カール27
大粛清で処罰されたことでダイアモンドに恨みを抱くようになった貴族達から守るため、テーラ家の兵力が残る南領にダイアモンドを逃がした。
ロイとユリアナと共に南領民の為の冬季食料の補給活動に従事させていた。
但し、ルイスがまだ南領にいたので、噂を聞けば間違いなく探す。
命を狙われている時期のダイアモンドを帝室の皇太子と共に置くわけにはいかない。
移民たちを宥め、マギーを追い払い、ルイスを陽動するための計を案じるしかなかった。
「ルーイが一身にカールの寵愛を受けていて驚きました。わたくしの頭に帝室皇太子との北領公子の禁断の恋物語が展開しました」
「なぜそうなる?」
「ルーイは、カールのピアスとカールの指輪を付けていました」
「え? そういう解釈? でも、指輪交換したんだろう? 将来の約束的な?」
「カールの『シールド』の指輪を回収して、ユリアナが孫たちのために作った『魅了防御』の指輪を渡したことですか?」
「なんだか言い方がロマンチックじゃないな?」
「ラブの要素はありませんが、ユリアナの孫愛に満ちていますよ?」
「ふむ」
ルイスは初動こそ騙されて南領から北領と帝室の領境までおびき寄せられてくれたが、マギーがナンチャン城に入ってすぐにダイアモンドを見つけてしまった。
このため、ダイアモンドを一旦北領に戻さざるを得なかったが、すぐにその後の計画を立て、北領から出し、男装で帝立学園に通わせることにした。
ノーザンブリア家は、帝立学園を軽視してきたわけではない。伝統的にも惣領は必ず帝立学園に通わせてきた。
しかし、私は自らの経験から、中央に顔を覚えてもらうことの重要性が身に染みていた。
イースティア家が乗っ取られ、偽者のシオンとミレイユ姫が幼稚舎の頃から帝立学園に顔を見せたことで、本物を表に出す為には力技が必要となっていた。
大聖女ライラック姫だって、偽者が磔になっても誰も見抜けなかった。
ダイアモンドに至っては、存在すら知られていない。
本物を守るため人物を偽装するのが当たり前になった世の中をどうにかするためには、徐々に本物を中央でお披露目していくしかなかった。
その第一歩がルカだった。
その時点でルカは、サウザンドス家の再興に消極的だったので、いきなりマグノリア公子として表に出すことはできなかった。
しかし、まずはルカという人物が存在することを中央で示し、将来的に必要となればルカがマグノリア公子だという真実を表に出せるように工夫した。
偽者のマグノリア公子の出現を牽制したのだ。
「クリスも協力してくれましたね」
「ああ、クリス卿が入学式で慣れ慣れしく接してくれたことで、ルカがウェストリア公子のいとこだということがいい塩梅に匂わせられた。偽者を投入しようとしても上手く行かないぞ、とね」
「アレクシア姫」の引き際も念頭に入れていた。
その時点では、学園で「北領近衛アル」と「英雄アリスター」と「アレクシア姫」が同一人物であることを匂わせ、顔を見せた後「アレクシア姫」を病死させ、アデレーン皇女に戻す流れが計画されていた。
そうすれば、陛下はルイスに「ダイアモンド姫」の存在を隠しきることが出来るし、「アデレーン皇女」は帝室の姫だから、ルイスやシオンのことも含め、フレデリック様がなんとかしてくれるだろうと考えていた。
「その時点では、アデレーン皇女は、魔力障害が酷くて表に出てこられない姫だったからね…… まさか、魔力障害が治るとは思ってなくて、顔を晒す計画にしたのは間違いだった」
「これもまた塞翁が馬。学園でうっかり『魔王』を召喚しちゃった後に、時を戻してもらったことがきっかけで、わたくしのプカプカが時空魔法だったことが分かるなんて、奇跡級の偶然です」
「魔王って、音楽の授業に出てくる歌曲だよね。魔眼を閉じずに曲名を書いちゃったのか?」
「よくわかりましたね! そうなのです。授業中はしっかり気を引き締めて魔眼ギュっ閉じで文字を書くのですが、授業後、教室を移動し始めてから先生が課題を出されて……」
「慌てて課題曲の名前をメモしたら、魔王が召喚されちゃったんだね?」
「はい。ウィリアムとの出会いです。でも、カール、その話の前にマティ姉様との出会いが書かれていませんよ!」
「ああ、それね。書くの? がっかりさせるのが嫌だから、ちょっと、ね……」
「ガッカリするとは!? 詳しく!」
「君、英雄マチルダの話、私にはしていなかったんだよ。君がマティを気に入っていると知らなくて……」
「知らなくて?」
「君の唯一の友人、ヴァイオレットを私の妻にしたら、君は喜ぶんじゃないかと考えていた。シオンに東領の統治権を取り戻させるために、シオン、ヴァイオレット、私の3人でイーストールに乗り込むような未来……」
「ええっ!?」
「北領の統治はあの時点で既にマイクロフトに任せても大丈夫そうだったし、伯父はノーザンブリアを畳みたがっていたし、乗りやすい流れだった。しかし、君がシオンのことを好きだったら、政略的に兄妹で同じ家と結ばれるのはナシだから、君に相談してからと思っていた。急ぐことでもなかったからのんびり構えていたが……」
「ルーイの学園復帰を見に行って、マティ姉様と運命の出会いを果たしたのではなかったのですか!?」
「運命の出会いって言われても、正直、マティのことはよく覚えていないんだ。あの時、私の立っている木陰の木の上にマイクロフトがいたんだよ。そっちが遥かに衝撃的だろう?」
「ミッキーは、カールとマティ姉様は会話が弾んでいたと言っていましたよ!」
「そう? その時点で私とマイクロフトは殆ど話をしたことがなかったから、マイクロフトに話しかけようか悩んでいたら、ルイスファンが寄って来てしまって追い払ったんだけど……」
「追い払った!? マティ姉様を?」
「そう。なかなか立ち去ってくれなくて、とりあえず自分がその場を離れて見せるしかなかった。ちょっとだけ時間を置いてマイクロフトと話をしようと思って、その場に戻ったら、近衛に木から降ろしてもらっていたから、私に見られたら気まずいだろうとそのまま帰った」
「マティ姉様とは、お互いに自己紹介をしたのですよね?」
「ああ、そうだね。サクッと答えたら、サクッと立ち去ってくれるかと思ったんだけど、そうでもなかった。令嬢一人追い払えないなんて、話術を鍛えようと心に決めたきっかけだね……」
「……」
「がっかりした? 今は、マティ以外は考えられないよ。でも、まぁ、その時点では、簡単に追い払われてくれなかった手ごわい令嬢だった」




