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カール22

「南領紛争前のことで、他に書いておいた方がいいことはあるかな?」


「そうですね…… シオンに武力権限を譲渡し始めたことでしょうか?」


「ああ、そうだね。シオンがガーネット離宮に常駐するようになったのは大きな変化だね」



 南領紛争前、実は東領から北領への侵攻が増えていた。


 敵が猛烈に弱く、北領議会の承認が必要な北領正規軍ではなくとも、ノーザンブリア家の兵力で制圧できるレベルだったので、議会権力の弱かった私は煩わしい手続きを避けるため、自家の隠密からジョセフ、ミミを派遣し、シオンはそちらについていくようになった。


 シオンが陛下の子供であることを知っていた伯父はこれを歓迎した。


 いずれ北領をテーラ家に明け渡すための引継ぎに丁度よいと考えていた。


 私は正直に言うと、どっちつかずだった。


 シオンは弟のようなものだ。


 ノーザンブリア家を畳む日が来れば、シオンが望めば彼も連れて身を隠す準備していたが、それが彼の為に良いかどうか判断がつかなかった。


 父はシオンを表に出す方向で、彼の為に東領を打ち取りに行こうとしていたほど彼を買っていた。

 私と共に名もなき「地方小富豪」にしてしまうのは良くないようにも思えた。


 一方、私がノーザンブリア家当主として北領執政を続けていく場合には、北領の爵位を授けてノーザンブリア家の家臣にすることになると思うが、彼の能力を考えるともったいない気がしてならなかった。


 基本的には彼が望む進路を支援したいと考え、軍行を学びたいのであればと、ジョセフとミミについて行くのを止めなかった。



「並行してテーラ家と親交を深めてもらうため、マイクロフトとシオンの文通を支援し続けていたことについてはどう書く?」


「そうですね。あれはミッキーとわたくしの文通ということになっていますし、わたくしの戦闘訓練の為に訪ねて行ったと書けばよいのではないでしょうか?」



「君がシオンにかなり迷惑をかけたやつだな……」


 フレデリック様とレイチェル様は定期的にガーネット宮殿にいるシオンの様子を見に行った。

 ダイアモンドは二人について行った上に、戦闘にも参加したいとワガママを言って、シオンを困らせた。


 シオンは水使いで、ダイアモンドは雷使いだから、共闘するには相性が悪い。


 濡れているところに雷が落ちて電気が流れると、被害が想定外に拡大するのだ。


 絶対に勝ちたい強敵を相手にするには最高の組み合わせだが、単に追い払いたい時や様子見の時には、強すぎて逆に戦いづらい。


 シオンは攻撃側の手に水を纏っているから自分に被雷したり、感電したりするのも怖い。



『アレクシアが雷じゃなくてシールドを使うようになったら連れて行ってあげますから』


 シオンはそう言ってダイアモンドを追い払った。


 これがダイアモンドの「魔法オタク魂」に火をつけた。


 アレクサンドリアは、父方から雷、母方からシールドを継いだ2属性使いだった。


 私とダイアモンドは、父母両方から雷魔法を引き継いだ雷単属性使いだから、シールドは使えなかった。


 でも、訓練すれば何の属性でも使えるようになると考えるのが「魔法オタク」なのだ。


 ダイアモンドは、悔しがって、シールド魔法を習得した。



「細かい話をすると、遺伝で顕性だった属性は魔紋回路が開いているから簡単に使え、遺伝で潜在性だった属性は魔紋回路はあるが閉じているので、回路が閉じた状態で、開くのに苦労する。遺伝で持っていない属性の習得はほぼ不可能、だっけ?」


「ええ。でも、わたくし、テーラ宮殿で水魔法による精神魔法の解除魔法をいくつか習得しました。水魔法として水を自由に操るのはムリですが、単独の術を繰り返し練習すればその部分だけ習得することができる場合もありますね」


「ふむ。それで、君は母方の潜在性遺伝の『シールド魔法』の魔紋回路を開くためにシャカリキに訓練したんだね?」


「潜在性遺伝の魔紋回路を開くために苦労したというか、サンデーのヘタクソっぷりを模倣するのに苦労しました」


「あー。そうだった。凝り性すぎてサンデーの魔紋で魔法を使えるようになったんだったね?」


「カール。サンデーのヘタクソっぷりを再現するには芸術的なセンスが必要なのです。わたくしには芸術の才能がないので、サンデーの魔紋を模倣することでヘタクソっぷりを再現する方が簡単だったのです」


