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カール9

『チェスは兄さまとしか打ちません』


 ダイアモンドがルイス皇太子と遊ぶのを拒否した時、本当にギョッとした。


 どうやらルイス皇太子が精神魔法に掛かっていることにすぐに気が付いて、一緒に遊びたくなかったらしい。


 私達はそのことに気付かずダイアモンドを置いて外出してしまった。



「君の恐怖に気付いてあげられず、すまない」


「良いのです。あれはテーラ家の内輪に収めておくべき話でしたから」



 私は母と帝都でお見合いの準備の買い物、父は「中立」の名門、フランシーズ家とブリタニー家と別れて行動した。


 フランシーズ家は母方の祖母、ブリタニー家はソフィア妃の生家だから、テーラ家との党首会談が失敗に終わった時に、一時的に子供達を預かってもらうためのお願いだった。


 ここでいう子供達とは、ダイアモンドとシオンの2名だった。


 6才の時と同じで、それぞれ中立性に欠けるからと及び腰だったが、最悪の自体になった時には、シオンをフランシーズ家で、ダイアモンドをブリタニー家で預かってもらう同意を取り付けた。



 **



 宮殿に戻った後、ダイアモンドを迎えに行ったら、すっかり馴染んで、ルイス皇太子に寄りかかって眠っていた。

 プカプカせず、くっついていたから本当に眠っていたのだと思う。


 ダイアモンドは比較的長い期間共に過ごしたシオンの前でも寝落ちしたことはない。

 信じられない光景だった。


 キラキラ皇子ルイスは「最初は怯えていたけど、沢山ゲームしたら仲良くなれたよ」と、我慢強く遊んでくれたようだった。


 モテ男は忍耐強いということを学んだ。



 翌朝、話を聞いたら、「ルーイ」はまったく何も知らないようだったから、普通に遊んだと言っていた。


 どのゲームでも全く勝たせてくれない「ルーイ」の勝ちに対する真摯な姿勢に敬意を抱いたようだった。


 のんきだ。


 シオン公子や父のような棘やブラックさが一切感じられない平和的なジョークで揶揄うらしく、最初は揶揄われているのに気付けなかったそうだ。

 心優しいと感心していた。


 ダイアモンドが戸籍上のいとこだと知らないのに「家族呼び」を始めた慣れ慣れしいルイスにドン引きした。


 モテ男は心に入り込む技術が凄まじいと学んだ。



 二日目、私と母は引き続きお見合い準備の買い物で、父はエドワード様と北領公邸で互いの領の政治状況についての情報共有と緊急時の相互保護計画のすり合わせをしていた。


 ノーザス城内でダイアモンドが毒を盛られ、私が「救済」を使って生き返らせたことについても共有したと思う。


 ダイアモンドは、ルイス皇太子とソフィア妃と過ごしたそうだ。


「この日、ソフィアに『抱っこ』されて、わたくしがパパが宮殿で育てていたプカプカ浮いていた赤ちゃんだということがバレました」


「いきなり抱っこするなんて、無礼だな」


「女の子に冷めた目を向けていたルーイがわたくしを気に入ったと聞いて、疑いを持ったようです。でも、悪いことは何も起きていませんよ。味方が増えただけです」


「ルイスは3才の時には君を離したがらなかったらしいからな。11才になって何も覚えていなくても再び執着するなんて、テーラの男はキモいと言われる理由がわかるよ」


「ふふっ。確かにキモいですね。この時、ソフィアが持っている情報は少なすぎて『あの赤ちゃんがアレクシア姫だったのね!』と喜んだだけで、サンデーとわたくしが別の姫だとは気付いていませんでした」



 その夜、ダイアモンドにとっても、私にとっても想定外のことが起きた。



 テーラ家が帝室側の婚約者をルイス皇太子に決めたと言ってきたのだ。


 その時点で、陛下と父は、互いの真実を打ち明け合い、ダイアモンドをブリタニー家に、シオンをフロンシーズ家に預けて、時間がかかっても互いの妻に事実を受け止めさせてからそれぞれの家に戻すことが決まっていた。


 ダイアモンドをすぐにノーザンブリア家に戻しても、母はダイアモンドを「アレクシア姫」扱いして、シオンとの縁組を諦めないだろうという懸念があった。


 シオンはテーラ家を毛嫌いしていて、すぐにテーラ家に入れられたらどういう行動を取るか予想ができなかった。


 だから、双方一旦は子供達を「中立」の家に預けることで合意した。


 また、ルイス皇太子とアレクサンドリアの婚約については、片方の死亡により消滅することを相互に確認した。


 まったくもって婚約が前に進む場面ではなかった。



「つまり陛下はソフィア妃を上手く制御できないということだな」


「そういうところが好きなんじゃないですか?」


「うぇっ」


「カール!?」



 双方、自分の妻の精神状態を慮って、翌日は、婚約が継続する想定で、両家で「婚約発表時期」について話し合うことになった。



「カオスとはああいうことだな」


「ええ。カオスとはああいうことです」


「それに加えてルイスが君にベタボレしちゃって、混沌としていたな」


「ええ。混沌としていました」


「『今、それどころじゃじゃないんだよ!』と叫びたくなったよ」


「昔、シオンにも言ったことがありますが、世の中の恋物語は『今、それどころじゃないんだよ!』という時に始まるものなのです。あれがフラグだったとは、衝撃でした」


「はぁ……」


「ふふふ」

 


 3日目、大人たちが話し合いをしている間に、私はルイスとチェスを指した。

 ダイアモンドは観戦だ。


 前夜、母が大いに動揺していたので、ソフィア妃の前でシオンの話を出してしまわないか気になって、勝負についてはよく覚えていない。


 印象に残ったのは、ルイスが対局の途中であっても、侍女に命じてダイアモンドに水分を取らせたり、お菓子を選んで侍女にとりわけさせたり、細々と世話を焼く余裕があったということだ。


 モテ男は、目が行き届いているということを学んだ。



 何局か指した後、盤面を眺めながら何やらほわわ~んとしていたダイアモンドの手を引いてダイニングルームまでエスコートしていた。


 椅子を引いて、座るのを手伝ったり、小さいダイアモンドのためにクッションの高さを調整したり、細々と気を配ってお姫様扱いしていた。


 モテモテな理由に納得しかなかった。


 ルイスの争奪戦が苛烈な理由も納得しかなかった。


 ルイスが他の女の子にそんなことをしないということを知ったのは、学園に通い始めてからだから、その間ずっと彼のことを誤解していたということになる。

 何をしたわけではないが、申し訳ない気持ちになる。


「カールはルーイの調査書を読んだことがなかったのですか?」


「ないよ。君は知っていたの?」


「知っていました」


「じゃぁ、誤解を解いてくれたらよかったのに」


「そもそもカールが誤解をしているなんて知りませんでした」


「話題に上らなかったからね」


「ええ。話題に上りませんでしたね」

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