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カール28

 ダイアモンドが「露払い」の名目で、男装姿で帝都の学園に通っていた年、私はノーザス城で大粛清の後始末や新体制の土台固めで多忙な日々を送った。


 この年、私は積極的に当時はまだテーラ第3皇子だったマイクロフトと行動する機会を増やした。


 共に地方の視察に出たり、科学に関係のない北領の施策について相談したり、ただの友人として乗馬やチェスを楽しんだり。


 マイクロフトは、ダイアモンド同様、「無菌室の皇子」なんて呼ばれるが、大体のことが卒なくできるし、かなりフットワークの軽い人物だということが分かった。



 ダイアモンドがウェストリア家のマチルダ姫を気に入っていて、私の妻にと望んでいることを教えてくれたのは彼だった。


 彼は口が堅い。

 だからこそ情報を漏らすときの効果は抜群だ。

 最終的に、彼の推薦で私の伴侶が決まった言っても過言ではない。



「カール? わたくしとミッキーのおすすめだから、マティ姉様と結婚した。で、待望のラブストーリーを終わりにするつもりではありませんよね?」


「バレた?」


「わたくし、楽しみにしているのです。ちゃんと書いてください!」


「しかし、実際のところそうなんだよ。『ウェストリア家のマチルダ姫』との縁談は領民に両親の死を思い起こさせる悪縁だし、顔が性悪の大聖女様になんとなく似ているだろう? 眼中になかったことを極力誤魔化して書こうと工夫しているんだよ」


「ふむ。でも、お嫌いではなかったのですよね?」


「好きも、嫌いも、なかった。それに、マイクロフトは、あの時点では君とクリス卿の相性が良いのではないかと推していてね。ウェストリア家の縁談はむしろそっちがいいんじゃないかと考えていた。いずれにせよ君の縁談はテーラ家の問題だし、わたしの縁談は君が遊びに来やすい兄嫁になるように君の好みそうな人を探していたんだ」


「ミッキーは、わたくしの為にルーイを推していなかったのですか?」


「最終的に私がマイクロフトをノーザンブリア家に迎え入れることにしたのは、彼がルイスの心棒者でありながらも、君のためにはクリス卿を推したことだ。最適解はクリス卿とし、ルイスには君の相手に相応しくなるべく更なる努力を求めた」


「ミッキーは、文通では手離しでべた褒めでしたよ? ルーイにどのような改善を求めたのですか?」


「ヤキモチ焼きすぎなのと、狭量さを治すこと」


「あー。なるほど。トミーはルーイに『兄さんも、一回ぐらい失恋すれば、その狭量さが改善するんじゃないの? アレクシア姫にフラれて反省しろ』と、言い放ったそうです。悪いところを指摘し合える兄弟って、いいですね?」


「君も私の悪い点を指摘してもいいんだぞ?」


「カールに悪い点なんてみつかりません。ふふふ」


「ふむ。君もかわいいしかない、な。きっと私達双子には悪い点を指摘し合う才覚はないんだろう」



 **



 翌年、私の学園生活の開始からまもなくシオンが正式にアルバート陛下の子と認知され、ノーザンブリア家の庇護下から離れた。同日、サウザンドス家のライラック姫もウェストリア家の庇護下から離れ、アルバート陛下とソフィア妃の後見の下、テーラ宮殿に引き取られた。


「ルイスが君をお姫様抱っこしちゃった日ね」


「はい。『ルーイを忘れたふり』が、ルーイを諦めさせるための陛下の作戦だったことが分かった日です。恐らく陛下が最終的にルーイに根負けした日でもあります」


「ふーん。君が陛下に怒ってフレデリック様とルイスを引き合わせることを決めた日でもあり、ルイスとソフィア妃が家出した日でもある、陛下の人生最悪の日だっけ?」


「自業自得です」


「因みにそれが私がルイスが実は君一筋だと気付いた日でもある。それまで3人ぐらい侍らせているのかと思ってた」


「え? そんなに遅くまで知らなかったのですか? マティ姉様に教えてもらったのですか?」


「いや、お姫様ごっこの後、学園が騒然となっていた。上から下まで阿鼻叫喚。学生たちの動揺が凄まじかった。それでルイスが潔癖なまでに女性との距離に慎重だということを知った」


