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カール4

「そんな事実はありません」


「君は速やかに父様に『救済』された。だが、救済は一生に一度しか使えない。だから、父様はアレクサンドリアを『救済』できなかった……」


「カール。そんな事実はありません。サンデーが発見された時には時間が経ちすぎて魂が去った後だったのです」


「しかし、私はずっと魔眼修行に入れてもらえなかった。父上の『救済』使用済みの紋を私に見せないようにするためではないのか?」


「カール、わたくしの目を見て、しっかり聞いてください。そんな事実はありません。確かに父様の継承紋は輝いていましたが、わたくしたちが生まれる前に使った可能性だってあるのです」


「では何故私はその時のことを思い出せない? 君を殺してしまったことがショックで思い出したくないのではないか?」


「カール。わたくしが知っていることは、シオンの右腕を無力化したのがサンデーだったということです。わたくしやカールが潰していれば、シオンの腕が動くようになることはありません」


「アレクサンドリアは、シオンと戦ったのか?」


「戦ったという表現が適切かどうかは見ていないからわかりません。分かるのは、サンデーはシオンの右の手首を掴んで直接電撃を流したということです。シオンが魔法を行使するのを止めるためではないでしょうか?」


「アレクサンドリアはシオンと自分をショールで縛り付けて彼を抱きしめた状態で死んでいたと聞いた」


「恐らく水の中でシオンが感電死しないように、抱きしめることで雷を吸収してあげたのです。共闘訓練に忠実に従ったのだと思います。自分が溺れ死んでも離さなかったのですから、助けたかったのです。そして彼は助かったのです。喜ぶべきことでしょう」


「それで君はシオンの雷撃麻痺のリハビリを手伝ったのか? 君も彼を助けたくなった?」


「麻痺に関しては少し違います。わたくしはシオンの手首に残ったサンデーの魔紋を消したのです。魔紋鑑定に備えた証拠隠滅です。それがシオンの回復につながりました」


「何も覚えていない私には意見する資格はないけれど、アレクサンドリアの死は隠さないほうがよかった気がしている。整理しながら書き進めよう」



 狂化状態のシオン公子の右腕を無力化し、二発目の水を呼べなくしたのはアレクサンドリアだった。しかし、既に呼んでしまった最初の水はどうしようもなかった。


 アレクサンドリアは、シオン公子と共に洪水に巻き込まれ、私が乱発した雷撃を吸収してシオン公子を守るよう抱きしめながら亡くなっていた。


 母は悲しみに暮れ、正気とは言えなくなった。



「母様はシオンを恨んでいましたか?」


「最初は憎んでいた。アレクサンドリアは溺死だったから。でも、父様が口癖のように何度も何度も繰り返し言い聞かせていた。『恨むべきはシオンではない。子供たちに薬を盛った犯人だ』と。自分に言い聞かせているようでもあった」



 父は母の為にシオン公子を北領から遠ざけることにした。


 だが、シオン公子には行き場がなかった。


 東領領主スミレは、シオン公子を探し回っていたようだが、シオン公子から聞き出した服毒される頻度などから、母方イースティア家に帰せば命が無くなるからテーラ家で引き取りたいというのが、父方テーラ家からの要望だった。


 しかし、いきなりテーラ宮殿で引き取れば、イースティア家とテーラ家の間で子供を取り合う訴訟に発展する。


 シオン公子の心の健康のためにも、この衝撃的な事件の直後に更に出生の秘密を暴いて、泥沼の裁判の渦中に置くのは避けたかった。


 こういう場合、守護力が高く、信頼できる「中立」の名門である鑑定眼の総長のブリタニー家か、魔眼の総長のフロンシーズ家に一時的に預かって貰うものだが、どちらからも断られた。



 ブリタニー家は皇妃ソフィアの生家、つまり、シオン公子にとって父親の正妻の実家だった。


 自分たちは中立の立場でお世話したとしても、世間はそうは思わないだろうという断り理由だった。



 フロンシーズ家は、私達の母方の祖父母だった。

 こちらも孫娘の死の原因がシオン公子の水魔法だったから、ブリタニー家と同じ理由で受け入れを断られた。

 

 西領ウェストリア家の当主は、テーラ皇帝といとこの関係で、父方に近すぎた。


 南領サウザンドス家は、弱くて守り切れない。


 結局は、ノーザンブリア家に匿ってほしいという本人の希望の延長線上にあるフロンシーズ家を説得して預かって貰うことになった。


「グランパに代替わりさせてしまいました」


「そうだね。『中立』のフロンシーズとしてではなく、北領の姫の血縁として孫とその婚約者を預かったことにしてくれたね」


 この時点では、父と陛下の婚約当事者の変更に関する密約が生きていた。


 そして、アレクサンドリアの死は伏せられた。



 母は心を壊していた。


 父は精神薬を盛った犯人を皆殺しにするまで娘の死を認めたくなかった。


 祖父母はシオン公子の様子を見ながら自分の魔法で死んでしまったアレクサンドリアについてシオン公子に伝える時期を慎重に見定めるべきだと判断した。


 アルバート陛下は息子の心を守るため、できればこのことについてシオン公子が一生涯知らないで済むことを望んだ。


 出来るだけ早く皆で現実に向き合うべきだと主張したのは、ダイアモンドの養父母フレデリック様とレイチェル様だけだったそうだ。


 フレデリック様とレイチェル様にとって、ダイアモンドは父の子ではなく、自分たちの愛娘だ。ダイアモンドがアレクサンドリアを演じ続けるのを嫌がったし、娘に隠し事はしないと言ってダイアモンドにアレクサンドリアの死を伝えてしまった。


 私がアレクサンドリアの死を教えてもらえたのは、ダイアモンドと同等の情報を与えた方が良いと判断されたからだろうと思う。


 最終的には、ダイアモンド本人がシオン公子の前でアレクシア姫を続けたいと言ったことで、秘匿の方向で決まってしまった。



「アレクサンドリアが命を失ってまで守った子を守り通してあげたかったんだよな?」


「あの頃のわたくしはサンデーが生きていると思いたかったのです。シオンの前ではサンデーの代わりに全力で『アレクシア姫』を演じ抜きました。サンデーのように明るく、サンデーのようにちゃんと自分の意見を持って、サンデーのようにハッキリ言い切って」


「そうだな。それにシオンの前ではきっちりお姫様で踏ん張れていた。一度もプカプカ浮かなかったし、重さがないことも、文字を書かないこともバレなかったんだろう?」


「知らないふりをしてくれている可能性はありますが、自分ではやり通せたと思っています」


「ポヤポヤはバレていたけどね?」


「サンデーのチャキチャキは母様似で、カールとわたくしのポヤポヤは父様似です。そこはカールに似てると思われただけでしょう」


「私もポヤポヤ側か?」


「カールもポヤポヤ側です。大丈夫。人前ではキッチリ公子様で踏ん張れています」


「くくくっ」


「ふふふ」


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