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カール8

『父様、何か変です。ダイアモンドの姿が見えないのに、ダイアモンドがくっついているんです』


 10才になったばかりの頃、私は剣術訓練中に体に違和感を感じた。


 それは心地よい違和感だった。

 だが、悪いことだった。


 ダイアモンドが見えないのに、ダイアモンドが私にくっついている時のほっこり感を覚えたのだ。


 不思議生物ダイアモンドがとうとう身体と魂を分離させてしまったのかと思って父様と共にお泊りに来ていたダイアモンドを探した。


 世話係が真っ青になって「姫様が血を吐いて、息をしていないのです」と駆け付けてきて、私は違和感の正体がダイアモンドの魂だと確信した。


『ダイアモンド、走るけど、しっかり私にくっついているんだよ』


 双子は痛みを共有するとか言うけれど、私はダイアモンドの身体の痛みはわからなかった。

 分かったのはダイアモンドの魂が身体から離れてしまった後、私に会いに来たことだけだ。



『ダイアモンド、自分の身体に戻るんだ。このままでは死んでしまう』


 私は「救済」を使ってダイアモンドを生き返らせた。

 それと知ってやったわけではない。

 ただ、ダイアモンドに生きていて欲しいと必死に願っただけだ。



「カール。わたくしの為に『救済』を使ってくれてありがとう」


「当然のことだ。あれはノーザンブリア家の守護力が足りなかったんだ。君が害を被ることになってすまない」



 **



 ダイアモンドは、血筋上はノーザンブリア家の姫だが、戸籍上も、実態も、テーラ家の姫だ。


 週に一度、雷魔法の訓練と言う名目で、生家のノーザンブリア家にお泊りに来るが、残りの6日間はテーラ皇弟フレデリック様と皇弟妃レイチェル様と暮している。


 実はテーラ家の継承権も持っている。

 しかも、ルイス皇太子、フレデリック皇弟に次ぐ第3位だ。



 テーラ家では、継承紋を持つ者が最優先で、それ以外は年長順だからそうなった。


 仮にフレデリック様が皇帝だったとして、ルイス皇太子、アルバート皇兄に次ぐ第3位で同じだっただろう。 


 トーマス第2皇子やマイクロフト第3皇子よりもテーラ家の継承順位が高い皇族が存在することは公になっていないが、実際そうなのだ。


「ルイスは君が皇女だとずっと知らなかったみたいだぞ?」


「テーラ家の長であるアルバート陛下が隠しているのですから、テーラ家に属するわたくしには教えてあげられません」


「難儀だな」


「ルーイとシオンの為だとしても、もどかしく思います」



 ダイアモンドのお泊りの日は、テーラ家側からすれば、週に一度、姫を習い事に通わせている感覚だ。


 ノーザンブリア家から見れば、私の「救済」を使って生き返らせたとはいえ、我が家でお預かりしていたテーラ家の皇女を一度は死なせてしまったことになる。


 父はフレデリック様とレイチェル様に謝罪し、週に1度のお泊りは中止することを提案した。


 フレデリック様とレイチェル様は、ホッとした様子で同意し、ダイアモンドを連れ帰った。


 そしてオルト村で3人でじっくり話し合い、翌週、驚くべき提案を携えてノーザス城を訪れた。


 相手が10才の女の子でも、きっちり説明して、じっくり相談する家風にもいつも驚かされる。


「どんな現実でも受け止め、前に進むのがパパの教育方針なのです」


「君が逞しいとか、ちゃっかりしていると言われるの、そのへんに起因してると思う。でもその教育方針の影響で、私も君に関する話し合いについてはいつも参加させてもらえた」


