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カール19

 ソフィア妃はダイアモンドと会う前に私と単独で話をしたいと強く主張し、近衛を一人だけ伴ってノーザス城に入った。


 その近衛が変装したアルバート陛下で驚いた。


 陛下とルイスは親子で流感に罹って寝込んでいることになっているとのこと。


 フレデリック様は、帝都の離宮に留まり、一緒には戻らなかった。

 実際には陛下が戻るまで代わりに執政を担っていたのではないかと思う。



 ソフィア妃は、北領貴族達から伯父ノアをストーカーして北領への立ち入り禁止処分を受けて、前科がついたソフィア・ソードンと同一人物だと思われている。


 伯父も、私も、その頃には生まれながらのソフィア・ソードンと、陛下と結婚するためにソードン家に養子入りしたソフィア・ブリタニーが別人だと理解していたが、誤解したままソフィア妃を忌み嫌う北領貴族の方が多いだろう。


 しかも、立ち入り禁止処分を受けているのに、テーラ家の威光を振りかざしてズカズカ入ってきたように見えて、心象が悪化する。


 領主の葬儀・埋葬の名目であれば、ぐっと堪えるだろうが、ふらりと遊びに来るような感覚で来北されると困るのだ。


「そもそもソードン男爵家に養子入りしたソフィア妃が悪い。名前も一緒なんて誤解されても仕方がないだろう?」


「学術系の家の令嬢はソフィアだらけです。『知啓』を意味する一番人気のお名前なのです。それにソードン男爵家は、学術活動に集中するために昇爵を拒否し続けた学術系の名門中の名門で、その行いもちゃんと理解すると悪とは言い切れないのです」


「知りたくない」


「そうですね。どんな事情があったとしても、犯罪は犯罪ですから。知っても同情でこちらの胸が痛むだけです」


 ソフィア妃の来北は非常に迷惑だったので、ダイアモンドに会わせた後はサクッと追い払おうと思っていたが、陛下を連れてこられてはきちんと事情を説明するしかなかった。


 陛下の愛人の子であるシオンについては、シオンの令嬢名「オードリー」に置き換え、「救済」については伏せながらも、それ以外は事実を報告した。



 陛下からも情報共有があり、ルイスは「アレクシア姫」が入水したと聞いて「自ら水に入るなんて、どんな環境に置いているんだ!」と怒り狂っていたらしい。


 「アレクシア姫」を攫ってテーラ宮殿に連れ帰ってくるならまだマシだが、そのままどこかに連れ去ろうとした場合に備えて、フレデリック様の監視下に置くことにしたらしい。


 ルイスは、そんなに苛烈な男にみえなかったし、ハーレムの一人にそこまで執着するなんて信じ難く、その情報をどうとらえてよいか判断がつかなかった。


「今振り返ると、本当にそういう行動を取りそうだと思えるから、怖いよ。あいつ」


「ハーレムの一人。ふふふ」


「その頃は、令嬢達を侍らすヤサモテ皇子だと思っていたからね」



 翌日、ソフィア妃とダイアモンドを買い物に出して、私は陛下と共にアレクサンドリア離宮に足を運んだ。


 準備が整ったらダイアモンドをそちらに移そうと考えていたからだ。


『シオンが「アレクシア姫」に「救済」を使いました。これ以上二人を一緒に置けば、ダイアモンドがフレデリック様の娘に戻る道が閉ざされてしまいます。もう一緒には置けません』


『フレデリックの代わりの執政補助はマイクロフトで良いか? まだ幼いから少し時間はかかるが、神童らしいから君の成人までには仕上がると思う』


『何故、マイクロフト殿下なのですか?』


『あの子は鑑定眼の訓練済みで、アレクシア姫の真名を知っているのに、私を含め誰にも漏らしていない。信頼できる子だ』


『この離宮には、離宮としては妥当な数の隠し部屋、隠し通路がありますが、それに加えて魔道具の実験設備、複数種類の金属溶解炉が整った状態で建造されました。両親がアレクサンドリアの相手として望んでいたのもマイクロフト殿下だと思います。縁談なしで来ていただけるのであれば、歓迎します』


 この時の話し合いで、マイクロフト殿下に執政訓練を施し、フレデリック様と入れ替えることが出来るようになったタイミングで、ダイアモンドを「アレクシア姫」から解任し、ダイアモンドを含むフレデリック一家をしがらみから解放することが決まった。


 それまでの間、ダイアモンドを暫定的にアレクサンドリア離宮で中立の名門ブリタニー家の庇護下に置くことになった。



「陛下の仕向ける技術は芸術的です。ソフィアは自分の案でロイとユリアナを北領に派遣したと思っていますし、ミッキーは学園に通うことを免除された代わりに帝室の科学部門の予算編成の補助をさせられたと思っています」


「どうやって仕向けるのか知らないが、気味が悪い」


「シオンについては、テーラ家についての知識を増やしてもらう活動の継続が決まりましたね」


「シオンを陛下と会わせてみたが『アレクシア姫』とルイスの婚約を解消することだけしか望まなかったようだ。彼が『アレクシア姫』と会えるのは、マイクロフトとの文通がらみだけにすることでしか、テーラ家に目を向けさせることが出来ないほど頑なに嫌っていた」


「将来的にミッキーが北領に入るのであれば、互いのことを知っておいた方が良いですからね」


「シオンもマイクロフトのことは気に入っていたようだね」


「そうですね。毎回楽し気に筆を走らせて返事を書いていました。ミッキーのルーイ賛美も凄まじかったのですが、シオンのカール賛美も負けていませんでした」


「あれは、君が褒めてくれていたんじゃないのか?」


「わたくしはカールを褒められるほどカールの近くにいませんでしたから、基本はパパがカールについての情報提供者でした。シオンは目を輝かせながら話を聞いて、嬉々として筆を走らせていました。パパとママはミッキーが記す実の息子の情報を楽しみにしていました」


「ああ、そういえば、あの頃はルイスからも季節ごとに短い手紙が届いていたよ。それで、季節に一回はダイアモンドに会いに行くようになったから、密かに感謝してる」


「週に一回のお泊りの日があった時は、必ず毎週おしゃべりできたのに、同じノーザス城で暮し始めてから顔を会わせなくなるのは不思議ですね」


「君がアレクサンドリア離宮に引っ越す前は毎日フレデリック様から君の様子を聞くことが出来たからね。毎日会えているかのような感覚だった。しかし、引っ越してからはマギーからの報告に変わって、聞くに堪えなかった」


「そのおかげでカールがお泊りに来てくれるようになったので、わたくしはマーガレット姉様に感謝しているのですよ」


「皮肉だな」


「塞翁が馬、です。ふふふ」


「マギーのことも書いておくか」


「避けては通れないでしょう」

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