「ふふふ。ルーイはモテモテでしたからね。それから、あの日は、カールとマティ姉様のお見合いの日でもありましたよね?」


「ふむ。あの庭園散歩は君の手配?」


「いえ。エドワード様とカメリア夫人です。カール。ちゃんと書いてくださいね!」


「ダイアモンド、目ヂカラ凄いことになってるぞ。やれやれ」



 更に同日の夕刻には、6年ぶりのノーザンブリア家とウェストリア家の会食があり、それは私と妻マチルダの見合いも兼ねていたそうだ。


 その時点の私はノーザンブリア家を畳む未来に気持ちが傾いていたので、ウェストリア家から妻を貰うなんて発想がなかった。



 マチルダは、入学初日から細々と私のフォローをしてくれた面倒見の良い女性だ。


 学園では私たちの学年の女帝のような存在で、西領の学生に限らず、多くの学生から慕われ、彼女が歩けば人がぞろぞろとついてくる近寄り難い存在でもあった。


「あちらから寄ってきてくれなければ、こちらからは近づけない存在だったよ」


「ふふふ。かっこいいでしょ? 英雄マチルダ姫」



 ウェストリア家の方針で、政治的なことや、各家の秘密についてはあまり知らされておらず、秘密に埋もれて暮らしてきた私からポロポロと零れる内緒話を目を輝かせて聞き入るかわいらしい面もあり、世話になっているお礼にと他愛ない範囲で裏話を漏らした。


 ルイスのパートナーとして夕食会に参加したライラック姫に対しては、いとこであるにも関わらず、あまり良い印象を抱いていないようだった。


 南領での不快な経験から、私個人はどうあがいても「大聖女様」が好きになれそうにもない。この日、マチルダと同じ価値観だと確認できたことで、安心して話ができる相手だとの感触を得た。



「うーん。単にライバルのライラック姫を蹴落としただけの様に思えなくもありませんけれどもね?」


「ははっ。君にも、そういう視点が、あったのか。マティは、偽者のミレイユ姫よりもライラック姫の方が私たちからの評価が低いことに首をかしげていたけれど、流石に理由までは教えられなかった」


「そういえば、カールはあの日、偽者のミレイユ姫のことを『帝室の侍女』と呼んだそうですね? 素で」


「南領紛争の後、ルイスの学園復帰を見学に行ったときは、自信に満ち溢れて姫っぽいオーラがあったのに、お姫様ごっこの頃は別人のように控えめだったからな…… 侍従と一緒にルイスの後ろをついて回る女性が『姫』だとか思わないだろ?」


「わたくしとクリスで大暴れして、かの方の自信をバキバキに粉砕してしまったかもしれません」


「でも、シオンが入学してからは、再び元気になっていたよ。それでも一つ上の学年の女帝は最後までマギーだったようだけどね」



 **



 夕食会の後、クリス卿は地下活動の為に姿を消し、ダイアモンドは北領の大粛清の残党狩りの為にノーザスに戻った。


 私はダイアモンドと入れ替わりに帝都に戻ったマイクロフトと街歩きをしたり、のんびり穏やかな日々を過ごした。


『あれは、姉様のカツラビジネスのショップですよ。【ウィーグ】という高級ブランドで、移民受け入れを支えた一番の収入源です。南領は紛争中で帝室の皇太子が命を賭して戦っているのにオシャレアイテムがバカ売れするなんて皮肉ですよね。僕は闇落ちしそうになりました』


 マイクロフト殿下は帝都にいる間は、ちょっと目線が斜めになるらしく、時折、笑えないことを言ったが、そういう闇の視点も持ち合わせている彼は、北領を任せるに足る人物だ。

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