「母様とシオンは流石に呼べませんでしたが、カールがあの場にいてくれてよかった」


 提案の内容は、こんがらがったテーラ家とノーザンブリア家の関係を一旦スッキリさせることだった。


 ダイアモンドはノーザンブリア家に返す。

 シオンはテーラ家で引き取る。

 アレクサンドリアの死は公表し、ルイス皇太子との婚約は消滅させる。


 但し、ダイアモンドはアレクサンドリアの代わりではなく、ダイアモンドとして育てること。



 シンプルだが、誰も幸せにならない提案だった。


 ダイアモンドは、大好きな育ての親から離れなければならない。


 シオンは、彼がアレクサンドリアを死なせてしまったことと、そのアレクサンドリアが彼の命を救ったことを受け止めなければならない。


 母は、居心地の良い虚構を捨てて、アレクサンドリアの死に向き合わなければならない。


 父には考える時間が必要だった。


「カールは? あの時、カールは意見を保留しましたね?」


「ダイアモンドは、レイチェル様にしがみついて泣きながら、賛成するなんて、本音が隠せていなかったよ」


「悲しかったけれど、賛成でした。カールは、今でも言いたくないですか?」


「いや、正しいとは思ったけど、皆にツラい思いをさせることが分かっていたから、賛成はできなかった」



 フレデリック様は、「現状維持をするにしてもテーラ家の家長であるアルバート陛下と当主同士で話し合う時間を設けて欲しい」と言って、普段通りにダイアモンドをノーザンブリア家に一泊させてから連れ帰った。


 それでノーザンブリア一家は帝都へ出向くこととなった。


 私達の滞在先が北領公邸ではなくテーラ宮殿の迎賓館だったのも、陛下と父上が長時間密談しなければならないという背景があったからだ。


 この機に合わせて、万が一の時に私の保護を頼むため、ウェストリア家のエドワード公にも会うことになった。


【保護? もちろんいいよ。ところで、ウチのマチルダ、君の書面上の娘婿ルイス皇太子にお熱なの。でもそろそろ縁談とか考えなきゃいけないし、カールとお見合い練習させてもらえない?】


【お見合い練習会? ウチのカール、お触りダメだけど、それでいい?】


 私とマチルダ姫とのお見合いは、ノーザンブリア一家が帝都を訪れる表向きの体の良い理由付けにもなって都合がよかった。

 

 その頃、マチルダ姫は、東領のミレイユ姫、南領のリリィ姫と三つ巴で「皇太子妃の座」争奪戦を繰り広げていた。


 しかし、ルイス皇太子と結婚できるのは一人だけ。

 マチルダ姫は最も押しが弱い。

 舌戦を好むタイプでもない。


 そのうち争奪戦が嫌になって、独自路線を進むだろう時の為に、お見合いを経験しておくのも良かろうとの軽い提案だった。



 一方、ダイアモンドの方は、まさか皇子たちが「アレクシア姫とのお見合い」だと聞かされているとは思っていなかった。


 ダイアモンドの登記上の名前はアデレーン・テーラで、皇子達のいとこだ。

 この世のどこに()()()とお見合いをする者がいる?


 ソフィア妃も、皇子達も、何一つ知らないということが浮き彫りになった。


 アルバート陛下とフレデリック様は実の兄弟だが、子供の教育方針が真逆で、アルバート陛下は秘密主義のようだった。



 父は、テーラ家からの連絡を無視してダイアモンドに「お留守番のつもりでいてくれたらいいから」と伝えた。

 フレデリック様の提案を飲んで、全てを明らかにするつもりだったのだ。


 だから私がダイアモンドに伝えた。相手の皇子達は何も聞かされておらず、お見合いだと思っているよと、3人の紹介文を見せた。


【ルイスは2つ年上でモテモテ。トーマスは同じ年でもう好きな子がいる。マイクロフトは1つ年下で今のところ気立てがよい】


「驚いたよな。ルイスが2つ年上と言うのは、アレクサンドリア目線であって、私たち双子から見たら1つ年上だからな。あれを準備したソフィア妃が何も知らないことが明白なメッセージだった」


「はい。でも、ソフィアにはすぐにバレました」


「鑑定眼?」


「いいえ。ソフィアは魔力不能者ですから、鑑定眼は使えません。『だっこ』です。鑑定眼でわたくしの正体を見破ったのはミッキーです」


「秘密の守れるいい子だよな」


「はい。自慢の弟です」


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