カール1
カール編は総合解説も兼ねているので話数が多いですm(__)m
これは、7人目の北領の姫で、我が双子の妹、ダイアモンド・アデレーン・ノーザンブリアの真実の記録である。
「カール? 冒頭の一文に真実ではないことが、2つもありますが、大丈夫ですか?」
「ん? 今から説明するから、大丈夫だ」
妹は重度の魔力障害を持って生まれてきた。
そして、この世に生を受けた瞬間から、プカプカと宙に浮いていた。
「カール? ダメですよ。わたくしは、第一子です。わたくしが『姉』です」
「ノーザンブリア家は前王朝マール皇国の最後の皇太女アリエル様と魔王ウィリアムの血を133代脈々と受け継いできた由緒ある旧家だよ。古からのしきたりに従い、お腹の中から後から出てきたほうが長子なんだよ」
「ヘリクツ」
「ヘリクツではない。家法だ」
この子は産声をあげないばかりか、目を開かず、授乳も受け付けず、私の周りをプカプカと浮かぶだけだった為、すぐに衰弱し始めた。
そこで、その道の専門家であるテーラ家の第2皇子フレデリックの元に相談に行った。
「プカプカ浮いていたといえば魔王だから、魔王を封印したテーラ家に相談に行ったとは書かないんですか?」
「書かないよ。ダイアモンドが魔王だと誤解されるだろう?」
「カール。冒頭文の『真実の』は消したほうが良くないですか?」
「ダイアモンド、邪魔をするなら出ていきなさい」
「むぅ」
フレデリック様が妹に魔封じの腕輪をつけて魔力不能状態にしたところ、普通の赤ちゃん同様に振る舞い、授乳を受け付けることを確認した。
しかし、魔封じの腕輪はテーラ宮殿の中でしかその効果を発動できない。
妹はフレデリック様に引き取られ、アデレーンと名付けられた。
命名はフレデリック様によるものだが、彼はノーザンブリア家の子供たちが皆、「A」から始まるミドルネームを持っていることから、そのように名付けた。
フレデリック様には、この前年に第一子ルイスが誕生しており、赤ちゃんの受け入れ体制が整っていた事も幸いし、アデレーンは順調に育つようになった。
「カール? ルーイの出生の秘密まで書いちゃって、大丈夫ですか? ルーイはストレートにアルバート陛下の第一子として登記されたと聞きましたよ?」
「どこかのタイミングで養子に出されたんじゃなくて?」
「事情はパパの代の時戻りに関係しているようです」
「ああ、そうなの? じゃあ、後でルイスに表現法を確認してみる。『幼い頃、一緒に育った』とか、民が好きそうなエピソードだなと思ったんだが、秘密の暴露は良くないな」
「ルーイも、わたくしも、全く覚えていませんが、それでも民は喜ぶでしょうか?」
「どうだろうね。ルイス本人は大喜びしそうだが……」
翌年、2人目の妹アレクサンドリアが誕生した。
アデレーンの出生は発表されていなかったので、アレクサンドリアが7番目の姫として発表された。
そして、アレクサンドリアの生誕の瞬間から、帝室から祖父の元にルイス皇太子とアレクサンドリアの婚約が何度も打診された。
しかし、父もフレデリック様もこのことを把握していなかった。
祖父は何度か断ったそうだが、最終的には熱意に折れて、婚約は締結された。
父は怒り狂って、家族を連れて西領の第4都市マールで暮らす弟ノアの家に転がり込んだ。
テーラ家にはアデレーンを育ててもらっている恩があるが、騙し討ちのような形でもう一人の娘が奪われることがショックだった。
「北領の至宝を手に入れたいソフィア妃のワガママだったと書いてもいいか?」
「まだ根に持っているのですか? ソフィアはパパとママが育てている赤ちゃんも北領の姫だと知らなかったのです。北領の姫が一世代に二人も生まれるなんて誰にも想像ができなかったでしょう」
「君がノーザンブリア家で名前を貰う前にアデレーン・テーラになったことを差し引いても、アレクサンドリアを人形と同列にされて欲しがられたのが不愉快な事には変わらないよ。よし、書こう」
この婚約は抜き差しならない政治的な事情を背景に締結されたものではない。
皇妃ソフィアの個人的な所有欲求を満たすための婚約だった。
ソフィア妃は「プリンセス・オブ・ノーザンブリア人形」のコレクターだ。
本物が生まれたなら、手に入れたい、ただそれだけだった。
父はアルバート陛下に対し、強い不信感を抱くようになった。
もともと「ソードン家のソフィア」が伯父ノアに付き纏ったことが、ノアがノルディックに改名し、西領に匿ってもらう原因を作った元凶でもあったから、気持ち悪さが極まって、父はノーザンブリア家を捨てでもアレクサンドリアを守るつもりだった。
「カール。それは流石にダメです。確かにソフィア・ソードンという人物が、ノアをストーキングして、ノアが西領に逃げた原因ですが、それは『バイオ』のソフィアで、皇妃のソフィアは『物理』のソフィアです。別人ですから、書くにしても書き分けないといけません」
「他人を自分のものにするために強引で卑怯な手を使ったのは一緒だから、一緒くたでいい。それにかなり調べないと別人だと分からないような情報操作がされているじゃないか? 知らない方が自然だ」
フレデリック様は、このことを大変申し訳なく思って、アデレーンが魔封じの腕輪をつけなくても命を保てるようになってすぐに、妻のレイチェルとアデレーンを連れて、マールに移り住み、週に一度、私達の住む家に連れてくるようになった。
私達はまだ2才だったので、その頃のことは覚えていない。
この頃、アデレーンのお姫様名がテーラ家の至石「ダイアモンド」に決まり、ノーザンブリア家にいるときは「ダイアモンド」と呼ばれるようになった。
父はアレクサンドリアの件ではアルバート陛下を毛嫌いしたが、もう一人の娘ダイアモンドはそのアルバート陛下の弟夫婦に育てて貰っているという複雑な状況が出来上がった。
「ダイアモンドの略称モンディをひねってマンデーという愛称になったのですよね?」
「アレクサンドリアのサンディがサンデーになって、曜日のようで面白いとは思ったんだが……」
「皆が大好きなサンデーと、皆が大嫌いなマンデーですって」
「アレクサンドリアのジョークは、意地が悪いよな」
この名前が公表されることも登記されることもなかったが、ノーザンブリア家にとってこの子は「ダイアモンド」だ。
この記録は北領の姫の記録として書かれたものだから、以下、妹の名前はアデレーンではなく、ダイアモンドと表記する。
ダイアモンド・アデレーン・ノーザンブリア。
それが私にとっての私の双子の妹の名前だ。
たとえこの子が登記上は一度もノーザンブリア家に属したことがないとしても。
これまでのストーリーで、詳しく知りたいエピソードがあれば、コメントかメッセージを下されば、カール編に織り込みます。
お気軽にどうぞ。




