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カール14

 北領の姫は二人目のマーゴット姫以外、政略で結婚していない。

 父は自分の娘にも当然のように、恋愛結婚させるつもりだった。


 恋愛譚としては地味なストーリーが多く、一般受けしないが、北領臣民たちはそういうのが好きなのだ。


 姫がちょっとずつお相手と距離をつめて「いつのまにか好きになってた」に至る過程にキュンキュンするのだ。


 北領の姫は、子供の頃は「愛嬌がある」としか表現できないけれど、徐々に美しさが増し、年頃になると女神になるのが北領ブランドだ。


 ノーザンブリア家は、3代目サファイア姫の頃から、姫を平民として学園に通わせている。


 学年を変えたりして、正体を隠す工夫はするが、基本は平民に混じって生活する期間を作った。


 身分を問わず、姫が美しいとは言えない時期から姫個人を好きになって大切にするようになった男の子が姫を貰ってくれると臣民たちは大喜びした。


 北領は冬が厳しく臣民は巣籠もりするから、姫の恋愛譚は、多少ダラダラと長たらしくメリハリに欠けるぐらいが時間つぶしに最適だ。


 ちびちびと味わって読む恋物語だ。



 ノーザンブリア家としては、姫が学園に通っていることを匂わせると就学率が上がるという打算の上でその習慣を続けていた。


 恋愛結婚と言っても、相手は近衛の家の子や身分が平民でも上級魔術師の子だったから、絶対に親の方で何かしらの調整はしてると思う。


 それでも、ノーザンブリアの姫は、相手が好きなら平民の子でも嫁ぐという事実に変わりない。

 平民に嫁いでも違和感がないように、仰々しい宝石名だけではなく、普通っぽいミドルネームも与えられる。


 領内では、平民の子に嫁いだ3人目のサファイア姫と6人目のエメラルダ姫がツートップで人気だ。


 北領の姫は、北領文化であり、北領の至宝だ。


 そのことに一切の敬意を払わず婚約をゴリ押ししてきたテーラ家がノーザンブリア家に蛇蝎のごとく嫌われるようになってもなんら不思議ではない。



「カール。描写が嫌悪感に満ちていますね」


「ここからもっと酷くなる。でも、これが実際の北領側の視点なんだ」


「シオンはスミレ様の影響を受けてテーラ家嫌いでしたが、カールはフロンシーズ家の娘だった母様のブリタニー家の娘だったソフィアに対するライバル心が憎悪となって顕現したような考え方ですね」


「認める。だが、考え方は変えない」


「ソフィアがノアをストーカーしたところまではテーラ家とは関係がありませんよね?」


「そうだな。でも、誤解ですよと釈明するような手紙がノーザンブリア家に届くことはなかった」


「ノーザンブリア家だって抗議文を出していないでしょう?」


「いずれにせよ、姫人形を集めているのは、皇妃のソフィアだし、婚約のゴリ押しは完全にアウトだ」


「ふぅ。カール。今日はもうこのくらいにして、お茶にしましょう。一旦、離れて冷静になってから続きを書くことにしましょう」



 **



「そう言えば、ソフィア妃の要望でアレクシア人形の製作に協力したんだって? 不快じゃないの?」


「何故、不快なのですか?」


「君が人形だと思われているようで、私は不快だ」


「サンデーがわたくしを乱暴にお人形扱いするのとは全然違いますよ? あれは伝統芸のようなもので、光栄に思いましたよ?」


「光栄?」


 私が眉を寄せると、ダイアモンドは小さく笑った。


「ガーネット姫の美しさに心酔した芸術家系の貧乏子爵家の青年が初代プリンセス人形をお創りになったわけですが、それはもう精巧に出来た芸術品です」


「私もそのくらい知ってるよ。あまりに熱心だったのでガーネット姫が心打たれて夫婦になったんだったな? それで初代の人形は何体もある」


「ある意味ストーカーに絆されたのです」


「笑えない。最初の姫が帝都でその芸術家に心酔されて以降、ノーザンブリア家は姫を帝立学園の高等部に出さないことに決めた最悪の事例だ」


「それもあって2人目のマーゴット姫は政略結婚だった訳ですが、私の妻も負けないくらい美しいと自信満々でその時代の最高の芸術家にマーゴット姫人形を作らせたのです」


「その後の3代目からは、時代ごとの芸術家が過去の芸術家に挑む競争のようになっているそうじゃないか」


「だから素晴らしいのですよ。ソフィアのコレクションは時代ごとの最高の芸術家の作品を見比べることが出来るのです。どの時代も甲乙付けがたい素晴らしい作品で......」


「帝立美術館にガラスケースに容れられて展示されているんだって? 見世物になって嫌な気持ちにならないのか?」


「ルーイは『減る!』と言ってプリプリと嫌がっていますが、カールもみてみて下さい。今の時代の芸術家も素晴らしい技術ですよ」


 私は断固、観に行かないと決めている。


 ルイスに感想を聞いたら、顔をへにょりと歪めて、「猛烈に悔しいが、本当によく出来ていた」と吐き捨てる様に言ったあと、顔を赤らめていた。



 ガチャリ。



「噂をすれば、影が差すとは本当だな。お迎えが来たぞ」


「あら、ルーイ。今日は早いですね?」


「ちょっと、カール? なんでアデルに膝枕してもらっているの!? アデルの膝枕は私専用だよ! こら、離れてよ」


 ルイスは「離れてよ」と言いながらも、私が起き上がる時間も待てないといった風にダイアモンドを私の頭の下から抜き抜いて抱っこしている。


「書き物をしていて疲れたんだよ。騒々しい男だな、君は」


「へぇ~。何について書いていたの?」


 水魔法使いは便利そうだ。ダイアモンドを膝に乗せたまま魔法で湯を温めて自分でお茶を淹れ始めた。

 断りもなく勝手に。


 この男、どうも最近、ウチで寛ぐのに慣れすぎている感があるが、こちらも気を遣わなくて済むので、良しとするか……



「北領の姫についてだ。姫がブサイクな幼少期から心を通わせ、長年想いを温め合って結ばれることが多いという話だよ」


「ほぅ。じゃぁ、私は合格だね。3才の時にはアデルを抱っこして『しゅきしゅき』してたって聞いたよ」


 しゅきしゅきとは、頬ずりのことだと思われるが……


「……」


「……」


 彼が絡むとどうしてか物事が普通っぽくならない。


 臣民の好みはアレクシア姫とシオンみたいなちょっとジレジレする話だと口に出しそうになったが、止めておいた。


 絶対にろくなことにならない。


 私はソフィア妃もアルバート陛下もどうも好きになれないが、いろいろ特殊なダイアモンドをジレジレの余地なく「しゅきしゅき全開」で一途に愛してくれるこの男がダイアモンドの伴侶になることに異論はない。


 もうそろそろ「お義兄様、妹君をお嫁に下さい」とか言ってきそうなので、「アデルの保護者はフレデリック様であって、私ではないよ」と揶揄いながら気付かせるのを楽しみにしている。


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