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カール26

「南領紛争はこのくらいでいいか?」


「そうですね。おじいちゃんたちの影響で、南領貴族の多くが家を畳んだことは?」


「ああ、それね。軽く触れとくか……」



 南領紛争中、中立の名門のご隠居達は、守護・防衛担当の私と共に行動することが多かった。


 この2家の掲げる「中立」は、平和的な響きがするが、その根本は「反権威主義」の一派で、身分制を廃して平等な社会を目指す政治派閥に属しており、この影響で南領貴族たちの多くが家を畳んだ。


「実際、身分制は、お金持ちに治安維持と社会発展の責任を負わせる制度で、貧乏な人達が無条件に社会インフラにただ乗りできる仕組みなので、身分制を廃してもお金持ちの足枷がとれるだけで、平民たちが想像するような『平等』はもたらされない可能性が高いですよね?」


「マイルズ子爵の教育論では、全ての国民に基礎教養を身に着けさせるような効率の悪い教育体制を確立しない限り、『平等』社会では貧富の差が拡大し、世の中は荒れるとされているな」


「仮に全ての国民に基礎教養を身につけさせたとて、ディストピア化が防げるだけで、ユートピアにはならないし、リスクが高すぎます」


「だから『反権威主義』の中で限りなくハト派な2家は身分制の廃止に非積極的な腰抜けポジションとして、派閥内で『中立』と揶揄されたのが始まりだった」


「単なるイヤミですね」


「しかし、それでも『反権威主義』の一派だから、『帝国主義』的な貴族達の勢力争いに巻き込まれず、自派閥からは腰抜けと何も期待されない状態で、富豪のまま脈々と100世代以上家を保ち続けただけで、気付けば絶大な『信用』を誇る名門になってしまった……」


「富の源泉が『魔眼宗家』と『鑑定眼宗家』という特殊技能ですからね。敵を作らないことで家が続いた分だけ名門ブランドが醸成されますね」


「しかし、娘が裏技を使って『権威』に嫁いだから、南領紛争では南領にいたというだけで政治利用されてしまった」


「グランパはたまには有名税も払わなきゃなと笑っていましたから大丈夫です」



 南領貴族たちは、元々、貴族としての責務に対し、蓄えられる富が少なく、身分から得られる旨味が少なかった。

 中立の名門のご隠居達の考え方に影響されたという理由をつけて、次々に家を畳み、資産をかき集めて北領へ移住した。


「サウザンドス家に不義理をせずに爵位を捨てるチャンスを逃さなかったという言い方もできるな」


「実入りが少なければ、爵位は足枷にしかならないのです。義理人情、正義感、忠誠心だけでよくそれまでよく持ちこたえたと思います。サウザンドス家は1都4領の中で最も徳の高い領主だったのでしょう」



 ルカも北領の研究区域の最新の技術などを学んだ人材が、将来、少しでも南領に帰ってきてくれればと、この動きを肯定した。



「ルカが『悪鬼アレクシア』の富国手腕と嫁入りについて言及した時、彼に嫁いでも君を大切にしてくれるだろうと感じたよ」


「わたくしは鼻が聞くタイプで、短期のお金儲けには向いていますが、サウザンドス家にとってのベストな政略は、ミッキーをライラック姫の婿養子にもらうことだったでしょう」


「マイクロフトは百年産業をいくつも作り出しているからな」


「北領に勧誘できて光栄です」


「今のライラック姫には絶対にあげたくないな」


「あんなにかわいい皇子様、他にいません。大事にしてくれる方に貰ってもらえてよかったです」


 この影響で、ルカがサウザンドス家を再興させたかったとしても、手足となって支えてくれる家がとても少なくなってしまった。


「北領は大粛清をして腐った貴族を追い出す必要がありましたが、南領は最初から新しい貴族を任命できる環境に仕上がっていたという言い方もできますよ」


「それは老害達に苦戦した私達の目線であって、ルカにとっては手足をもぎ取られたように見えたかもしれないからな」


「確かに」


「結果的に帝室から無爵の文官たちが投入されて、民主主義っぽい状態が続いたな」


「反権威派が好みそうな政治体制ですから、そういう戦略だったかもしれませんね?」



 一方で、朝議メンバーを御しきれているとは言えなかった私は、陛下の紛争終結宣言の直後にダイアモンドが起こした北領大粛清の報を聞いて、慌てて帰北した。


「心底驚いたよ」


「サプライズ、大成功!」


「ふざけすぎ」


「でも、もともとそういう予定だったでしょう?」


「全責任をテーラ家に負わせるつもりはなかった」


「汚れ役をテーラ家のみで執行することによって、カールに負い目を作って執政を続けさせるという陛下の作戦ですから、カールの意表を突く必要がありました」


「ああ。君が私に片棒を担がせてくれなかったことが、少し悲しかった」


「カールへ向けた愛なのに?」


「私に向けられた愛でも」


 北領貴族の4分の1が処罰対象で、死罪、投獄、領外追放のいずれかの罰を受けており、私の帰北と共に恩赦会議が始められた。

 これらの貴族たちは恩赦を授ければ、私への忠誠を強く抱くようになった。


 しかし、殆どは死罪を領外追放処分に減刑したり、投獄を領外追放に減刑する恩赦で、領の外に追い払った。



「裏を返せば北領貴族の4分の3は掌握済みだったのです。十分優秀です」


「その半分は君に従っていて、伯父の派閥や中立も含めれば、私の派閥は多くなかった」

「わたくしの派閥は、わたくしが『兄様至上主義』だったから従ったのです。カールの派閥の分派ですよ?」


「君は優しいな」


「優しさではありません。事実です」



 以降、北領議会は私の完全掌握下に置かれた。


 南領でノーザンブリア家の私兵として私と共に活動した北領正規軍の退役軍人たちも帰還し、正規軍の方に戻ったことで、北領正規軍も自ずと私の掌握下に置かれた。



「全てテーラ家にお膳立てしてもらって……」


「カール? もしかして、最終的に『帝室一強論』に傾いたのは、実力で北領を取り戻した実感が持てなかったからですか? それなら間違っていますよ?」


「違う。私がそういう世界を見てみたかったからだ。これだけの政治力を持つテーラ家ならいけると思ったんだ。試すには絶好の機会だろう? ダメだったら、ルイスの『時戻し』が残っているし」


「ミッキーもうっかりそれに乗っちゃったんですね?」


「意気投合したと言って欲しい」


「ふむ」



 ***



 私が新体制で執政を始めて最初にぶつかった壁は、マギーだった。


 マギーは、私が北領を離れている間に「アレクシア姫」の信者になっていた。もやっとしたが、まあ、よしとした。


 「アレクシア姫」の評判を良くするために影武者姿で奉仕活動を行っていたのも、マイクロフトが発見してダイアモンドが止めたから、これも、目をつぶった。


 大粛清の後、「アレクシア姫」の布教活動を始めたのは、「アレクシア姫」の引き際が更に難しくなって困ったが、そこまでは、まあ、なんとか、許す。


 しかし、いつまでも森から帰還しない「アレクシア姫」を心配して、影武者姿で号泣したのは、アウトだった。


 研究区域の避難民たちが「アレクシア姫」を心配して暴動を起こしそうになった。


「英雄アリスターの正体が、『アレクシア姫』だとバレていたのですか?」


「知っている者も多かったと思う。マギーの宥め方は『気付いても気付かないふりをするんですよ!』だった。味方はそれでいいが、敵方は『アレクシア姫』を探しやすくなるだろう? アリスターが帰還したら、暗殺の的になっただろう」


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