だった。

 人類は、他種族に勝つために魔法を鍛え、強い魔法使いが多かった。


 あれから133世代。


 魔法を使えない人が増えたし、必死で訓練する必要がなくなったことで、弱くなった。


 事実、私は生まれながらの雷紋の継承者ではなかった。


 フレデリック様の世代の「時戻り」の前、父は強い血を守るため雷魔法の名門の令嬢と政略結婚していたが、子が生まれなかった。やり直せるのであれば好きな人と結婚しようと、母と結婚した。


 母は名門、魔眼宗家の出身だが、祖母は魔法が使えなかったから、シールドだけの単属性だった。


 その結果、私とダイアモンドは父方からしか魔法を引き継がなかった。唯一、アレクサンドリアだけが2属性使いだったが、魔法は下手だし、威力も弱かった。


 母の血の影響だ。



 火水雷風の継承者は20年に一度選出されるが、「救済」を使えるほどの魔力を保持していない場合、有資格者不在となり、誰も選出されない。


 雷魔法は日常生活には使えないから、訓練する人が少ない。

 

 伝統の為に強い血を守っているノーザンブリア家ぐらいしか有資格者になれない。


 ノーザンブリア家は長子から婚姻を結んでいくから、基本的に最初の子の最初の子が生まれながらに継承者となるが、私は132代目で初めて、生まれながらの継承者ではない子として生まれてしまった。


 しかも、双子の片割れは、プカプカ浮いた魔力障害者だ。


 私は物心ついたころから訓練を始め、複数段階の魔力の底上げを経て、雷紋の継承者となったから問題ない。


 だが、母は自分を責めたかもしれない。



 マチルダは名門ウェストリア家の姫だったから、魔力も多く、私たちの第一子は生まれながらの雷紋の継承者で、マチルダを苦しめずに済んでホッとした。


 しかし、私たちの子が生まれたのは、選出の年の3年後だった。


 3年間も有資格者が存在しなかったという意味でもある。


 現状、雷の継承紋に関しては、ノーザンブリア家が魔力の多い血族と政略結婚を続けない限り、有資格者が生まれない可能性が高い。

 もしくは有資格者を誕生させるために、第2夫人、第3夫人と妻を増やさねばならない時代に入るかもしれない。


 しかし、そんなことをしてまで継承しなければならない時代ではない。


 雷魔法は存在しなくても、私達は恙なく暮らしていけるのだ。


 それならこんな仕組みは無い方がマシだ。



 風のウェストリア家は、有資格者が生まれなかったことが過去に数回発生したそうだが、さほど気にしていないようだった。


 火のサウザンドス家は、紋の継承にこだわりはないし、魔眼修行で紋を見えるようにすることもない。救済の仕組みに関しては、伝承が途切れていた。


 水のイースティア家は、水の継承者を出しにくくなっている。シオンが水の継承者なのは、膨大な魔力を持つテーラ家の血の影響だろう。

 今となっては、水の継承紋よりも紫色の瞳を重視する家柄だ。

 

 そういうわけで、この仕組みは無い方が良いと結論付けた。


 救済の仕組みは勿体ないが、使っても気付かないで、悪質な「大聖女様」を生み出してしまうのだから、やはり無い方がいいだろう。



 さて、これでルイス陛下の作る新しい時代を平民として眺め暮らす環境も整った。


 私、ノーザンブリア家133代目当主、カール・アリスター・ノーザンブリアは、輝く未来の到来を祈願しつつ、この辺で筆をおくことにする。



【おまけ】



「なぁ、ルイス。もし、君が『時戻し』を使うとすれば、7才ごろに戻すのか?」


「え? そんなに戻してしまったら、私、アデルに愛される未来を作れなさそうだからヤダよ」


 ルイスから継承紋の魔道具を貰った後、お茶をしながら、ふと気になっていたことを聞いてみた。



「しかし、陛下、じゃなかった、アルバート上皇は、戻すなら私とシオンの戦闘前が最適解だと考えていると聞いた」


「うーん。父上からは、戻すならミッキーが生まれた後にしてくれと懇願されているけど、私は時戻しは使いたくないよ。君、ゴリ押しで一元統治制を実現したのに、大ゴケすると思ってるの?」


「そうではないが、何があるかわからないだろ?」


「仮に7才時点に戻すとしたら、いろんな問題が解決されて、君たち一元統治制に変えようなんてしなくなるかもしれないよ? 折角作った新しい世界が続かなくてもいいの?」


 確かにルイスの言う通りだ。

 多くの不幸を経験したからこそ、一元統治制に変えようとするモチベーションが高まったのは事実だ。


「君は一元統治制に反対なんじゃなかったのか?」


「別に賛成でも、反対でもないよ。ただ、領主達のお陰で権力がいい塩梅に分散し、しかも、4領の当主一家が揃って民の安寧を第一義に掲げる世界は希少かつ貴重だから、勿体ないとは思う。でも、アデルと共に歩めない世界に戻るよりはこっちがいい」


 いつものことながら、凄い。

 ルイスは自分にとって一番大事なことが明確で、それ以外はどうでもいいという姿勢が徹底している。


「ふっ。全く苦労しないであの子とイチャイチャできるようになるかもしれないぞ?」


「いや、問題が全部解決してたら、アデルはノーザンブリア家の子に戻されて、一度も姿を見せてもらえないまま、生涯を終える可能性の方が高いでしょ? 出会うことすら出来ない危機に陥りそうで絶対ヤダ」


「そうか? それでも君なら何とかしそうだけどな?」


「今の幸せを手離して、おかしなリスクを取る意味ないよ。絶対ヤダ。だから、一元統治制だろうが何だろうが頑張って維持するから、心配しないでよ」


「ふむ。そうだな。楽しみにしてるよ」


 ルイスがこの調子なら、明るい未来が期待できそうだ。


カール編はどう考えても長すぎました。

反省です。


最後のルイス後編を4万2千文字以内、15話まで削ることにしました。


この作業の間、味変がてら別作品11話(10話完結、1話別エンディング)を挟ませてください。

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