「私だったら練習して上手になったふりをするけどね?」


「確かに、ただのこだわりです。でも魔法が上手だったらサンデーではない気がするのです」


「トーマス殿下と気が合いそうだ」


「こだわりの方向性は違いますけれどね?」


「ルイスにあげたピアスはその時の練習台か? 片耳だけで数千枚のシールドが入っていると言っていたぞ。潜在性遺伝の属性を開くにはそのくらいは練習が必要だったということか?」


「あれは、その時だけじゃなくて、ずっと練習を続けた結果ですので、使えるようになるまでの訓練量はそこまででもないですよ?」


「ふむ。きっと君はあれだ。魔法オタクにしか超えられない壁が見えないタイプだな」


「壁? 地道にコツコツ練習するだけですよ?」


「ふむふむ。君とマティが気が合う理由がちょっと分かった気がする。マティは毎朝、魔法剣の鍛錬をしているんだ。でも、歯磨きをするのと同じくらい日常の一部で、取るに足らない、言葉にするまでもないことだと話題に上らないんだ。すごく似てる」


「魔法剣!? かっこいいです!! カールはどうやって知ったのですか?」


「ダンスの時、足元がしっかりして、軽やかなんだ。驚くほどにね」


「くふ~っ。見たいです!」


「ん、頼んどく。じゃ、手記に戻るぞ」



 シオンは、シールド魔法が使えるようになったダイアモンドの戦いを見て愕然とした。


『カール様。アレクシアは危なっかしくて見ていられません。ちゃんとした訓練を受けてもらいたいのです』


 ダイアモンドは凝りに凝って、アレクサンドリアの魔法下手まで忠実に模倣し、シオンを困らせた。


『そう言っても、なぁ…… 北領の姫に魔術を教えたがる人はいても、戦闘訓練なんて誰も指導したがらないと思うぞ。危ないことはさせられませんとか言って』


 私は申し訳ないと思いつつも、適当に誤魔化してシオンに丸投げした。

 こういう時のダイアモンドの扱いは、シオンの方が上手い。



『アレクシア、シールドだけにして下さい。雷は禁止です』


『アレクシア、はしたなくへたり込むならもう連れて来ませんよ』


『アレクシア、当てちゃダメって、言ったでしょ? 威嚇するだけです。威嚇。それに貴方がた、逃げ足が遅すぎです。もっとキビキビと逃げなさい!』


『アレクシア、昏倒までです。怪我をさせてはいけません。キッチリ出力を落として! そして貴方がたは、丸見え過ぎます。それじゃぁ、ただの的です。腰を落として隠れて進んできなさい!』


 シオンのお陰で「アレクシア姫」の魔術は、戦場でも邪魔にはならない程度の技術に調整された。


 しかし、この時、敵まで鍛えられてしまった。


 美少女姿のイーストリア家の公子は、東領の民を傷つけることができなかった。


 この敵味方を問わず傷つけることを嫌うこの美少女は、いつしか「お嬢」という二つ名を貰い、東領からの襲撃者達に慕われるようになっていった。


 雇い主側はしびれを切らして、とうとう本気のプロ集団を送ってきた。


 それまでの雑兵との様子の違いに警戒した「お嬢」は、自軍を退かせ、敵の足元に水を撒いた後、足首の高さ辺りに無数の水球を浮かせて、自身にしがみついて「避雷針」の役割をしている「姫」に強い雷を地面に撃たせた。


 すると側撃雷で全員一撃で昏倒した。

 そして、敵方全員が足首に雷撃麻痺を抱えることになった。



『アレクシア、なかなかよいチームワークでしたね。チュッ』


 ジョセフからの報告では、ダイアモンドは一度しか褒められたことがないとのことだ。


 上級傭兵の集団を一撃で無力化する圧倒的な力の差を思い知らされた敵方は、それ以降、北領側に武装集団をけしかけるのを止めた。


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