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カール13

「あの談話室には仕掛けがあって、ミッキーとソフィアが話を聞いていました」


「あそこにいた?」


「そのようです。わたくしは隠密に聞かせて報告書を作成させるのだと思っていましたが、直接聞いていたようです」


「なるほどね。混乱したよ。君が私ではない誰かに聞かせたい話をしているのに気付いてからは話を合わせながら言葉を逆にした」


「伯父様の悪役願望を利用するのは心苦しかったのですが、わたくしがフレデリックとレイチェルの子供だと気付いていたソフィアがわたくしを北領に戻すことに断固反対したらしく、ノーザスに戻れるように陛下にお芝居を書いてもらいました」


「しかも、最悪の場合は、姿を消すと脅した……」


「言葉が逆になったことには気が付きました。『二人で逃げる』の逆だから、『二人で戦う』という意味でしたよね? わたくしも仲間に入れてくれて嬉しかった」


「仲間に入れるどころか、二人しかいないレベルの孤軍だよ。それから『一矢報いる』の反対で、腰を据えて『大局を変えよう』と言いたかった」


「あの時、カールが『帝室一強論』を担ぐと宣言したと理解して、驚きました。陛下に宣戦布告したようで……」


「君に考える時間を与えたかったんだ。テーラ宮殿に残りたいならそれでもいいよって。アルバート陛下にも伝わるだろうと知った上で、ね」


「陛下は嫌がっていますからね」



「陛下はあの時から君を私の補佐につけてくれるつもりだったのか?」


「いいえ。陛下はわたくしにテーラ宮殿に留まることを勧めました」


「君は陛下に反抗したのか?」


「大丈夫です。陛下は『権謀術数』のエキスパートですが、『自然に仕向ける』スタイルなのです。向かわせたい方向に進む環境を作っても逆行するものをムリに動かすタイプではありません」


「本人に自分の意思で行動したように思い込ませることが出来る範囲で操るってことか?」


「その技術に誇りを持っているのです」



「ルイスは…… 陛下に負けっぱなしで踊らされているよな。いつか勝てるかな?」


「ルーイは『負けた』ことを認識して、立て直しているのですから、陛下が仕向けた方向に流れてくれない強情な子です」


「シオンは上手く仕向けられてしまった?」


「後からそちらの方向の方が幸せだったと思えるような誘導ですから悪くありません。それも技術なのです」



「フレデリック様も同じか?」


「パパは、行かせたくない方向に目が向かないようにするスタイルです」


「当人は完全な自由を与えられたと思い込む……」


「こちらも素晴らしい技術です」



「ところで君、どうやって陛下と連絡を取っていたんだ? ずっとルイスが張り付いていただろう?」


「皇太子妃の寝室です」


「陛下が君の寝室に入ってきていたのか?」


「入ってきたというか、ソフィアを真ん中にして一緒に寝ていました。川の字というらしいです。ソフィアは寝坊助なので、朝から白湯を頂きながら陛下と情報共有をしていました。ミレイユ姫やマチルダ姫への対応も陛下と相談して決めました」


「は?」


「ソフィアは魔力無能者で非力ですし、女官達に舐められていましたから、わたくしと二人だけで寝ていたら不届き者に侵入されたりするかもしれないのです。陛下が一緒に寝てくれたら、恐れ多くて誰も邪魔しません。強いし」


「ん?」


「結婚したばかりの頃、ソフィアを一人で寝かせたら、部屋を寒くされたり、水浸しにされたり、お掃除してくれなかったり、意地悪されることが多かったそうです。だから、陛下は必ずソフィアと一緒に寝てあげるらしいです。最強のボディーガードです」


「そ、そう…… この辺りは、あまり文書に残さない方がいいな。うん。ノーザスに戻ってからの話に移ろうか……」



 **



「カール。その前に、ソフィアについての誤解を解いてください」


「誤解を解く。そうだな。でも、ノーザンブリア家にとっての真実を書くことにしよう。私達がどのように考えていたかを記さなければ、その後の行動の理由が理解されなくなるだろう?」



 ここで一度、北領と帝室の緊張関係について整理しよう。


 まず、北領と西領が帝室を好んでいるとは言えない状態が伝統的な基本状態だ。



 それに加え、当代皇帝アルバートは、娶った妃が最低最悪で、北領との間に深刻な緊張関係が生じた。


 帝国籍の男爵令嬢ソフィア・ソードンは、富豪の娘で、わがまま放題に生きていた。


 その世代で一番人気だった金髪緑眼のイケメン皇太子アルバートでさえ、適当な理由をつけて門前払いにしたツワモノだった。



 帝立学園の高等部に入学した年、ソフィアは運命の人に出会った。


 ノア・ノーザンブリアだ。


 彼はプラチナブロンドに水色の瞳の美公子で「優しいの塊」の様な穏やかな性格だった。


 ソフィアはノアに一目惚れして、ノアを追いかけ回した。


 ノアは故郷に子供の頃からの仲良しの幼馴染がいて、学園入学前に婚約を結んだばかりだった。


 無論、ソフィアには全く興味がなかった。


 それなのにソフィアに付き纏われ、学園で嫌な思いばかりをして、1年だけ通って、故郷に戻った。


 ソフィアはなんと、学園を辞めて追いかけてきた。


 凄まじい執念だ。


 ノアの父で当時の北領領主はソフィアを北領への立ち入り禁止に処した。


 ソフィアは北領でストーカーの前科がついた。


 ノアは名前を変え、家から出て、西領の第4都市で匿ってもらった。


 幸いなことに、ノアの婚約者はノアを信じてついてきてくれたので、彼は西領で静かに幸せな生活を手に入れた。


 ソフィアはノアの失踪の情報を聞くと、あっさり帝都に戻った。



 4年後、ソフィアは皇太子アルバートと結婚し、翌年第一子ルイスを生んだ(ことになっている)。

 

 そのまた2年後、ノーザンブリア家にアレクサンドリアが生まれた。



 ソフィアはその姫がプラチナブロンドで水色の瞳だと聞いて、アルバートが止めるのも聞かずに、ノーザンブリア家に婚約の打診をした。


 世界10大美女の中、6人がノーザンブリアの姫だ。


 ソフィアは「プリンセス・オブ・ノーザンブリア」人形シリーズ全6姫を保有している。


 ノアを見た時、ビビッと来てもおかしくない。


 史上7人目の北領の姫だ。

 美女になることは間違いない。


 しかも、ソフィアは人形じゃない本物の北領の姫が手に入れられる権力を得てしまった。


 こういうのを、神の啓示とか運命の導きと呼んでしまいたくなる気持ちは分かる。


 ソフィアは婚約を受け入れてもらえるまで何度でも打診する覚悟があった。




 祖父は、何度も断った。


 次男ノアを追いかけまわした罪人の子供に孫娘を嫁がせるなんて、考えもしなかった。


 しかし、この皇妃の実家は、向精神薬の標品でぼろ儲けしているソードン男爵家の娘だ。次代の皇子妃の1人が孫なら圧力をかけて規制を強めることができるかもしれないと考え、何度目かの打診の後、婚約を受けた。


 その事を知った父ダニエルは祖父の決断に腹を立てて一家で家出して、弟ノアの暮す西領に身を寄せた。


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