表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/169

カール18

 水球に乗ったまま泉に突っ込んだシオンがダイアモンドを抱えて水から出てくると、急いで人払いをして、シオンとカーナによる心肺蘇生が始まり、奇跡的に生き返った。

 

 何らかの精神薬の影響下にあったと思われるが、ダイアモンドは前日の夜以降の記憶がない上に、大量の水を飲み、それを吐き出させた後だったからか、精神魔法は検知されなかった。



「シオンは君がシオン・テーラの個人印章に仕込んだ眩しすぎる『時戻し』を使って偽者のミレイユ姫も『救済』しているから、ここに君のために『救済』を使った事実を記載しないようにしようと思うがいいか?」


「カール。あの方のお名前は『メラニー』というそうですよ。ウィリアムの『時戻し』は使った実感が湧かないと言っていたので、わたくしの『時戻し』には光るエフェクトを入れてみたのですが、雷魔法使いにとって身近な光と言えば、稲光で……」


「眩しすぎて危ないから『時戻し』のエフェクトは改良の余地があるな。それにしても、継承紋の『救済』が小規模の『時戻し』だったとは、ね。あれは死んでいなくても発動するのか?」


「特定の言葉と共に十分な魔力を注げば対象の生死を問わず身体が12時間巻き戻ります。メラニー様は亡くなっていなかったのですか?」


「私はそこまで近くにいなかったから分からない。シオンは死んだと思ったようだった」


「ウィリアムの『救済』も生死は問いません。というか生死を検知するような魔法はまだ『命の灯』だけだと思います。それに、使用後に手の甲に魔素が定着して光るというエフェクトが付いているんですよ。ただ、昔ほど魔眼持ちが一般的ではないから、分かりにくいというだけで……」


「それに私やシオンのように子供時代に『救済』を使い切ってしまうような時代は想定されていなかったんだろうな」


「わたくしには『継承』の仕組みは作れませんが、単発で小さな対象の時間を12時間戻す魔道具ぐらいなら作ってお返しできるようになって、ホッとしています。しかし、駆動用の魔力は込められていませんから、やはり継承者クラスの魔力がないと実行するのは難しいでしょう」


「魔王ウィリアムの先祖返りは、チートだな」


「前にも言いましたが、理論的にはカールにも出来るようになることです。わたくしたちの魔紋は殆ど同じですから」


「ふむ。なんとも夢があるな。魔王ウィリアムが継承者に与えた『救済』でも身体が12時間前に時を遡るのであれば、『救済』後は、身体から精神薬が検出されない?」


「そうですね。精神薬を服用する前に戻ってしまえば検知できません。前日の夜からの記憶もありませんでした。でも胸に心臓マッサージの痛みが残っていましたので、心肺蘇生中に『救済』が使われたのではないかと思われます」


「ふむ。心臓マッサージと人工呼吸で生き返ったように見えたのも頷けるな。とりあえず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と書いたよ」


「ええ。それで良いと思います」


 犯人は分からなかった。


 二回目の襲撃について二人で私の元を訪れたゴードンとカーナは、北領の近衛にダイアモンドを預けたことを悔いた。


 北領の近衛は、お召替えの為に侍女たちに連れていかれたのをカーナが戻るまで止めるべきだったと悔いた。


 侍女たちはあれだけ喪服を脱ぎたがらなかった姫が、その日は少し抵抗しただけで水色のドレスを着たと喜んでいた自分たちを恥じた。


 ダイアモンドの報復指令の後、強い精神薬は出回らなくなった。その代替品として流通され始めた酩酊薬や魅了薬は、効果が弱い上に遅効性の場合が多く、いつ服毒したかわからない。



「ピーターソンのことは書かないのですか?」


「書いてほしいのか?」


 最も可能性が高いと思われるのは、おやつの時だ。

 侍女たちの話では、私の愛犬が吠えながら、ジュースを飲んでいるダイアモンドに覆いかぶさったそうだ。


 それで服がジュースまみれになって、お召替えが必要になった。


 飲み物に魔術系の精神薬が込められていれば、魔眼持ちのダイアモンドに検知できたはずだから、魔術系ではない化学物質系の酩酊成分が含まれていたのではないかと思う。


 魔術系のように相手を精神操作することはできないし、精度が低く効果が弱いことが多いが魔眼での検知が不可能だからバレにくいし、犯人が捕まりにくい。


 但し、化学物質であることで、犬には検知できるレベルの臭気が漂っていたのだと仮定して、犬たちの薬物検知訓練が始まるきっかけとなった。


「名前が出てきていませんよ。ピーターソン!」


「君、あの子が好きだよな」


「幼い頃のわたくしは移動が多く動物が飼えませんでしたから、ピーターソンに会えるのはお泊りの日の楽しみの一つでした」


「ノーザス城の迎賓館に住むようになってからは、毎日散歩していたそうだね」


「二足歩行訓練もピーターソンと一緒だと楽しかったのです。おやつの後にお散歩するのがわたくしの楽しみでした」


「私の愛犬なのに」


「はい。わたくしとピーターソンは、カール同担仲間です」


「君は犬側なのか!? それにまたおかしな言葉を…… マティ?」


「はい。マティ姉様はわたくしの世界を広げてくれるカールファンクラブの会長です」


「ふぅ。君はルイスに似てきたね。シリアスな雰囲気が崩れてしまう」



 **



 東領からの武装集団の入境については、正規軍を緊急出動させて迎え撃った後、ゴードンとミミを潜入させて調べさせた。

 東領の地下組織が新兵採用活動をしていることまでは分かったが、活動の中心が東都イーストールの貧民街で、育ちがよい二人は警戒されてそれ以上のことを調べることが出来なかった。


 武力としては信じがたいほど弱く、統率者もいないように見えるその集団が何のために北領に入境してくるのか分からないまま小さい村が襲撃を受ける状態がしばらく続いた。



 **



 ダイアモンドの入水の報をフレデリック様に伝えに行った帝室の近衛は、ソフィア妃の来北を告げる文を携えて帰ってきた。


 そのすぐ後に、陛下から信じがたい即信を受けた。



【ルイスがノーザスに行きたがって暴れたので投獄した。ソフィアが来たら、ソフィアとルイスを完全に忘れたフリで対応してくれ アルバート】


 会いに来たがった?

 暴れた?

 投獄!?


 混乱しながらもダイアモンドにも指示通りに動くように伝えた。

 

 これ以前に「ソフィアとルーイのことを忘れないで(ウソ)ね」という暗号付きのメッセージカードを受け取ったことがあり、フレデリック様とも相談して「ソフィアとルーイのことはあまり思い出さなくなった」程度の穏やかな引き方を進めていたが、完全に忘れたフリのレベルを求められたのは想定外だった。


「ダイアモンド、今日はもうダメだ。ルイスの名前を出したら、魔封じの腕輪をつけられて暴れている彼が思い浮かんで気合が入らなくなった。また今度にしよう」


「ふふっ。カーナに頼んで果物を剥いて貰います」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