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カール12

 葬儀、埋葬の過程で、ダイアモンドはウェストリア家に伯父の保護を要請した。

 そして、意識不明の私はテーラ宮殿で保護されるように手配した。


「ウェストリア公とはどう連絡したの? 参列客と会う時はずっとソフィア妃とルイスと一緒だったんでしょ?」


「ゴードンは帝室の隠密ですから、ソフィアの目の前で伝言を託しても怪しまれませんでした。帝室の隠密を使って運ばせたわたくしからクリスへのメッセージは、最初の一文に人物名があれば、それが保護して欲しい対象という暗号なのです。アルバート陛下にも同じ内容が報告されるようになっています」


「つまり【犯人は伯父様だ】の場合は、伯父様を保護してくださいという意味?」


「そうです。わたくしがノーザス城に戻った時の伯父様は犯人なりたがりの廃人のようでしたから。保護を求めました」


「あのファミリー通信、最初の名前がエドワード公の時もあるよね? あれは?」


「アルバート陛下がエドワード公の暗殺計画を察知した時の注意喚起です。ゴードンを派遣して詳細を共有するための口実づくりです」


「なるほどね。東の森では【わたくし】、紛争終結後に【老人二人と子供一人】、学園に入る前に【かわいい方の妹】、学園では【北領平民アル】の保護を頼んだんだね?」


「はい。【かわいい方の妹】は、マティ姉様が学園で苦境に立たされているのを助けに行きたいという意味でした。そのために【北領平民アル】になるにあたって支援をお願いしました」


「それで、クリス卿を学園に出してくれたのか」


「クリスが暗号の意味を知っていたようには思えませんが、必ずエドワード公と相談して返信をくれましたから、暗号としては機能していました」


「それが必ず陛下にも共有されていたから、南領紛争時に西領の近衛達に南領平民の身分証が配布される時間が異常に早かったんだな」


「陛下とエドワード公はいとこ同士です。仲が良さそうには見えませんが、敵同士ではないのです。ただ、エドワード公は、陛下の道具のように使われているわたくしを憐れみ、テーラ家から引きはがし、ノーザンブリア家に戻そうとしてくれました」


「もしくは、ウェストリア家で子供らしく『のびのびイタズラっ子なアレクシア姫』に育ててくれようとしたんだな」


「わたくしはパパとママの子供として『のびのびイタズラっ子なアデレード』に育ててもらいましたが、エドワード様は実態を知らなかったのです」


「エドワード公目線では、アルバート陛下は10才の女の子にアレクサンドリアの個人印章を盗ませて、無差別報復の命を出させた鬼畜だった……」


「そのようです」



 **



 毒から回復してなんとか歩けるようになった頃、伯父が北領公邸まで私を迎えに来てくれた。


 私は日中は伯父のいる北領公邸に通うようになり、状況を整理して頭を抱えた。



 伯父の「犯人なりたがり」は深刻だった。


 ダイアモンドから、「伯父様といれば安心(ウソ)ですね」と聞いていたので、何か問題を抱えていることは理解していた。


 しかし、「帝室一強論」を実行するためにすぐにでもノーザンブリア家を畳めるように動いているとは、私の予想をはるかに超えていた。



 実は父は帝国一強論は諦めていた。


 代わりにシオンの為に、東領を取りに行く未来に備えていた。


 既に北領隠密たちの多くがその調査の為に、数年間に渡って精神薬関連の犯罪調査のために東領に入っていた。


 北領での精神薬被害の出元をたどれば必ず東領に行き着いたからだ。


 高価な物なので、購入者の殆どが貴族たちだったし、被害者も殆どが貴族たちだった。


 このため、潜入するにもいちいち紹介状が必要で、大変な苦労だったことだろう。


 正直に言ってしまえば、父上はシオンに肩入れしすぎていた。



 父の死後、シオンのための東領へ向けた挙兵は当面現実的ではなくなったから、これらの隠密達を速やかに北領に復命させる何らかの指示が必要だった。


 しかし、彼らにしてみればただ帰ってこいと言われても納得できない。ダイアモンドの報復指令は、調査だけで手を打つことが許されていなかった隠密たちには「正義の鉄槌」として受け入れられた。


 ダイアモンドは初手で隠密たちの絶大な支持を受けるようになった。



 一方、伯父は北領の隠密活動については何も知らない。


 信頼していなかったからではない。父にとって伯父が庇護対象だったからだ。


 伯父は政治家になるには優しすぎた。


 朝議の議席保有者だったが、ノーザンブリア家からは出すことで、荒波に揉まれないように程よく保護されてきた。


 ダイアモンドが発したような報復指令など絶対に出せないだろう。


 たった10才でも、ダイアモンドはテーラ家の第3位皇位継承者としての教育が施された政治のプロだ。やるべきことを執行する胆力があった。



 私は帝都滞在を少し延ばして伯父に全てを伝え、すり合わせを行わざるを得なかった。


 その頃の伯父は人生最悪の低迷期で、自分は罰を受けるべきだと渇望し、話が進みにくかった。


 ダイアモンドから救援依頼を受けたエドワード公は、伯父一家を保護しようとしてくれたが、伯父は家族だけマールへ送った。


 私が逃げないなら自分もノーザスに残ると言って聞かなかった。


 加えて、ダイアモンドをノーザンブリア家に取り戻すこと、北領を帝室管理にすること、シオンをテーラ家に戻した後に娘婿に迎えること、最終的には皆でマールに戻ることが、父の遺志だと、使命に燃えて私の話が耳に入らなかった。


「父様はお酒が入ると、本音をこぼすタイプだったらしい。ノアやエドワード様は父上の個人的な願望をよく知っていたようだよ」


「わたくしたちの理解と食い違いがあったのは、そう言う理由なのですね……」


「結局のところ、母様が作り出した虚構は、父様の願望でもあったんだ」


「もともと伯父様は『帝国一強論』には懐疑的な立場だったそうですが、完全に折れてしまっていたのですね?」


「そうだな。『ダニエル兄様のご遺志』に執着するようになった」



 その頃の伯父の耳に馴染んだのは「北領を帝室へ渡す前に北領と東領を掃除する」という引き伸ばし策だけだった。


 私はこのことをルイス皇太子に気付かれなようにダイアモンドに伝えるためにいくつかの暗号を試した。

 すると、アルバート陛下が二人きりで話す機会を作ってくれたが、帝室の隠密の耳を気にしてか、ダイアモンドが普段の率直な表現を使うことがなく、状況確認と意思確認ぐらいしかできず、本格的な相談は、ノーザスに戻ってからとなった。


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